「美少女戦士セーラームーン」「ケロロ軍曹」「カレイドスター」「ARIA」など、数々のヒット作を生み出してきた佐藤順一監督が、バイク×女子高生という題材に挑んだ最新OVA「わんおふ -one off-」。11月28日(水)に発売されるBlu-ray&DVDの第1巻では、主人公の汐崎春乃を演じた後藤沙緒里さんとともに、映像特典の「わんおふラジオ出張版」にも出演。「1巻は、僕がインタビュアーのようになっていて、後藤さんがどんな高校生だったかを延々、聞くという内容。面白いと思いますよ(笑)」(佐藤監督)。

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周りを山々に囲まれる小さな里で生まれ育った、高校2年生の汐崎春乃。両親の経営するペンション「NIWA」に宿泊する旅行客たちは、美しい自然や美味しい空気、新鮮な野菜や卵などを絶賛するが、春乃にとってのそれは、16年間、当たり前にあり続けたもの。幼い頃は、華やかな都会に憧れ、夢も膨らませていたけれど、小さな町で暮らす自分がちっぽけに思え、いつしか夢を語るのも恥ずかしくなっていた。そんな折、世界中をバイクで旅行しているオーストラリア人のシンシアが、「NIWA」で働くことに。春乃は、自分の知らない広い世界を見てきたシンシアに、憧れと諦めの入り混じった複雑な感情を抱くが、いつもハイテンションなシンシアに振り回されるうち……。
「カレイドスター」「ARIA」「たまゆら」など、数々の感動作を手がけて来た佐藤順一監督の最新OVA「わんおふ -one off-」(全4話)。第1話と第2話を収録したBlu-ray&DVD第1巻が、11月28日(水)に発売されます。
映画館での先行上映会(ニコニコ動画でも生中継)や、AT-Xでの先行放送も実施され、発売前からすでにファンも多い本作。ホンダが特別協賛として参加していることも話題となっています。
そこで、「たまゆら2期決定おめでとう」特集も好評だった佐藤監督に再びインタビュー。「普通の女子高生×バイク」という新たなテーマでの作品作りについて、お話を伺ってきました。
前後編の2回に分けて掲載します。

――最初に「わんおふ -one off-」の企画が発表された際、バイクメーカーのホンダが特別協賛として参加していることが話題になりました。監督にオファーが来た時点で、そういったお話は決まっていたのでしょうか?
佐藤 はい。ホンダの方が、高校生の女の子の日常を描いた物語の中に、バイクの要素もくわえるという形でアニメが作れないかと考えられたそうで。「たまゆら」の試写会にいらっしゃって、興味を持たれたみたいなんですよ。
――ホンダサイドに、「たまゆら的な世界観+バイク」のアニメというイメージがあったんですね。
佐藤 はい。そんな形で、僕の方にオーダーが来ました。
――監督は、バイクに乗った経験はあるのですか?
佐藤 昔、車を買う前、先輩に売ってもらった50ccのオフロードバイクで移動していた時期はありました。でも、それも1年間くらいのことで。バイクの名前を言われても、「え?」って感じの素人。だから、詳しい人にスタッフへ入ってもらいたいというのは、最初から頭にありましたね。
――バイクを扱うアニメとしての設定やストーリーは、すぐに浮かんだのですか?
佐藤 いえ。今の時代、バイクと女子高生というのはなかなか接点が無いんですよね。高校生がバイクに乗ることを、あまり良く思わない大人もいますし。その中で、どんな物語を作っていくかは、難航というか、試行錯誤がありましたね。
――試行錯誤からの突破口となったアイデアや、きっかけなどはあったのでしょうか?
佐藤 最初は、ホンダさんが特別協賛ということで、かなりバイクをプッシュした方が良いだろうと思っていたので、プロットもそういう方向だったんですね。高校生の女の子が、バイクに乗るために免許を取りたいって思うところをスタートにして。免許を取り、バイクを手に入れて行動範囲が広がり、さらに自分のできることのイメージも膨らんでいくという流れで考えていたんです。でも、ホンダさんとしては、高校生が免許を取ることを推奨しているように見られるのも、あまりよろしくないと。
――そこまで踏み込んだ内容ではなく、バイクに親近感を持ってもらえるようなアニメにしたかったんですね。
佐藤 ええ。「バイクって可愛いな」くらいの感じで良かったみたいで。だとすれば、バイクを使った女子高生たちのライフスタイルみたいなものが、素敵だったり、気持ち良かったりという風に描く方向なのかな、と。というか、むしろその形の方が、僕は作りやすい。そこからは、その方向性でプロットを作っていきました。
――バイクに関する方向性が決まったところで、キャラクターや全4話分の構成はすぐに決まっていたのですか?
佐藤 そうですね。その前から、女の子4人の話というラインは大まかに作ってあって。その子たちがバイクを使って生活しているのだったら、舞台は山あいかな、とか。そういう感じで決めていきました。そこに、シンシアというキャラクターをくわえて、少しメリーポピンズ的なテイストにしようと考えたのは、その次のステップだったかもしれません。
――最初に発表されたPVを観たとき、山間のくねくねと曲がった道を見て、「今回の舞台は完全にフィクションなんだ」と思ったんです。まさか、あんな風景が実際にあると思わなくて。
佐藤 それが、あるんですよねえ(笑)。
――長野県の「下栗の里」らしいですが、どういった経緯で、そこを舞台に?
佐藤 どこをロケーションしようかと話をしていたとき、プロデューサーの中に長野の方に住んでいた人間がいて。近所にこんな場所があると言って「下栗の里」の写真を持ってきたんですよ。ここは面白いなと思って、実際に行ってみたら本当に面白くて。じゃあ、ここにしよう、と。それは、あまり難航せず決まりましたね。
――ロケハンには、何度か行かれたのですか?
佐藤 行きました。といっても、最初のざっくりしたロケハンと、ポイントを絞って必要な写真を撮りに行ったときの2回だけかな。ガッツリとロケハンをした感じではないですね。OVA2本だから、TVアニメをやるほどボリュームのある設定は必要なくて、絵になるポイントをいくつか拾えれば良いかなという感じでしたから。あと今回は、「たまゆら」とは違って、舞台をそのまま使うつもりは無かったので。名前も変えていますし。
――春乃たちが暮らしている里は、「白流の里」になってますね。
佐藤 はい。実際によく似たロケーションはありますが、位置関係は全然違っていたりもします。春乃がバイクで行くお気に入りの場所も実際にありますが、バイクではそこまで行けないんですよ。
――では、次はメインキャラクターについて伺いたいのですが。主人公の春乃は、どのような女の子というイメージで進められたのでしょうか?
佐藤 「たまゆら」の主人公との比較で話すと、(すごく引っ込み思案な)楓よりも、もう少し物を言う子でも良いかなと。あと、最初はもっとコミカルな描き方をしても良いかなと思ったのですが。この作品ではバイクの魅力を伝えたいので、アニメファンはもちろんですが、もう少し幅広い人にも観てもらいたいんですよね。アニメファンではない高校生とか。だから、あまりマンガテイストが強すぎると、子供っぽく思われて敬遠されてしまうかなと思い、そこは少しセーブしながらやっています。そういった案配は、シナリオでじゃなく、絵コンテを描きながら調整した感じですが。
――春乃は、田舎で暮らしていることに対しての閉塞感のようなものを抱えていますよね。こういったテーマを扱うと、鬱々とした暗い話にもなってしまいがちだと思うのですが。
佐藤 確かに、シナリオでも、(最初は)暗く描かれてきたところもりましたし、議論する中で、ちょっと暗すぎるかもという意見はあったんです。ただ、僕の計算というか思惑としてはそんなに暗くはならないだろうと。
――はい。実際には、すごく明るく前向きな作品になっていますよね。そこは、どういった工夫をされたのでしょうか?
佐藤 ひとつは、(春乃に)妄想癖という特徴を入れて、コミカルなところも見せたりとか。あとは、芝居的にもド鬱なところまではいかないようにとは思っていました。アフレコをやってみると、(春乃役の)後藤(沙緒里)さんも、思っていたより少し沈んだ重い方に行きがちだったので。そこは常に「落ちないで」とお願いしていました。
――僕も春乃と同じように、高校までしかない田舎で育ったので、故郷や都会に対する春乃の感覚って、すごく分かるんです。もしかして、佐藤監督も同じような感覚を持たれていたのですか?
佐藤 そうなんですよね。出身は名古屋で、大学から東京に出てきたんですけど。アニメの仕事をやりたいと思ったとき、どう考えても名古屋じゃ無理だから、東京に行かなきゃ駄目で。そこに、ひとつハードルがありますよね。そのハードルを越えようとするか、越えられないと思ってしまうかで、その先が決まってくる。そのハードルって、越えようと思えば越えられるものは多いと思うんです。でも、自分が越えようとしないと、そこまでなわけで。そういう人たちに、「越えろ!」とまでは言わないんですが。「ちょっと越えてみると、いろいろと見えてくるんじゃない?」みたいなことは、メッセージとして入っていたりもするのかな、とは思っています(笑)。
――それは、すごく感じました。では、春乃の3人の友達、小夜、杏里、利絵のキャラクターは、どのように決まっていったのでしょうか?
佐藤 わりと自然な感じですね。最初の段階で、「この子はこういう子!」という特徴は作ってなくて。(キャラクター原案の)黒星紅白さんのキャラクターデザインから、個性が出てきていたので。その絵から自然に想起されるキャラクターで良いんじゃないかなと。
――黒星さんに発注した時点では、設定や性格はそんなに固まっていなかったということですね。
佐藤 ざっくりですね。(渡した資料に)眼鏡で文学少女系くらいのことは書いてましたけど、ヒントとしてくらいで。そこにカッチリ合わせて描いて欲しいというオーダーもしていません。わりと自由に描いてもらいました。
――黒星さんから上がってきたイラストを見て、特に意外だったり、イメージが大きく広がったりしたキャラクターは誰ですか?
佐藤 やっぱり、シンシアが一番ですね。(ライダースーツの)胸が、バッと開いてますから(笑)。黒星さんって、こういう絵も描く人なんだな〜って。
――巨乳なので、なかなかインパクトありますよね。
佐藤 それまで、ホンダさんや代理店の人からは、安全面のこともあって「制服でバイクに乗るときは素足を出さず、タイツを履かせて」とか、「腕は出さないで」とか、露出をあまりしないように言われていたんです。でも、シンシアに関しては「こんな絵が上がってきたんですけど……」と見せたら、「良いと思います」って。
――分かりやすい反応ですね(笑)。皆さん、男性ですか?
佐藤 はい。「やっぱり、閉じた方が良いですかね?」って聞いたら、「いやいや、これで行きましょう!」って。まったく、男ってヤツはという話なんですけど(笑)。
――シンシアがグラマラスな女性というのは、元からの設定なんですか?
佐藤 はい。外国人ですし、セクシー要員ではありましたね。でも、黒星さんの絵を見て、ここまできたかって思いました(笑)。
(丸本大輔)

後編に続く