ボスコン流問題解決−【3】若者の戦力化

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変革が相次ぐ現在のビジネスでは考え続けることが求められる。ビジネスに有効な考え方とは何か、問題解決のプロフェッショナルにその真髄を聞いた。

若手社員がなかなか期待通りの働きをしてくれないと悩む管理職は多いだろう。若手社員の戦力化を図るとき、まず考えてほしいのは時間軸である。短期で結果を出さなければいけないなら部下をじっくり育てる余裕はなく、なかば自分も手伝いながら仕事を進める必要がある。一方、会社が長い目で見てくれるなら、基礎から叩きこんでもいい。どちらにしても時間軸によって指導法は変わる。指導の成果が出ないと嘆く前に、いつまでに、どのようなレベルまで育成したいのかを意識すべきだ。

時間軸は設定し直してもいい。短期で考えれば難しいと思える営業力育成という課題も、ロングスパンで考えると解決の糸口が見つかるものだ。具体的に言えば、5年後に彼がどんな営業マンに育っているかをイメージして、そのためにいまから身につけておくべきことを一つ一つ指導していけばよい。人材育成に限った話ではないが、物事に行き詰まったときは、時間軸をずらすことで視点を変えてみる。

熱心に指導しても成果があらわれない場合は、自分が教えるスキルと、若手社員のレベルや目的との間にギャップがある可能性もある。例えば野心家で出世願望の強い部下に、報告書の書き方を一から教えても仕方がない。マニュアルに書いてあるようなことは、すでに習得しているからだ。逆に平平凡凡とサラリーマン生活を送ろうと考えている部下に、新しいアイデアの発想法を教えてもあまり意味がない。前項で自社のシーズと市場のニーズが合致しないと商品開発はうまくいかないと指摘したが、育成も同じ。自分が指導できるスキルと相手のニーズがつながったとき、人は成長するのである。

■実戦経験の積み重ねが重要

若手社員のニーズは一人一人違うことも意識すべきだ。昔はポストと給料がリンクしていたので、多くのビジネスマンがポストを目標に働いていた。しかし、現在は管理職になっても収入減になる恐れがあり、ポストや給料がモチベーションとして機能しづらい。若手社員は何に喜びを見いだして働いているのか。それを個別に把握したうえで指導法を考えるべきだろう。

部下が求めるものがわかっても、それを自分が持っていないケースがある。例えば自分が誰からも自然に好かれるキャラクターだった場合、営業で相手に気に入られるノウハウを教えるのは、かえって難しい。その場合は、ほかの人の力を借りればいい。努力して相手に好かれる術を身につけた人をコーチにつけるのだ。責任を放棄しているようで気が引けるかもしれないが、何でも教えられる振りをして指導を続けるより建設的だ。

具体的な指導法でいえば、とにかく実戦の経験を積ませることを重視したい。アメリカの軍隊では、「死者の出ない訓練は効果がない」と言われている。もちろん誰も死なずに済むならそれが一番だが、死者が出るほどの厳しい訓練をしないと、いざ実戦になったとき余計に多くの死者が出るという。アメリカでも賛否両論あるようだが、私はこの話を聞いて納得した。人は緊張感のある場面を経験するほど成長できるからだ。

これはビジネスにも通じるものがある。もちろん病気になるまで追いこめという意味ではない。とにかく現場経験を積ませて、叱るべきときにはきちんと叱る。とくに自律的なプロフェッショナルを育てたい場合、これに勝る育成法はない。

若手社員が実戦で失敗を重ねれば、上司がその尻拭いに奔走することもある。ただ、一時的に負担が増えても、それによって若手社員が成長すれば、のちのち負担は軽くなる。育成を長期という時間軸で考えれば、こうした発想も湧いてくるはずだ。

最近は、パワハラを警戒してか、会社として厳しい指導を禁止しているところもあるらしい。管理職は社の方針に従わざるをえないが、この場合はお客さんに叱ってもらえばいい。私もコンサル時代、懇意の経済紙記者のもとにたぶん怒られるだろうなと思いながらも、若手を一人で向かわせたことがある。案の定、「ビジネスの常識を知らない」と怒られて帰ってきた。私が直接叱るより、ずっと骨身に染みたようである。社員は上司に誉められたり、怒られたりするより、顧客に誉めてもらったり、怒られたりするほうがよほど勉強になって成長する。覚えておいて損はないテクニックだ。(図3)

(早稲田大学ビジネススクール教授 内田和成 構成=村上 敬)