「この女性の流出動画はこちら」花嫁、コンカフェ嬢、港区OL…SNSで急増する“晒し投稿”の巧妙な仕掛け「月2000万円売り上げる輩も」
生成AIの普及などを背景に、政府はインターネット上の偽・誤情報への注意喚起を強めている。総務省は2024年度に啓発教材を制作し、内閣官房も2025年10月に偽情報に関する専用ポータルサイトを開設した。地震などの災害時や選挙をめぐっても、事実と異なる画像や動画がたびたび問題となっている。そして、こうした“フェイク”はアダルト産業にも入り込んでいる。「実在する女性がAVに出演していた」と思わせる偽情報でSNS上の関心を集め、同人AVサイトへ誘導する手法だ。業界関係者は「こうしたSNS集客を駆使し、月2000万円規模を売り上げる人もいる」と証言する。その手口とは――。
【画像】花嫁、コンカフェ嬢、港区OL…SNSで急増する“晒し投稿”
「この女性の流出動画はこちら」…一般人の“晒し”を装う巧妙な手口
「美人花嫁さんが実は“人妻作品”にデビューしていた」
「一夜ですべてが終わってしまったコンカフェ嬢さん」
「港区の高級デンタルクリニックで働く女性がアダルト出演を特定されてしまう」
これらはSNS上に流れてくれば、思わず目を止めてしまいそうな文言だ。
あたかも「実在する花嫁が過去にアダルト作品へ出演していた」「コンカフェ嬢や高級デンタルクリニックで働く女性の性的な動画が流出した」と思わせるような投稿だが、実際にはそうした設定そのものが“フェイク”であるケースがある。
目的は、投稿を見たユーザーを成人向けコンテンツの販売サイトへ誘導することだという。アダルトメディアに詳しいライターの倉田達也氏に聞いた。
「Xで拡散されることが多いですが、InstagramやThreadsなどでも見かけます。目を引く投稿をしたうえで、ツリー投稿などに『この子の○○な動画を見たい方はこちら』とURLを貼り、同人AVサイトへ誘導する流れです。
実在する美人花嫁やコンカフェ嬢などの流出映像であるかのように見せていますが、実際に販売されているのは、出演者が制作側の了承のもとで撮影した成人向け作品だったりするわけです」
倉田氏によれば、このように「一般女性の私生活が晒された」と思わせて注目を集める手法を、業界の一部では“晒しフォーマット”と呼んでいるという。
「昔から似たような手法はありましたが、最近はとくによく見かける印象があります。かなり巧妙に作られている投稿もあります。『自分だけが見つけた』『表には出ていない動画を発見した』と思わせるような演出で、ユーザーの好奇心を煽るんです」
もっとも、こうした投稿は、視聴していない動画の料金を突然請求する「架空請求」とは性質が異なる。販売先にあるのは実際の成人向け作品であり、問題はそこへ至るまでの宣伝に虚偽のストーリーが使われている点にある。
さらに今年7月には、実在するニュースサイトの記事を装ったとみられる投稿まで拡散した。
倉田氏が続ける。
「女性アスリートの性的搾取問題を扱ったニュース記事のような画像が作られ、そこに登場する女性が実は同人AVに出演していた、という形でX上に投稿されていました。かなり多くの人に閲覧されていて、その後、『有料サイトへの誘導を目的にした投稿だ』などと指摘するコミュニティノートも付いていました」
コミュニティノートはX社自身による違反認定ではなく、利用者が協力して投稿に背景情報を付加する仕組みだ。
それでも、ニュース記事の体裁を利用することで投稿の信憑性を高め、成人向けサイトへの誘導につなげる手法が使われていたことになる。そして、こうしたSNS上での集客が、売り上げに大きな影響を与えるという。
フェイクでバズれば「月2000万円」も…同人AVで大金が動くカラクリ
同人AVの制作・販売に関わる人物はこう話す。
「なかには月に2000万円規模を売り上げる輩もいます。もちろん、全員がそんなに稼げるわけではありません。売り上げがほとんどない人もいる。同人AVは、作品そのものだけではなく、SNSでどれだけ人を集められるかが売り上げを大きく左右します。
複数のアカウントから人の感情を刺激するような投稿をして、ひとつの販売ページやアカウントに誘導するわけです」
月2000万円という数字はあくまで業界関係者の証言であり、すべてのクリエイターに当てはまるものではない。
ただ、成人向けクリエイター向けの販売サービスでは、月額制のプランや単品コンテンツの販売などが可能で、人気クリエイターになれば大きな売り上げが生まれる仕組みにはなっている。
たとえば月額2000円のプランに1万人が加入すれば、単純計算で月の売り上げは2000万円になる。ただし、実際にクリエイターが受け取る金額からは、各サービスが定める販売手数料などが差し引かれる。
料率はプラットフォームや契約条件によって異なるため、売り上げ額がそのまま収入になるわけではない。
実際、同人AV市場で大きな売り上げが生まれたとされる例もある。
某アダルトインフルエンサーとAV監督によるコラボ作品については、約1万円の商品が数日間で約8000本売れたとの情報が本人たちのSNSなどで発信され、それがネットニュースに取り上げられるなどして広まった。仮にその数字が事実なら、単純計算では約8000万円の売り上げになる。
あくまで本人たちによる発信で、販売本数を示す一次資料が公表されているわけではないが、それでも、SNSを通じて多数のユーザーを販売サイトに誘導できれば、同人AVが大きな金額を生み出し得る市場になっていることは確かだろう。
“フェイク”で客を集めることの法的リスクは?
話を“晒しフォーマット”に戻そう。
前出の制作者は、作品そのものだけではなく、SNS上でどのような設定や投稿を作るかという宣伝にも関わることがあるという。
実在する一般女性の流出映像であるかのように誤認させる手法に、抵抗はないのだろうか。
「成人向け作品の世界では昔から、『元アナウンサー』『元保育士』など、男性の興味を引くような肩書きを作品上の設定として使うことがありました。テレビ番組などを連想させるパロディ作品もたくさんあります。
たとえばNHKの『チコちゃんに叱られる!』を連想させるタイトルの『チコツちゃんにシコられる!』という作品もありました。そういう“設定”や“パロディ”に慣れている業界なので、制作側には抵抗感が薄い人もいると思います」
しかし、作品内の設定や明らかなパロディと、実在するニュースサイトや一般女性を利用して「事実」であるかのように装うことは同じなのだろうか。
法的な問題はないのか。大阪グラディアトル法律事務所の黒木佐紀弁護士に聞いた。
「実在するニュースサイトの記事や写真、ロゴなどを無断で利用した場合には、著作権侵害や、使用の仕方によっては商標権侵害などが問題となる可能性があります。
また、実在する女性の写真を無断で使い、その女性について『AVに出演していた』などという虚偽の情報を流せば、名誉毀損などが成立する可能性があります」
一方、そうした投稿を見て成人向け動画を視聴したユーザー側はどうなのか。
「適法に配信されている成人向け動画を単に視聴しただけで、通常、視聴者側が罪に問われるものではありません。
一方で、虚偽の情報を流したり、嘘の噂を広めたりすることで店の営業や企業の業務を妨害すれば、信用毀損罪や偽計業務妨害罪などが成立する可能性があります。そのほか、内容によっては名誉毀損や著作権侵害などが問題になることもあります」
では、“フェイク情報でバズらせて成人向け作品を売る”という行為そのものを禁止する法律はあるのか。
「フェイク情報を使った集客行為それ自体を一律に処罰する、専用の刑罰法規があるわけではありません。ただし、だから何をしても許されるということではなく、使用した情報や画像、誘導の方法によっては既存の法律に触れる可能性があります」
作品の内容ではなく、あたかも「実在する女性の秘密が暴かれた」と思わせる物語そのものを商品への入口にする“晒しフォーマット”。大きな売り上げを生み得るSNSマーケティングの裏側で、どこまでが演出で、どこからが許されない“フェイク”なのか。いま、成人向けコンテンツを作る側のモラルも問われている。
文/河合桃子
