フリーキャッシュフロー −企業が本当に自由に使えるお金
よく新聞で見かける「フリーキャッシュフロー(フリーCF)」とは「企業が本業で稼いだお金」のうち、「企業が自由に使えるお金」のことを指す。フリーCFをどれだけ出せるかが、その企業の価値を決め、経営者にとっては大いに重視すべき経営指標なのだ。
本業で稼いだお金とは、売り上げから仕入れに関わる支出や、人件費、電気代といった経費などの支出を引いた額のこと。本業でどれくらいキャッシュを獲得できる能力があるかの基準になる。そして、ここから「経営を維持するための投資」を引いたものがフリーCFだ。
経営を維持するための投資には、劣化した設備の改良支出や代替機の購入費などがあり、実際に支出したものが該当する。10年に1度更新が必要な設備などの投資額は、損益計算上だと10年にわたって費用配分されていく。その一方で、キャッシュフロー計算書上は取得時に全額が支出されると、その時点で全投資額がキャッシュのマイナスになる。
家計にたとえて考えてみよう。毎月の給料30万円、諸々の支出25万円なら、1カ月当たり5万円、年間にすると60万円が本業で稼いだお金、つまり営業CFに当たる。この家庭で自宅の修繕に10年に1度100万円の金額が掛かるとすると、10年目の修繕支出時には60万円−100万円=マイナス40万円がフリーCFとなる。
ここでちょっと考えてみたい。子供に通わせた塾代は一体どうなるのだろう。
もしも日々の授業についていくための塾代なら、「家庭という“経営”を安定・維持するための投資」に当たる。しかし、それが一流校に進学するための塾代なら、安定・維持というよりも“向上”のための投資と考えられ、家庭が自由にできるお金であるフリーCFから出すべきものと位置付けられよう。
なにやら煙に巻かれたような感じかもしれないが、それも無理もない話である。どこまでを経営を維持するための投資とするかは解釈に曖昧な点があり、会計士でも線引きが難しいのだから。
それはさておき、私見だがフリーCFは損益計算書の「営業利益」よりも多く確保すべきだろう。これが少ない会社は財務戦略、拡大戦略などを実行する力が不足する状態ともいえる。
銀行などの信用判断では、最終利益(税引後当期純利益)に減価償却費を足した金額を「企業の返済原資≒フリーCF」と見ることがある。その金額が、想定される借入金の実際返済額より少ない場合は、経営に問題があると判断される。ちなみに「運転資金の融資は月商の3カ月以内」「設備資金の融資はフリーCFの5年以内」が理想だ。
とはいうものの、普通のビジネスマンが貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の財務諸表をいくらひっくり返してみても、どれが経営を維持するための投資なのかは皆目見当がつかない。そこで、公表用の財務数値からわかる簡単な方法をご紹介したい。別図のように「営業CF−投資CF」という、キャッシュフロー計算書を見れば誰でもすぐにわかる数値を使って近似値を出せる。
冒頭でも触れたが、フリーCFが多いということは、経営者にとって自由に使えるお金が多いことを意味する。つまり、腕を振るう余地が大きくなるわけだ。その具体的な使い道には、借入金を返済して財務を強化する、自社株買いに回して株主還元を図る、設備投資やM&A(企業の買収・合併)の資金に充てるなどが挙げられる。
ただ、フリーCFが多いだけでは不十分で、そのお金を有効に使っているかどうかが大切なのだ。この点に関して勘違いをしないように注意しながらフリーCFをチェックしていただきたい。
(公認会計士・税理士 柴山政行 構成=高橋晴美 図版作成=ライヴ・アート)