【大貫 佑介】なぜ「異世界転生」「なろう系」ばかり量産される?プロが明かす、海外で”高値がつく”アニメの裏側

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「なぜ異世界転生ものばかりなのか」「なぜおもしろい作品でもアニメ化されないのか」--その答えは、作品の中ではなく業界の構造のほうにある。

いまのアニメは海外配信、SNS、音楽ビジネス、商品化といった要素が絡み合うなかで企画され、とりわけ深夜アニメの収益は海外市場が大きく支えている。アニメプロデューサーとして数多くの作品に携わってきた株式会社ブシロードムーブ代表取締役社長・大貫佑介氏の『アニメビジネス 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養』(総合法令出版)より、複雑化する現代のアニメビジネスの現状を解説する。

第2回『「アニメ化の決め手は海外のプラットフォームの値付けにある」現役プロデューサーが明かす、企画の生死を握る「海外配信サイト」の正体』より続く。

海外で「値段がつく」アニメのジャンル

では実際に、海外配信プラットフォームが「高いMGを出したい」と考えるのは、どのようなアニメなのでしょうか。

この質問に対しては、業界関係者のほとんどが、ほぼ同じ答えを返します。

 「異世界転生バトル」

 「悪役令嬢」

 「成り上がりバトル」

 「日本要素の強いバトル」

このあたりが安定して再生が見込まれるジャンルだとプラットフォームから聞きます。補足としてジャンルではありませんが「ブランド力が高いもの」も値段が付きやすいです。有名スタジオや有名な雑誌のものなどです。

※大前提として日本で人気のあるものであることは当然です(一部例外もありますが)

最近のアニメのラインナップを思い浮かべてみてください。同じようなジャンルが多くあると思います。「異世界」「生まれ変わり」「転移」「最強」「追放」「悪役令嬢」「無双」「レベル999」などといった単語が入ったタイトルを、大量に見かけませんか?

SNSでは、「また似たような設定だ」「テンプレばかり」といった声も上がります。しかし、製作側が新しいジャンル発掘を放棄しているわけではありません。

海外で値段がつき、確実にビジネスが回るから成立しているのです。現在のアニメ業界では、「海外で再生されやすいジャンル」が、企画として圧倒的に通りやすいといえます。

逆にいえば、どれだけ脚本が素晴らしくても、会話劇中心だったりローカル文化に依存していたりする作品は、「海外でどれくらい再生されるか」が読みづらいため、企画段階で慎重に見られるケースがあります。

『NARUTO』の海外売上は今も上位

ジャンルとして特に強いのが、いわゆる「なろう系」と呼ばれるものです。「なろう系」とは、小説投稿サイト『小説家になろう』から人気が広がった、異世界転生やチート能力、追放、成り上がりといった要素をもつ作品を指します。

現在では深夜アニメ市場の巨大ジャンルになっており、ランキング上位100作品の多くが次々とアニメ化されています。

もう1つ海外で圧倒的に強いのが「日本要素の強いバトルもの」です。たとえば、忍者や日本刀、妖怪、呪術、巫女、武士といったいかにも「日本的」なモチーフをもつ作品です。

海外ファンが日本アニメに求めている「日本らしさ」は、海外視聴者にとって非常にクールに映ります。和風の建築、漢字、忍者の印を結ぶ動作などは、日本でしか作れない世界観なのです。

代表例をいえば、『NARUTO -ナルト-』『BLEACH』『呪術廻戦』『ダンダダン』など、世界的人気を獲得しているタイトルが挙がります。

実際、テレビ東京の海外アニメ収益を長年支え続けている代表的IPの1つが、『NARUTO -ナルト-』です。連載・本放送が終わっているにもかかわらず、『NARUTO -ナルト-』はどのアニメよりも稼ぎ続けています。

新作アニメが次々と生まれるなかでも、海外売上ランキングでは上位に名を連ねています。

これは業界内では常識ですが、「最新ヒットを作る」だけではなく、「10年、20年、世界で稼ぎ続けるIPを育てる」ことが非常に重視されているのです。

そして現在、問題になり始めているのが、値段がつきやすい原作の枯渇です。特に「なろう系」は、ランキング上位作品の多くがすでにアニメ化されているため、業界全体が「海外で値段がつくジャンル」を探し続け、作り続け、ついには掘り尽くし始めている状態だといえます。

補足ですが、あくまで「値段がつきやすい原作」が枯渇してきているというだけでまだまだアニメ化して面白いとプロデューサーが思える作品はあるんです。ただどうしても今の市場原理だとアニメ化するための出資社が集まりにくい。

海外では「異世界転生」が大人気

ここからは、なぜ異世界転生ものがそこまで海外でウケるのか、私の推測も交えてお話しします。あくまで現場のアニメプロデューサーとしての肌感ですので、確定情報ではなく、1つの見方として受け取ってください。

まず海外市場、特に北米市場を理解するうえで大きなヒントになるのが、ハリウッド映画です。『アベンジャーズ』シリーズを中心としたマーベル・スタジオの作品を思い浮かべるとわかりやすいと思います。

巨大な敵や圧倒的な力、派手な戦闘、わかりやすい善悪、爽快な勝利など大味で理解しやすく、「ドーン、バーン、ゴーン、ラブ」というシンプルな構成をしています。爆発して、戦って、勝って、最後に感動する簡潔さが、世界共通で伝わりやすいのでしょう。

もちろん細かいドラマはありますが、根本にあるのは「強い敵を倒すカタルシス」です。海外では、このわかりやすい快感が非常に強いといえます。

異世界転生バトルものは、まさにこの「わかりやすさ」「大味な爽快感」を満たすジャンルです。異世界へ行き、弱かった主人公が最強になり、理不尽を力でひっくり返すストーリーや圧倒的能力で無双するといった内容は、設定説明もシンプルで、文化を越えて理解しやすいのです。

大人気?そんなことはない。もう飽きているよとおっしゃる方もいると思います……が、不思議なことに海外プラットフォーマーから聞くランキングではどうしても上位にランクインしているのです。

それだけではありません。海外配信プラットフォームがどう経営判断するかという観点も重要になります。たとえば、海外プラットフォームが自社で超大作映画を作る場合、製作費は数千万ドル、日本円で数百億円規模になることがあります。しかも、その作品がヒットする保証はどこにもありません。

日本アニメはコストパフォーマンスが非常に優秀

一方、日本アニメは「1話あたり10~15万ドル程度」、つまり12~13話分(1クール)まとめて買っても全体で180万ドル程度に収まります。総製作費にして20~30億円規模のコンテンツを、数億円程度の投資で確保できる計算です。ハリウッド超大作と比較すると、異常に安いことになります。

しかも、その日本アニメがプラットフォーム上でちゃんと回って(再生されて)くれることが、過去のデータからわかっています。だとすれば、「自社オリジナル大作映画」よりも「日本アニメをたくさん仕入れて並べる」ほうが、はるかにローリスクでハイリターンになります。ローリスクで、一定以上の再生が期待でき、継続視聴も強く、世界展開もしやすいため、海外プラットフォームは日本アニメを仕入れ続けるのです。

ちなみに、これは海外だけじゃなく、日本の配信プラットフォームでもかつて同じことがありました。時間やお金をかけて作ったオリジナルドラマが、手ごろな価格で調達した日本アニメの再生数に全然勝てなかったそうです。

ですので、現在の日本アニメブームは、単純な日本文化人気だけが原因ではないといえます。コストパフォーマンスが非常に優秀なコンテンツとして、日本アニメは評価され続けているのです。

しかし、日本のラブコメ、特に新規の作品は少し事情が違います。もちろん海外にも熱狂的なファンはいますし、SNSでバズることもありますが、配信権としての「値段」はつきにくい傾向にあります。

ラブコメは、好きな人には深く刺さりますが、世界規模で大量再生されるかは別問題だと認識されています。だからアニメプロデューサーたちは、企画段階から「この作品は海外でどれくらい値段がつくか」を判断基準にして、どのジャンルなら企画が通りやすいのか、どの設定なら海外配信で強いのかを常に意識しながらアニメ化を考えているのです。

それが良い悪いではなく、現在のアニメ業界が、世界配信ビジネスのうえで動いているという事実があります。アニメは、日本国内だけの人気ではなく、「世界でどれだけ再生されるか」を前提に企画される時代なのです。

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