「第2回古本ゲリラ」入口。壁にはグラフィティアート風にタイトルが描かれていた。

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千円でべろべろになれる店、またはそういう飲み方を「せんべろ」というのだとか(くわしくはこちらの記事を参照)。

そんなせんべろな酒場と古本をこよなく愛する、アダルト系ライターの安田理央さん、特殊翻訳家の柳下毅一郎さん、そしてエキレビ!でもおなじみのとみさわ昭仁さんの3人組――その名も「せんべろ古本トリオ」の主催するイベントが、去る11月10日と11日に開催された。「古本ゲリラ」というそのイベントは、参加者がおのおの古本を持ち寄って売るといういわば古本メインのフリーマーケットだ。今年4月の東京・中野での開催に続き、今回が2回目となる。

主催の3人のうち、とみさわさんは先月下旬、神田神保町に古書店「マニタ書房」をオープンしたばかり。当初は気の向いたときに開店するつもりが、日々の売り上げを口座に入れ通帳をつけるうち商人の喜びに目覚め、最近は毎日のように店を開けているのだとか。そこへ来て、最近神田から足立区に移転した東京電機大学の旧校舎を利用して「TRANS ARTS TOKYO」(TAT)というアートフェスティバルが開催されることになった。ちょうど第2回古本ゲリラの会場を探していたとみさわさんは、知人の紹介から、TATに乗っかるかたちで今回の開催へとこぎつける。

前回は1日だけの開催、しかも会場もあまり広くなくて参加者にはかなり場所を詰めてもらったという。それが今回は2日間の開催、スペースも申し分のない広さ。前回の会場にはバーカウンターがあったそうだが、今回も、17階に設けられた会場の向かいにはカフェスペースがあり、そこで買ったビールを手に各ブースをまわることもできた。「せんべろ古本トリオ」が主催するイベントなのだから、これこそもっとも正しい楽しみ方だろう。

参加の呼びかけは、とみさわさんがほとんど行なったという。今回の会場は詰めれば80サークルは出店できたものの、さすがにスタッフのほとんどいない状態でそれだけの数をさばくのはむずかしいということで、50サークルほどでの開催となったのだとか。それでもとみさわさんが声をかけた人たちだけあって、いずれも個性派ぞろい。

このイベントは冒頭に書いたように、古本メインのフリーマーケットなのだけれども、最近各地で開催されている「一箱古本市」的なものを想像して行くと、ちょっと拍子抜けするかもしれない。だって、本を売ってる人よりもほかのものを売っている人のほうが目立つんだもん(ちなみにわたしが行ったのは2日目)。コラムニストで先ごろ「伊勢うどん友の会」なる団体を立ち上げた石原壮一郎さんは伊勢うどんを売ってるし。しかも妙にこなれた口上! 思わずわたしも2個入りのパックを買ってしまいました。しかし会場に来て最初に買ったのがうどんって……。

「せんべろ古本トリオ」のひとり安田理央さんは、大判のノートに雑誌などから切り抜いたあれこれを貼りつけるというまったく手製のスクラップブックを販売。作者の職業柄、全体的に肌色の多い誌面となっているのだが、唐突に料理の写真が貼りつけてあったりするのが面白い。ちなみにわたしが購入した『安田理央スクラップブック Vol.6』には、ミスキャンパス時代の国分佐智子(現・二代目林家三平夫人)の切り抜きがありましたぜ。お宝!

ほかにも、VHSビデオやレコードを売っている人が何人かいたし、人喰い映像作家の酒徳ごうわくさんが「ジャガーバックス」シリーズの表紙をプリントしたマグネットを、ライターでマンガ家の渋谷直角さんが鉛筆描きのマンガを収載したzineをそれぞれ売っていたりと、工夫を凝らした商品も目を惹いた。

そんな今回の古本ゲリラで買ったもののうち、わたしがベストとしてあげたいのは、ミュージシャンやマンガ家など多面的に活動するパリッコさんの『大衆酒場ベスト1000 (1)』だ。ベスト1000とは大きく出たものだが、第1号で紹介されているのは11店。それでも内容は濃い。たとえば第5回では池袋のとあるもつ鍋屋が紹介されているのだが、それまでもつ鍋にはバブリーなイメージを持っていた筆者が、この店と出会ったことでもつ鍋に魅せられていく様子が軽妙に語られている。《ご存知の通り(?)もつ鍋とはすなわち、キャベツを食す料理》だなんて、知らなかったなあ。モツのダシをたっぷり吸いこんだキャベツ、わたしも食べたくなりました。

この『大衆酒場ベスト1000』も今回のイベントのためにパリッコさんがつくってきたものだとか。内容も、「昼間から酒場と古本屋をハシゴするせんべろ古本トリオ」が主催するイベント(って、何度も繰り返しますが)にぴったり。

そういえば、会場をひととおりまわって、もう一度石原壮一郎さんのブースに戻ってみれば、伊勢うどんだけでなく、古本のほうもちゃんと売れていたのにはびっくり。うどんは閉会まぎわには完売し、そのとき会場から拍手があがったとか。さすが石原さん、三井家など数々の豪商を生んだ松阪出身だけあって商才あるなーと妙な感心をしてしまいました。

さて、「古本ゲリラ」は終わってしまったが、「TRANS ARTS TOKYO」は今月25日まで開催中だ。17階以外にも各フロアでさまざまな趣向を凝らした展示やイベントが開かれ、一日ではまわりきれそうにないほど盛りだくさん。そのうえ、TAT終了後には建物そのものが取り壊されるとあって、壁に絵を描いたり穴を開けたりとアーティストのやりたい放題なのが楽しい。

たとえば9階の一室で行なわれている「Crash 願望 Mountain 展(フン山)」(制作は土屋アソビさん)は、粗大ゴミを部屋いっぱいに積み上げたインスタレーションで、かなりインパクトがあった。土日祝には、観客が自らゴミを持ちこみハンマーなどで破壊して置いていくこともできる。この展示だけでなく、建物内のあちこちで作品をつくるアーティストの姿が見られ、直接話を聞けたりするのもこのフェスティバルの醍醐味だ。

TATでは過激な展示がある一方で、おしゃれで洗練された展示があったりと、全体的にカオスな雰囲気となっている。古本ゲリラとアートはかけ離れたイメージを抱いていたのだが、実際に足を運んでみるとなかなか溶けこんでいるように思った。もちろん第3回以降はまた一から会場を探さないといけないわけだが、新たにこのイベントにふさわしい場所が見つかって、今後も継続されることを祈りたい。

※「TRANS ARTS TOKYO」は最初の入場時に500円(会期中何度も使えるパスポート制)を支払うほか、イベントによっては別途参加費が必要なものもある。詳細は公式サイトでご確認のほどを。

(近藤正高)