芥川賞作家、田中慎弥。受賞会見の言動ばかりがクローズアップされるが、実際はどんな人物なのか。実像に迫った

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 あの“ふてぶてしい”芥川賞受賞会見で世間の話題をさらった田中慎弥氏。「照れ隠し」「礼儀がなってない」などさまざまな意見が飛び交ったが、その実像は? 田中氏にシンパシーを勝手に感じる20代、モテない男が、本人に会って確かめてみた。

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■強い女性が好きです

――いきなりですが実は僕、石原慎太郎という人間が大嫌いでして。あの堅物さといい偏屈ぶりといい、いかにも老害という感じがして。都知事選で彼が再選したときも都民に怒りすら覚えたくらいでした。だから、田中さんのあの発言には少しスカッとしました。

【田中】はあ。

――それで、僕の勝手な想像なんですけど、田中さんがあの会見で、石原さんを皮肉ったのは、彼が若い頃、反体制側にいた人で、それが今や保守の権化みたいになってしまったことに、ある種の失望感みたいなものがあるのかなという……。

【田中】すごい解釈ですね。まあ、別にあの人が大嫌いというわけではないです。ただ、何かにつけて話題になる人でしょう? だから、何か言いたくなるんですよね。それを普通に言っただけです。

――お父さんみたいな感じですか?

【田中】さすがに、それはないですよ。まあ、面白いですよね、石原さん。あんな人は二度と現れないんじゃないかって思いますよ。彼の若い頃はパワーがあって、それが年齢を重ねて老成して、味わい深いものになったのかというと、そうではなくて、ずっと若い頃の「石原慎太郎」を演じ続けなければならないっていう。何かに駆り立てられている感じがします。彼の晩年がどうなるのか、興味ありますね。政治家としてはあまり期待していませんが(笑)。

――では、あらためて、芥川賞受賞、おめでとうございます。5回目の候補で受賞とは、かなりの遠回りをしましたね。

【田中】そうですね。落選したときのことはけっこう覚えていますよ。1回目のとき、まさか自分が芥川賞の候補になるとは思っていなかったので「これはひょっとしたら」とか思うわけですよ。下馬評によると、かなり厳しかったらしいですが、知りませんでしたし。落選を知らされたときはガックリきました。たぶん、あのときがいちばん期待していましたね。で、2回目、3回目と落ちると「あ、やっぱり自分はダメなのかな」と思うようになる。でも、いざ候補になると「もしかしたら」と気持ちが跳ね上がっちゃう。そしてそのたびに潰(つぶ)されてと。特に電話で“ゆっくり”落選を伝える人がいて、あれは少々きつかった。「え〜〜このたび〜〜田中さんの作品におきましては〜〜大変〜〜残念ではございますが〜〜」って。聞いているこっちが気の毒になりました。

――今回、芥川賞を受賞した『共喰い』をはじめ、田中さんの作品はたびたび「父と子」がテーマになります。田中さんが4歳の頃お父さんはお亡くなりになったそうですが、どんな方だったか覚えていますか?

【田中】私自身にははっきりとした記憶はないのですが、母や周りから聞くところによると、割と優しくておおらかな人だったらしいですよ。私の母が産気づいて、病院に行かなきゃというときにも隣で麻雀をしていたという話を聞きました。まあ、「それはおおらかなのか?」と聞かれると、どうかな、という気がしますが。とにかく、そういう人だったそうです。

――『共喰い』に登場する父親は女性に対してひどい暴力を振るう男ですが……田中さんのお父さんとはかなり違いますね。

【田中】父親の記憶がない私が書く父親像は、けっこうありがち。“強い”とか、“お金を持ってくる”とか、“暴力を振るう”とか。その大きな存在に対して子供が倒したり、折り合ったり、逃げたりする。