これまで水戸は何度も経営危機に晒されてきたが、それはホームタウンの水戸市と友好な関係が築けていなかったことに大きく起因していた。水戸駅前にクラブののぼりやエンブレムは見かけない。「水戸市は応援していないんでしょ? それじゃあダメだ」と断られるのが常だったという。それが昨年6月の市長選挙で、水戸ホーリーホックを水戸のシンボリックチームにしようと、水戸支援を訴える新市長の当選により融和がなされ前進した。

現在、水戸の営業スタッフは沼田社長含めて4人。沼田社長が水戸市内を歩いていれば「ちょっと話をしていきなよ」と声をかけてもらえる関係が築けている。一朝一夕にはいかないだろうが、献身的な努力が行われている水戸は今後少しずつ変わるだろう。クラブに関わるすべての人たちの努力がいつか報われる日が来るといいなと心から思う。

■勝っても負けても応援されるクラブをつくる

木村社長と沼田社長に共通しているのは「勝っても負けても応援されるクラブ」を作ろうとしていることだ。先般Jリーグに導入されたクラブライセンス制度の資料を読み解くと、チームに強化資金を過剰に投資せず、財務面や施設面などのクラブ力の底上げに力を注ぎ、身の丈経営に邁進しなさい、と筆者には読めるのだが、両社長に言わせれば、そこに「クラブを支援してくれる全ての人たちのために」というエッセンスを加えるということだ。

木村社長にも沼田社長にも情熱を内に秘めた愚直さ、そして、現場で汗をかいて貪欲に支援を求めようとする低姿勢ぶりが際立つ。木村社長は「あいつら頑張っているなあと皆さんに思ってもらうこと」がとにかく大事だといい、沼田社長は「僕らの活動は選挙と一緒でどぶ板戦術」が基本なのだと言った。

J2の両クラブの地道な取り組みはあまり目立つことはないが、将来チームが力をつけてJ1昇格を成し遂げたとき、必ず飛躍的に観客動員数はアップする。そのときに「勝っても負けても応援されるクラブ」になっているかどうか。すれば、昨季J1で負け続けながらも観客動員に何ら影響はなく、いつでも小瀬のスタジアムにJ屈指の素晴らしい雰囲気を作りあげるプロヴィンチアの星、ヴァンフォーレ甲府に肩を並べることもできるはずだ。

(了)

■著者プロフィール
【鈴木康浩】
1978年生まれ、栃木県宇都宮市出身。作家事務所を経て独立。現在はJ2栃木SCを中心に様々なカテゴリーのサッカーを取材。「週刊サッカーマガジン」「ジュニアサッカーを応援しよう!」などに寄稿している。