居酒屋や寿司屋、旅館にも…シノギに窮したヤクザが“正業”の現場で重宝される理由 「店で外国人観光客のトラブルはありませんね。注意したことは一度もないんですが…」
前編【外国人労働者を束ねて工事現場で汗を流す男の正体…「“現役”というのは内緒ですが、言葉も理屈も通じない連中をうまくまとめてくれます」 ヤクザが“正業”に精を出す理由】からの続き──。カタギから金を巻き上げるのが仕事だと思われがちだが、最近は“正業”に就くヤクザも少なくないらしい。業種としては、飲食業、小売業、製造業、観光業などがあるという。飲食業でいえば、キャバクラなどのホステスクラブを思い浮かべやすいが、意外なことにヤクザが従事する居酒屋、寿司屋、レストランなどもあり、中には学生や女性の客が頻繁に利用するような店も決して少なくない。【藤原良/作家・ノンフィクションライター】(前後編の後編)
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昨今はコストプッシュ型インフレが猛威を振るっており、料金値上げに踏み切らざるを得ない飲食店も多い。ところがヤクザが経営する店の中には、頑なに同じ料金でサービスを提供しているところも多い。ヤクザの店主が言う。

「政治のことはよく分かりませんけど、こういう時代になったからこそ、いかに安くサービスできるかが重要になってくるんじゃないんですか? お上(政府・行政)に文句を言ってもしょうがないですよ、町のことは自分たちでどうにかするしかないでしょ? こっちも、まだ商売させてもらえているだけ、お客さんには感謝してますよ」
店主としての収入は減っても、常連が喜んでくれるのが励みになる。このように実際のヤクザが営んでいる日常生活と、私たちが持つ“暴力団員に対するイメージ”は相当にかけ離れている。
暴力団なら資本主義を是とし、インフレを利用した過度な利益追求に全力投球するだろう。構成員は暴力的な思考を強調して“シノギ”を確保して生きていく。一方のヤクザは弱者救済・相互扶助の精神を忘れない。
外国人観光客とヤクザ
外国人観光客の急増に伴って、観光業界では特に中国人による違法営業が増加している。無免許営業に対する取り締まりは増加に全く追いつかず、“日本一の霊峰”がもたらす巨大な観光需要の恩恵を受けている某県の職員も「あまりにも数が多すぎて対処できない」と本音を漏らす。
オーバーツーリズムの具体的な問題として、外国人観光客によるゴミ問題が報じられることは多い。その他にも違法駐車や駐車料金の踏み倒しも常態化しており、まるでバブル期の暴力団のような法律・マナー無視の姿勢が目立つ。
ところが、ヤクザが従事する旅館やアテンド業者の元では外国人観光客によるトラブルが不思議と発生しない。関係者が言う。
「お客さんに対して何かしらの指導とか注意をしたことは一度もないんです。多分、雰囲気で察するのかもしれません。(ヤクザは)どんなお客さんにも嫌な顔を全くしませんし、流れ作業のような応対もしませんから。外国語が分からなくても気にせずコミュニケーションをします。そうこうしているうちに外国人観光客も嬉しくなってきて、悪いことをしようとは思わなくなってくるように見えます」
暴力団とヤクザは区別すべき
不良外国人が得意とする手口の一つに“ヒットアンドアウェイ”がある。犯罪収益を得たら海外に逃亡するのは初めから折り込み済みというのが最大の特徴だ。
実は日本の暴力団も似た傾向を持つ。一つの違法ビジネスで暴利を得たら、逮捕される前に雲隠れして商売替えをしてしまう。だが真のヤクザは、そんなことはしない。
「昔からヤクザは土着の生き物ですから逃げ場はありません。地元のために死んだヤクザもいるぐらいですから。悪いことをしてるだけじゃヤクザはやっていけないんです」(とある地方のヤクザ)
もちろん、暴力団が犯罪収益を得て存続を図ることは言語道断であり、社会が彼らのことを許し、組織の延命に手を貸す必要は一切ない。
その一方で、長年、裏社会の取材を続けてきた筆者としては、暴力団という分類の中に、本来は別種の存在であるヤクザをいつまでも含ませていることにはやや違和感を覚える。
そもそも「暴力団」という名称は昭和期に警察とマスコミが一方的な視点で作り上げた造語に過ぎない。
暴力を背景に徒党を組んで犯罪収益を得る連中のことをそう呼んで括った。つまり、昔から存在したヤクザを暴徒や犯罪者とひとまとめにして暴力団にしたわけだ。
さらに犯罪性を増す暴力団
戦後レジームを起点とした時代の変化に影響され、ヤクザ自身が変貌を遂げたのは一面の真実だろう。しかし暴力団と呼ばれることを頑なに拒否する面々もいたのだ。
要するにヤクザのままという人々だ。そんな彼らに対しても世間は「どれもこれも同じだ」と十把一絡げに「暴力団」と呼ぶ。
そういう不正確な状態は今も続いている。ただし、度重なる法改正や社会風潮の変化により暴力団は活路に苦しんでいる。その結果、かえって暴力団員とヤクザ者の違いが社会の各所で浮かび上がり始めている。
これを「実に不思議な現象だ」と言う人もいれば、「そもそも暴力団は昭和の残骸でしかない」と見なす人もいる。政府も2007年からの指針で暴力団を「反社会的勢力」と新たに括り直した。
暴力団もマフィアのように犯罪ビジネスに手を染めるようになってきた。最近ではトクリュウと個人的に結びついて悪質さを増している。そのためか、ヤクザ者が持つ独自の歴史観やスキルが少しずつではあるが見直され始めている。
今や暴力団が生き残るためには“新しい犯罪”と呼ばれるネット犯罪のノウハウを積極的に取り入れ、犯罪組織としてアップーデート、犯罪の“収益能力”を高めるしかないと分析する人も多い。
新しい名称の必要性
もし暴力団がアップデートに成功した時には、暴力団という呼称は古臭いものになるだろう。かといってマフィアと呼ぶのは現実と整合性に欠けるし、反社会的勢力という名称も大雑把な印象を与えてしまう。
アップデートを果たした犯罪組織を新たな視点から分類・認定し、新しい名称や呼称を考えなければ名実乖離に陥ってしまう時代が来るのかもしれない。
暴力団には現在、強い逆風が吹いている。構成員の数は激減し、その結果として組織の力も弱体化している。何しろ覚醒剤の密売でも食えないというのだ。
シノギを失ったことで、“正業”を見つけて社会に居場所を確保する者が現れ、同時に、トクリュウと結んでより悪質な犯罪に手を染める者も後を絶たない。今後、日本の裏社会はどうなっていくのだろうか。
前編【外国人労働者を束ねて工事現場で汗を流す男の正体…「“現役”というのは内緒ですが、言葉も理屈も通じない連中をうまくまとめてくれます」 ヤクザが“正業”に精を出す理由】では、外国人労働者が増えてきた“日本の現場”で、意外にもヤクザが大活躍している実態について詳細に報じている──。
藤原良(ふじわら・りょう)
作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』、『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』(以上、太田出版)など。
デイリー新潮編集部
