高市政権にとって「日本人の生活」はどうでもいい…現役医師がそう確信した10月から始まる"外国人政策"の正体

■首相公式X「介護の環境整備は最重要」
高市首相は8月31日、自身のXポストを更新、令和8年度「介護職員の働きやすい職場環境づくり」内閣総理大臣表彰および厚生労働大臣表彰をおこなったと発信しました。
この中で、高市首相は、介護や福祉の現場では利用者が増える一方で生産年齢人口が減少しており、「生産性の向上」を図りながら介護従事者がいきいきと働ける環境整備が最重要課題だと発信されていました。

在宅医療の現場に身をおく者として、日ごろから医療のみならず介護の重要性を身に染みて実感している私は、この問題意識自体は、まったく正しいと思いました。
今後、増すことはあれ減ることのない介護需要に対応していくために、介護職員の待遇改善、人材育成、離職防止は、わが国にとって喫緊の課題だからです。
もちろん、これらに積極的に取り組み表彰に値する事業所の存在も非常に貴重ではありますが、こうした個々の事業所の努力に期待するだけでは不十分です。
高市首相をはじめとした政権全体での切れ目のない政策実行が、今後さらに非常に重要になってくると言えるでしょう。
しかしその一方で、政権として、こうした介護の重要性を本当に認識しているのか疑わしい政策が来月から実施されることを、皆さんはご存じでしょうか。
2026年10月1日から始まる、わが国に在留する外国人の在留資格変更・更新手数料の大幅引き上げのことです。
■永住許可の手数料は20倍に跳ね上がる
法務省によれば、在留資格の変更・更新手数料を在留期間に応じた段階制とし、3カ月以下で1万円、1年で3万3000円、3年以上5年未満で6万4000円、5年以上で7万5000円にするとのこと。今月いっぱいまで一律6000円だったものが、在留期間によっては10倍を超える水準に跳ね上がることになるのです。
永住許可にいたっては現行の1万円から一気に20倍の20万円に爆上がりとなります。オンライン申請で多少安くはなりますが、数千円から最大でも1万円ていど。負担増であることに変わりはありません。

これは「見直し」というより、在留継続コストの急騰とも言うべきものですが、なぜこんな「爆上げ」をするのでしょうか。そして、これがわが国の医療・介護の現場にどのような影響をおよぼすのでしょうか。本稿では、この問題にフォーカスしたいと思います。
今回の「爆上げ」、政府側の説明は、おおむね以下のような理屈です。
在留外国人が増え、審査コストが上がっていることへの対応であって、在留にかかる行政サービスの受益者(つまり在留外国人)に応分の負担を求め、あわせて外国人政策の財源にも充てる、というものです。
■外国人材なしに介護の現場は回らない
たしかに2025年末の在留外国人数は412万5395人で、前年末比35万6418人、9.5%増と、初めて400万人を超えました。それにともなって審査や制度運用の負荷が増していること自体は否定できません。
しかし、だからといって、そのしわ寄せを在留外国人個人に、しかもこれほど急激な形で負わせることは妥当と言えるのでしょうか。
とりわけ医療・介護分野では、その負担は本人だけの問題とは言い切れません。
なぜなら、介護はすでに「外国人がいなくても何とかなる」業界ではないからです。
厚生労働省の推計では、介護職員は2026年度に約240万人、2040年度には約272万人必要になるとされています。2022年度の215万人と比べれば、2040年度までに約57万人の上積みが必要という計算になるのです。
国はその対策として、先述した処遇改善、人材育成、離職防止、生産性向上と並んで、「外国人材の受入環境整備」も明記しています。
つまり政府自身が、将来の介護供給を維持するために外国人材の力が不可欠だと、すでに公式に認めているのです。
それだけではありません。
厚労省は2025年4月から、一定の条件を満たす技能実習生や特定技能外国人について、訪問介護など訪問系サービスへの従事も認めました。
初任者研修の修了、原則1年以上の実務経験、同行訓練、ハラスメント防止、ICT活用を含む安全確保など、細かな条件を整えたうえで、外国人介護人材を在宅・訪問の現場にも組み込む方向へと制度を広げているのです。
■コストを負担するのは誰なのか
つまり政府は一方で、介護の人手不足は深刻だ、生産性向上が必要だ、外国人材の受入環境も整備する、と言いながら、他方で、その同じ人材が日本で働き続けるために必要な在留手続きのコストは大きく引き上げているのです。これではアクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものではないでしょうか。
しかも、この負担増は、当該外国人本人が払うだけのお金では済まない可能性があるのです。
特定技能外国人の雇用実務を解説した記事では、在留申請の印紙代や行政書士費用は法令上ただちに企業負担義務があるわけではないものの、本人負担にすると金銭的圧迫が増し、不満や失踪リスクにつながるおそれがあるため、継続就労に不可欠な手続きとして、実務上は、受入れ企業側が負担せざるを得ない場面が広がるとみられるといった指摘も見受けられます。
もちろんこれは公的統計ではなく、実務サイドの見立てではあります。しかし現場感覚としては、かなり自然な話に思えます。
とくに地方と都市部で賃金格差のある現状では、地方から都市部に介護人材の流入が起きるため、とくに地方の事業所などでは、人材確保と定着のために、事業者が費用をかぶらざるを得ないことも、けっして少なくないでしょう。政府は急ぎ実態調査をすべきと考えます。
介護事業者にとって、こうした追加コストは当然ながら軽いとは言えません。人手不足が深刻で、外国人材の受入れに頼らざるを得ない事業者ほど、その影響は大きいものとなります。
さらに介護分野では、一般の市場のようにコスト上昇分をそのまま価格転嫁できるわけでもありません。

そうなると、どこにしわ寄せが行くことになるでしょうか。
経営の圧迫、採用抑制、受入れ縮小、教育投資の圧縮、賃金改善の遅れ……。
結局どれも、現場の持久力を削る方向にしか働かないことになります。
■最終的に苦しむのは利用者と家族
これは高市首相が表彰の場で語った「働きやすい職場環境づくり」と、まったく真逆の事態を引き起こすことになるのではないでしょうか。
そして最終的に困るのは、外国人介護職員だけでも、事業者だけでもありません。
介護サービスの供給が細ってしまえば、その不足を埋めなければならなくなるのは利用者本人と家族です。
総務省統計局の2022年就業構造基本調査では、「介護をしている者は629万人、そのうち有業者は365万人」とされ、5年前に比して増加しているといいます。すでに多くの人が、仕事をしながら介護を担っている現状があるのです。
介護事業所がまわらなくなり、サービスが受けにくくなれば、家族介護の負担はさらに重くなることは自明です。
通所や訪問のサービス量が細り、入所調整が滞り、在宅の支えが弱くなれば、現役世代の介護離職も減るどころか増えるしかありません。これは福祉の問題にとどまらず、雇用と地域経済の問題、いや、わが国全体を揺るがしかねない大きな問題に直結していくのです。
■必要なのは外国人への締め付けではない
急増する外国人を見て、「外国人政策」を前面に掲げる政党や政権に、一部の人は喝采するかもしれません。
しかし、今おこなわれようとしているのは、「外国人政策」ではなく、わが国の医療・介護の供給体制を根底から揺るがしかねない政策なのです。
介護の人手不足を認め、外国人材の受入れを進め、訪問系サービスにも門戸を広げ、現場の生産性向上を後押しすると一方で言いながら、同時にその人材の定着コストを引き上げる。こんな政策に整合性があると言えるでしょうか。
今、必要なのは、日本にいる外国人への締め付けではありません。日本人も外国人も関係なく、医療・介護の現場を支える人材が安心して働き続けられる制度設計なのです。
「外国人の支払う手数料なんて私には関係ない」「私には介護する人なんていないから関係ない」と今思っている人も、将来的には必ず「自分ごと」として降りかかってくる問題です。
目先の問題に目を奪われることなく、わが国の「未来予想図」をつねに思考し続ける重要性を、この問題は私たちに教えてくれているように思えます。

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木村 知(きむら・とも)
医師
1968年生まれ。医師。東京科学大学医学部臨床教授。在宅医療を中心に、多くの患者の診療、看取りをおこないつつ、医学部生・研修医の臨床教育指導にも従事、後進の育成も手掛けている。医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。著書に『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(いずれも角川新書)など。note
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(医師 木村 知)
