8点という大差がついたというのに、ミックスゾーンを笑いながら通り過ぎていくタジキスタン選手すら存在した。はたして彼らに何か目標はあったのか。

闘争心を見せないタジキスタンを日本は容赦なく攻め立てた。ボール支配率は日本が71.7%、タジキスタンは28.3%、シュート本数は39本対1本と一方的な展開になり、日本は何度も決定機をつくり出す。川島と今野を除いた全選手がシュートを放つという、攻守が固定されているトレーニングのような状態が90分間続いた。

試合後、選手たちからは気を引き締める台詞が相次いだ。「この試合は忘れたほうがいい」（長谷部）「これで自分たちを過信してしまうと、僕たちのチームは終わってしまう」（長友）。それほどたやすい試合だったが、それでも日本にとって今後重要な意味を持つかもしれない出来事もあった。

まず、ハーフナーが初先発で代表初ゴールを挙げたこと。4日前のキリンチャレンジカップ、ベトナム戦では槙野の負傷により急きょ交代出場が見送られたハーフナーだったが、打っ付け本番となったこの試合で11分、駒野のクロスを頭で合わせて先制点をゲット。さらに47分にも同じ形からゴールを奪い、FWの新たな選択肢となることを証明してみせた。そしてザッケローニ監督もハーフナー起用の賭けに勝った。

次に、香川にゴールが生まれたこと。ベトナム戦では足下にボールが入りすぎたり、判断が遅く状況を悪化させていた香川だったが、41分、中村のパスに鋭く反応すると足首の小技を効かせて得点を挙げた。悩める10番が迷いを断ち切るきっかけとなるだろうゴールだった。

さらに中村がトップ下に入ることでボールの動きがスムーズになり、攻撃の新たなバリエーションが増えることが再確認された。本田とはまた違った味付けをチームに加え、そのプレーが破壊力を持っていることをザッケローニ監督も認識したに違いない。

最後に駒野が初ゴールを挙げ、激戦化してきたサイドバックの候補の一人として無視できないことを主張した。ムードメーカーぶりも健在だった。

もっとも、この相手ではどれも「成果」として手放しで喜べるものではない。それは選手も「これを厳しいレベルの相手に対してやれれば、さらに充実感があると思います」（中村）とわかっている。

それでも、この勝利で日本は次のアウェイ、タジキスタン戦で勝ち、ウズベキスタンが北朝鮮を下すと、最終予選進出が決まることになった。もしも次で決定すれば、3-4-3を含めたいろいろなトライが親善試合ではない場でできる。チームの成熟度はさらに上げられるだろう。

次の試合でも、負けて笑っているような相手に苦戦してはいけない。いや、日本はこの段階で苦労していてはいけないのだ。目標がはっきりしている日本は、そう誇らしげに言える無慈悲なチームになってきた。


レポート／森雅史