今年の1月に50周年を迎えたアイオーデータ。Windowsよりも前のPC-98時代からさまざまな周辺機器を世に送り出しており、アイオー製品にお世話になった人も多いはず。そこで、PC&デジタル業界で長年活躍してきたライターさんに、思い出に残っているアイオー製品を挙げてもらい、選んだ理由や気に入っていたポイントなど、当時のエピソードを振り返ってもらいました。さらに、そのアイオー製品を開発した“中の人”にも開発の裏話を聞いてみました。今回は、ライターの平澤寿康さんです。

とにかくデジタル放送対応のHDDレコーダーが欲しかった

私はPC関係をメインに記事を執筆してきましたので、アイオー製品でもPC関係の製品に触れる機会が多かった印象です。なかでも、ストレージ関係製品は数多く触らせてもらいました。ただ、私が特に強く印象に残っているアイオー製品は、PC関係の製品ではありません。

アイオーは、以前よりPCだけでなくテレビ関連の製品も数多く手がけています。なかでも、テレビ録画機器は実際に使っていた読者も多いでしょう。特に、2002年に登場した「Rec-On」は、印象に残っている人が多いのではないでしょうか。

Rec-Onは、現在こそ地上デジタル/BSデジタル/CSデジタルチューナーとして製品名が受け継がれていますが、初代は世界で初めて録画用のHDDユニットをセパレート型にすることで、HDDを交換してテレビ録画が可能なHDDレコーダーとして登場し、話題となりました。

2002年に登場した初代「Rec-On」

ただ筆者は、Rec-Onは利用していませんでした。なぜなら、すでにその当時、別のHDDレコーダーを所有していたからです。それは、ソニーの「Clip-On SVR-515」という製品で、だからこそRec-Onを購入するには至りませんでした。

ソニーのHDDレコーダー「Clip-On SVR-515」をすでに所有していたこともあって、Rec-Onは購入しなかった

それよりも、当時どうしても手に入れたかったのが、デジタル放送に対応したHDDレコーダーでした。

当時、まだ地上波デジタル放送は始まっていませんでしたが、パーフェクTV!が1996年10月1日から、スカイパーフェクTVが1998年7月1日から、BSデジタル放送が2000年12月1日から、110度CSデジタル放送のCSプラットワンが2002年3月1日から、110度CSデジタル放送のスカイパーフェクTV!2が2002年7月からそれぞれ放送を開始するなど、衛星放送ではデジタル放送が始まっていました。そして、一部でハイビジョン放送も開始していました。

しかし、当時はまだBSデジタル/110度CSデジタルチューナー搭載のレコーダーは存在していませんでした(初めて登場したのが2002年冬です)。

筆者は、2001年に32型プラズマテレビ(日立のW32-PD2100)を購入したのをきっかけに、ソニーのBSデジタル放送/110度CSデジタルチューナー「DST-BX500」も購入し、BS/110度CSのデジタル放送をよく見ていました。そして、そのチューナーには「i.LINK」という録画機器を接続する端子が備わっていました。

こちらは、当時筆者が利用していたソニーのBSデジタル放送/110度CSデジタルチューナー「DST-BX500」

i.LINKってなに?という声も聞こえてきそうですが、i.LINKはテレビやレコーダーなどのデジタル機器を接続して相互にデータを送受信する規格です。その実体は、PCでも利用されていた「IEEE1394」というシリアルバス規格です。Appleの「FireWire」やデジタルビデオカメラの「DV端子」なんかと同じです。そして、i.LINK端子を備えるレコーダーを接続することで、デジタル放送をデジタルのまま録画できたのです。

ただ当時、i.LINKに接続して録画できるレコーダーは「D-VHS」デッキが中心でした。D-VHSは、VHSをベースにデジタル放送データをそのままテープに記録できるという録画機器でした。ただ、当時のD-VHSデッキはかなり高価でしたし、放送は見ていたとしても、番組を保存したいという意図はほとんどなく、いわゆる“タイムシフト”視聴が中心だったこと、なによりすでにClip-OnでHDD録画の快適さを知っている筆者にとって、テープメディアに戻ることはあり得なかったのです。

DST-BX500などのBSデジタル放送/110度CSデジタルチューナーには、デジタル録画対応のD-VHSデッキなどを接続する「i.LINK」という端子が備わっていた

実はソニーは、DTS-BX500で利用できる録画用HDD「VRP-T1」を発売していました。そちらをDTS-BX500と組み合わせて利用することで、HDDにデジタルのまま番組を録画できるのはもちろんのこと、録画している番組を一覧表示し、そこから見たい録画番組を選択して再生できる機能が利用できました。今でこそ当たり前の機能ですが、D-VHSではテープに録画した番組の一覧表示機能はありませんでしたし、録画番組を見たくてもテープの早送りや巻き戻しといった操作が必要となります。そういった意味でVRP-T1が欲しかったのですが、当時のVRP-T1の販売価格は12万円とかなり高く、筆者には手が出なかったのです。

DTS-BX500で利用できる録画用HDD「VRP-T1」が欲しかったが、当時は高くて手が出なかった

VRP-T1互換モードを備える初代Rec-POTは、まさに欲しかった製品そのもの

前置きがかなり長くなりましたが、ここからが本題です。筆者が最も思い出に残っているアイオー製品、それは、2002年に登場したi.LINKに接続して利用するデジタル放送録画用ハードディスク「Rec-POT HVR-HD80」です。

Rec-POT HVR-HD80は、D-VHS互換の録画用HDDで、i.LINK端子を備えるデジタル放送対応テレビやデジタル放送対応チューナーに接続するとD-VHS機器として認識され、デジタル放送をMPEG2 TS形式のまま録画できました。

i.LINK接続でデジタル放送をデジタルのまま録画する「Rec-POT HVR-HD80」

背面のi.LINK端子を利用してデジタル放送対応チューナーに接続すると、放送をMPEG2 TS形式のまま録画できる

しかも、Rec-POT HVR-HD80には「DISKモード」というVRP-T1互換モードが用意されていました。このモードに設定してDST-BX500に接続すると、VRP-T1相当として利用できたのです。これにより、D-VHSモードでは利用できない録画番組の一覧表示が可能となって、簡単に録画番組を呼び出せたのです。それでいて販売価格はVRP-T1の半額以下となる5万円ほどでした。そして、このVRP-T1互換モードが用意されているというところが筆者に強く刺さり、2002年4月の発売とほぼ同時に購入して、とても便利に使っていました。

背面のモードスイッチを「1」にすると「DISKモード」と呼ばれるVRP-T1互換モードで動作するようになり、DST-BX500に接続してVRP-T1相当として利用できた

とはいえ、不満がなかったわけではありません。それは搭載HDD容量です。Rec-POT HVR-HD80の搭載HDDは、容量がわずか80GBでした。この容量では、ハイビジョン番組は約7時間、標準画質番組は約21時間しか録画できませんでした。筆者的には、タイムシフト視聴が中心で、一度見たら消すといった使い方をしていましたが、それでも録画時間の短さは少々残念だったと記憶しています。

その後、Rec-POTシリーズは、120GBや240GB HDD搭載の後継モデル「Rec-POT S」シリーズをはじめ、多くの機種が発売されました。筆者はその後、Rec-POTの流れを汲む600GB HDD搭載のデジタルHDDレコーダー「HVR-HD600LE」などを購入してきましたが、やはり初代Rec-POTが最も印象的な機種として記憶に残っています。

のちに筆者が購入した600GB HDD搭載の「HVR-HD600LE」。こちらもRec-POT HVR-HD80同様、便利に使っていた

アイオーは、PC周辺機器メーカーというイメージが強いかもしれませんが、テレビ関係の分野でも先駆者的な製品を数多く投入してきました。今後も、PC分野にとどまらず、幅広い分野で革新的な製品を送り出してもらいたいです。

アイオーデータの “中の人”が語る、当時のマル秘エピソード(ハードウェア開発担当の城之前伸一さん)

【Q1】開発で最も苦労した点はなんですか?

各社のD-VHSレコーダーやデジタルチューナー、テレビとの相互接続性の検証がとても苦労しました。

Rec-POTは、IEEE1394(i.LINK)で接続する外付けHDDなので、IEEE1394の規格で設計されていれば問題なく動作するはずなのですが、各家電メーカーごとに癖というか挙動に違いがあり、うまく動作しないことが多々ありました。

なので、開発段階で相互動作検証を行うことになるのですが、すべての対象機器を購入したりメーカーから借用することはできないので、営業担当に無理を言って調整してもらい、本社の近くにある家電量販店に(お客様が比較的少なくなる時間帯に)お邪魔して、展示品のテレビに試作機を接続させてもらっていました。

【Q2】求める性能や使い勝手を実現するために、どのような工夫を行いましたか?

初代Rec-POT(HVR-HD80)は、すべての操作をi.LINK経由でD-VHSレコーダーやSONY製チューナーから行う必要がありました。

D-VHSレコーダーやチューナーのUIは、使いやすい!とは言いにくいシンプルなものだったので、後継機種からRec-POTの独自メニューの表示と専用リモコンを用いた操作性の向上を行いました。

Rec-POTのメニュー画面は、RecPOT内部で生成したデータ放送コンテンツ(テレビの「d」ボタンを押すと表示されるものと同等)をi.LINKから再生しています。この機能を実現したことで、録画コンテンツのリスト表示や削除、最終的には、編集まで行えるようになりました。

【Q3】開発中に発生した技術的な課題やトラブルで印象に残っているものはありますか? 何度も試作や評価を繰り返した箇所があれば教えてください。

開発中の印象に残っている事は、やはり互換性問題です。それ以外で印象に残っているトラブルや不具合などは、あまりないです。

Rec-POTシリーズのハードウェア開発を担当した、アイオーデータの城之前伸一さんが見せてくれたRec-POT Mシリーズのメイン基板。マンタのイラストが入っている。「当時は、このあたりはある程度自由にさせてもらってました」(城之前さん)