Mt Gox 騒動はビットコインにとって初めての金融危機

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ビットコインは果たしてこの危機から立ち直れるのか?

今回のビットコインを取り巻く金融危機から、消費者はこの謎に包まれた電子通貨にまつわるリスクを理解できたのではないだろうか。

今週火曜日に、今回の騒動を起こしたビットコイン取引所「Mt. Gox(マウント・ゴックス)」は突然すべての取引を停止した。ここ数ヶ月の間、Mt.Gox ではユーザーのビットコイン売買手続きが遅延しており、その健全性が問題視されていた最中の出来事であるだけに、ユーザーの不安は大きい。今回の危機の引き金となった本当の事由を説明するリーク資料が出回っている。その資料によれば、東京を拠点とするMt. Goxは巨額のビットコインを何者かに盗まれており、その被害総額は過去2年間でなんと 744,000 ビットコイン、およそ3億8000万ドルに相当するという。もしこれが事実なら、Mt. Gox が破産に追いこまれたとしても不思議ではない。

このリーク資料は、ビットコインの起業家ライアン・セルキスのブログで今週公開されたものだ。どうやら Mt. Gox の経営幹部に向けられた危機管理プランのようである。仮にこの資料が本物で、Mt. Gox が実際に盗難被害にあっているとすれば、世界で流通する全ビットコインの6%近くが盗まれたことになる。

こうした報道を受け、ビットコインは対ドル取引で暴落した。週初めには23%下落し、440ドルで下げ止まっている。その後多少戻し、この記事の執筆時には520ドル程度で取引されているようだ。Mt. Gox で取引が停止される直前にはビットコインの価格は150ドルを下回っており、おそらく売値を問わずに現金化を急いだユーザーのパニック売りが原因だと考えられる。

Mt. Gox は自身のウェブサイトに、非常に短く情報性に欠ける声明を公開している。

最近の報道とそれが Mt. Gox やマーケットに与える影響を考慮し、すべての取引を一時的に停止して我々のユーザーとサイトを保護するという判断を下しました。今後は事態の経過を逐一見守り、状況に応じた対応を行います。

瀬戸際に立たされたビットコイン

この一連の出来事で、ビットコインは創設以来始めての金融危機に陥っている。国家が制定する通常の通貨とは異なり、2008年のリーマンショックやその前の歴史的な世界恐慌で見られた政府の介入や救済措置はまず期待できないだろう。

とりあえず、状況を正しく把握しよう。現時点では未だ Mt. Gox の取引が停止された正式な理由が明らかになっておらず、これに付随するパニックはそれほど大きくないようだ。さらに最悪の事態、つまり Mt. Gox が破産して顧客の資産がすべて失われることになったとしても、世界が受ける影響は実に小さいのだ。電子通貨であるビットコインは、債権やデリバティブといった他の金融商品に比べれば単純で、2008年のリーマンショックのような複雑に入り組んだ問題は起こさないだろう。

しかしビットコインにとって本当のリスクとは、Mt. Gox の失敗が、規制が存在しない電子通貨システム自体の弱みだと見られてしまうことだ。ビットコインの先駆者たちは、今回の騒動は決してビットコイン自体の問題ではなく、あくまでも Mt. Gox のマネージメントに責任があるのだと指摘する。ただ他の取引所も Mt. Gox と同じように第三者による監査を受けておらず、決して透明性があるとは言えない。ビットコインの安定性や信頼性が、最近連発している盗難や詐欺事件によって揺らいでいることは間違いないのだ。

ビットコイン銀行の取り付け騒動

今回の Mt. Gox を取り巻く騒動は、過去にも見られた金融危機にそっくりだ。今回の騒動もまた、発端は焦った預金者たちによるものだった。

預金者が一斉に預金を引き出そうとすると、取引額が銀行の手持ち資金を超えてしまい銀行の破産につながる。米国には連邦預金保険があり、一般的な銀行はそれによって保護されているが、当然ビットコイン・ユーザーは対象外だ。この保険が制定される以前には、銀行は預金者の引き出しをできる限り先延ばしさせる以外に選択肢がなかった。

この数か月、 Mt. Gox には預金引き出しの遅延に対するクレームが殺到していた。どうやらきっかけは、2013年5月と6月に国家安全保障省が Mt. Gox の資金を500万ドルほど差し押えたことにあるようだ。差し押さえの理由は Mt. Gox が「無免許での送金業務」を行っていたためとされている。その後に生じた預金者への支払遅延を、Mt. Gox は技術的な問題によるものと主張していたが、どうやら問題は営業自体にあったようだ。

そして今月初めには、Mt. Gox は預金の引き出しを完全に停止する。その理由を Mt. Gox は「ビットコイン自体の根本的欠陥」によるものだと説明していた。しかしこの欠陥は他の取引所やビットコイン・コミュニティーにも良く知られていたものであり、別段大きな問題を引き起こす類いのものではなかった。

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もし Mt. Gox が実は破産の危機に追い込まれていたとするならば、この一連の流れにも説明がつく。

私に初めてビットコインを売ってくれたワシントンDCのビットコイン ユーザ・グループの主催者、リチャード・ウェストンに話を聞いた。最初に彼と話した昨年10月には、彼は私に Mt. Gox を信頼して取引することをすすめてくれた。しかし今は違う。

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「私が数か月前に Mt. Gox から現金を引き出そうとした際、問題がおきました」と彼は話した。「どうやら各銀行が Mt. Gox との取引を拒否していたため、米国在住の顧客は預金を引き出すことが事実上不可能になっていたようです。それなのに Mt. Gox は何の説明も行わず、ただ引き出しに時間がかかっているとの決まり文句を繰り返すばかりでした。」

ウェストンは最終的に Mt. Gox の預金をビットコインのまま引き出し、他の取引所でそれを売って損を出すしかなかった。最近では彼は自身のビットコインをBlockchain ウォレットに保管しているようだ。

Mt. Gox は大きすぎて破産できない

リーク資料の信ぴょう性は未確認だが、「Situation Crisis Strategy Draft(危機的状況戦略案)」と題されたこのドキュメントには、Mt. Gox はビットコイン・エコシステムにとって重要であるため、破産はできないと書かれている。

実際には、Mt. Gox はいつ破産してもおかしくない状態だ。それは会社としては当然の報いだろう。しかしビットコインはやっと世の中に理解され始めたところであり、この騒動の成り行き次第ではビットコイン自体の評判に傷が付き、同通貨の発展を5〜10年先送りにすることになる。そうなれば各国政府も厳しく対応することが予想され、ビットコインは終わると言っても過言ではない。

(中略)

最終的にこの騒動が世の中に与える影響は決して小さくなく、直接的な被害額を上回る損失を出すことだろう。そのため我々は、 Mt. Gox を安定させて今後も存続させるリスクのほうが、破産から生じるリスクよりは小さいと考えている。もはや問題は Mt. Gox だけのものではないのだ。

つまり Mt. Gox は、破産するには大きすぎるということだろう。この考え方はわりと一般的なものだが、Mt. Gox の関係者以外は承服しかねるかもしれない。ジョージメイソン大学のテクノロジー・ポリシー・プログラム上級研究員であるジェリー・ブリトは、Mt. Gox の破たんはビットコイン・コミュニティーとってプラスになると述べている。

「長期的に見ればこれはビットコインにとっていい話です」と彼は語った。「プロフェッショナリズムに欠ける取引所が無くなれば、Coinbase や Circle 等のもっと真面目なプレイヤーが顧客にまともなサービスを提供するチャンスが生まれるでしょう」

ビットコイン様、どうかお助けください

Mt. Gox の(未だ未確認の)リーク資料には「Bitcoin Bailout(ビットコインによる救済)」と題される計画がある。

Mt. Gox のステークホルダーはオーナー達ではない。ビットコインを所有するすべての人だ。残念ながらこれが現実である。

このままではビットコインを所有、利用するすべての人々に悪影響が及んでしまう。我々は今回の損失を消すために、ビットコインに大量の新規コインを投入(おそらく20,000コイン)しなければならず、そのコストは計り知れない

資料には新会社の設立が提案されており、その名はシンプルに「Gox」となっている。具体的な表記はないものの「パートナー」からの出資や寄付で資金を調達したいようだ。しかし一体誰が Mt. Gox に再投資したいなどと思うだろうか。資料には、この新たな資本が顧客にとって何を意味するのかは明記されていない。ただ、取り付け騒動を回避するために払い戻しを制限することに関する漠然とした言及がなされているだけだ。

今のところリーク資料の信ぴょう性は確認できていない。Mt. Gox の幹部もノーコメントを貫いている。この資料はあくまで案として社内で浮上したものなのかもしれないし、社外のコンサルタントが書き上げたのかもしれない。あるいはただの偽物である可能性も否定できない。

巻き添えによる被害

金融危機とは基本的に「信頼」の危機である。人々が自分たちの預金や資産を預けている金融機関に対して不信感を抱き、回収できないのではという不安が積み重なったものだ。ビットコインの場合も、Mt. Gox の問題が同社に対してのみ向けられた不信なのか、あるいは通貨自体に対する不信なのかが重要なポイントである。

ビットコインの価格は一連の騒ぎの後すぐに安定した。しかしまた新たな報道があれば、今後も激しく乱降下を続ける可能性がある。なんといってもこの騒動は未だ進行中であるため、何がおきてもおかしくはないのだ。少なくとも今週の安定した価格は、ビットコインに対するユーザーたちの信頼の証ともいえよう。しかしこれだけでは、ビットコインへの対外的な評価は読み取れない。

ビットコインが通貨として普及するためには、実世界との関係を強固にし、各金融機関から信頼される必要がある。しかし銀行員の多くは保守的な考え方の持ち主で、ビットコインを自らのビジネスモデルを脅かす危険な存在としてとらえている人も少なくない。当然彼らは Mt. Gox の引き起こしたこの騒動を、軽い気持ちで受け流したりはしないだろう。

ウェストンによれば「我々の最大の障壁は銀行団」だという。ビットコイン取引所の元CEOがマネー・ロンダリングで連邦政府に起訴されていることも事態を悪化させているようだ。さらに、もし Mt. Gox が本当に盗難被害にあっていたとなれば、ビットコインの信頼は揺らぐ一方である。「銀行員の立場から考えたらこんな怪しい通貨を扱いたくはないですよね。彼らにしてみれば詐欺みたいなものですから」と彼は話している。

ウェストンは、ビットコインは振出しに戻ったと感じているようだ。

「今回得られた教訓は、ビットコインは一般の人向けではないということです」と彼は言う。「パソコンに長けた一部の人が、自分でビットコインを管理して所有することを楽しむような、ニッチなものに過ぎないのです。Mt. Gox 騒動で他の取引所も信用できなくなってしまった今となっては特に、ビットコインとはそういうものであるということを意識すべきでしょう」

画像提供:Wikimedia Commons

Lauren Orsini
[原文]