今年は大番狂わせは起きるのか

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 8回まで二塁すら踏めなかったチームが、9回に逆転満塁本塁打を放つ。初出場校が優勝候補を相手に9得点を奪う。大阪桐蔭が92球で完封される。

 夏の甲子園では、ときに前評判や実績が意味を失う。高校野球に番狂わせはつきものだが、近年は実力差があるとみられたチームや初出場校が優勝候補を倒す「ジャイアントキリング」も目立つようになった。過去の大会で、全員一丸となって大金星を挙げたチームを振り返ってみよう。【久保田龍雄/ライター】

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反撃の狼煙

 8回まで二塁も踏めなかったにもかかわらず、敗色濃厚の最終回にミラクル逆転劇を演じたのが、2011年の八幡商だ。

今年は大番狂わせは起きるのか

 1回戦で3番・白石智英主将の満塁本塁打などにより、山梨学院大付に8対1と大勝した八幡商は、2回戦で優勝候補の帝京と対戦した。

 1回戦で大谷翔平(現・ドジャース)を擁する花巻東に8対7と打ち勝った帝京は、この日も2回に4番・松本剛主将(現・巨人)の左越え2ランで先制すると、5回にもタイムリーで1点を加える。投げては、背番号10の2年生左腕・渡辺隆太郎が8回まで散発2安打、2四死球の無失点。八幡商に二塁すら踏ませず、このまま帝京が押し切るかに見えた。

 だが、2安打完封負け目前の劣勢にあっても、八幡商の池川準人監督は「私は子供たちを信じていました。必ずチャンスを作ると」と、最終回の反撃に一縷の望みを託した。

 言葉どおり、1死から1番・高森健太が中前安打で反撃の狼煙を上げる。竹井友希、白石も渡辺の初球をとらえ、怒涛の3連打で満塁とチャンスを広げた。

 だが、次打者・坪田啓希は遊ゴロ。名手・松本が前進し、本塁封殺からの併殺を狙う。反撃もここまでと思われた。

 ところが、松本はバウンドを合わせ損ね、グラブの土手にボールを当ててしまう。慌てて一塁へ送球したが、アウトを取ることができず、記録は失策。この間に八幡商は1点を返した。

 一転して押せ押せムードとなった八幡商は、次打者・遠藤和哉が渡辺の直球を狙い打ち、右翼ポール際に起死回生の逆転満塁弾を放つ。「今までで一番うれしいホームラン」と喜びを爆発させた。

 鮮やかな5対3の逆転勝利に、池川監督は「最後に集中してくれた選手。見事でした」と絶賛した。一方、帝京の前田三夫監督は「9回の失策で、チームが慌てて立場が逆転した」と振り返り、たった一つのプレーで流れが変わる野球の怖さを強調した。

 帝京は、この悪夢の敗戦を最後に15年間、夏の甲子園から遠ざかっている。

夢の続きを見ているようです

 甲子園初出場ながら、通算21回出場の強豪校を下す大殊勲を演じたのが、2015年の津商だ。

 県大会決勝で3点を追う9回に一挙5点を奪う逆転劇を演じ、悲願の甲子園初出場を果たした津商は、1回戦でいきなり優勝候補の智弁和歌山と顔を合わせた。

 試合開始直後の初回、先頭打者から3連続長短打を浴びて2点を先行される苦しい展開となったが、4回に敵失が絡んで1点を返すと、持ち前の粘り強さを発揮し始める。

 5回には2死一、三塁から、前田悠汰の詰まったゴロが投手と三塁手の間に転がる内野安打となり、同点。6回にも2死二塁から、「初めての甲子園。緊張するなんてもったいない」という栗谷太智の中前タイムリーで3対2と勝ち越すと、7回には2つの敵失と2本の三塁打で決定的な3点を追加した。

 選手全員がのびのびとプレーし、終わってみれば5回から毎回得点で9対4の大勝。宮本健太朗監督は「三重大会決勝も劇的だったのですが、そのときと同じ夢の続きを見ているようです」と、甲子園初勝利の喜びを語った。

 一方、自慢の守備が7失策と乱れ、自滅した智弁和歌山は、夏は3年ぶりの出場だった。選手たちに大舞台の経験が不足していたことが、大事な場面でのほころびにつながった。

 高嶋仁監督も「守りのチームが守れなかったらこういうことになる」と、らしからぬ敗戦を重く受け止めていた。

強気で攻めて打たせて取る

 甲子園初勝利を挙げた直後の次戦で、優勝候補を堂々と下す快挙を演じたのが、2024年の小松大谷だ。

 石川県大会準決勝で日本航空石川、決勝で星稜と、センバツ出場の両校を相次いで下し、3年ぶり3度目の出場を決めた小松大谷は、1回戦で明豊に8対4と逆転勝ちし、甲子園初勝利を挙げた。

 2回戦の相手は、センバツ8強で優勝候補の一角だった大阪桐蔭。6回まで0対0と見応えのある投手戦になった。

 試合が動いたのは7回。小松大谷は1死一、二塁から一ゴロが敵失を誘い、均衡を破ると、すかさず3番・田西称の中前タイムリーで2点目を挙げた。

 さらに8回にも、2死三塁から西川大智の内野安打で3対0と突き放した。

 エースの西川は緩急自在の巧みな投球で、3回1死二塁のピンチにも3番、4番をいずれも飛球に打ち取るなど、強打の大阪桐蔭を散発5安打に抑えた。わずか92球でマダックス完封を達成。「強打者ばかり。いろいろ考えるより、強気で攻めて打たせて取る」という作戦が見事に奏功した。

 まさかの完封負けを喫した西谷浩一監督も、「自分たちの間合いでアジャストできなかった。自分の形で打てていなかった」と脱帽するしかなかった。

 同年は、ノーシードから新潟大会を勝ち抜き、創部65周年で甲子園初出場を果たした新潟産大付も「ジャイアントキリングをする」を合言葉に、1回戦で2017年に全国制覇した花咲徳栄に2対1と逆転勝ちした。

 吉野公浩監督も「花咲徳栄さんに勝てたのは、新潟としても大きかった」と涙ぐみながら、新潟県勢では7年ぶりとなる初戦突破を喜んでいた。

 八幡商の逆転満塁弾、津商の粘り、小松大谷の完封劇。大金星を生んだのは、前評判を覆す一つのプレーと、勝負どころで力を出し切った選手たちだった。

 今大会でも、優勝候補の名前や過去の実績だけでは測れない戦いが待っている。次に甲子園を揺らすのは、どのチームだろうか。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部