東京拘置所

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 東京拘置所で執行を待つ死刑囚たちの知られざる生活ぶりを、2013年、身の回りの世話をした元受刑者(衛生夫)が「週刊新潮」誌上で証言している。同記事を再録し、【前編】では埼玉愛犬家連続殺人事件やオウム真理教元幹部の秘められた拘置所生活を記した。【後編】では、オウムの別の幹部たちの生活ぶりや、執行が行われた日の死刑囚たちの様子について詳述する。

【前後編の後編】

(「週刊新潮」2013年7月25日号記事を一部修正の上、再録しました。文中の年齢、役職等は当時のものです)

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パンダ誕生を喜ぶ

 オウムのメンバーは13名の死刑が確定。このフロアには内4名が暮らしている。その中には未だ信仰のくびきを逃れられない人物もいた。遠藤誠一死刑囚(53)は、

「房の中に、麻原のカラー写真を飾り、祭壇のようにして、毎朝、ジュースや缶詰、お菓子などのお供えものをしていました。そして、窓に向かってお祈りをしているのです」

東京拘置所

 獣医の資格を持つ遠藤は、オウムの細菌兵器開発の中心人物だったが、

「やっぱり彼は動物が好きなんだ、と変に納得してしまったことがありました。上野動物園のパンダが出産した時、新聞でそれを知っ遠藤が“わあー、生まれたんだー!”と叫んでいたのです。後にも先にもあんな嬉しそうな笑顔は見たことがありません」

カラムーチョが大好き

 オウムの死刑囚は、それぞれに個性的だったという。

「土谷正実(48)は、毎日のように、公式を暗記していた。何かの公式がビッシリと書かれた紙を見て、目を瞑って暗記し、別の紙に書くのです。ただ、それが何であるのかは見られたくないようで、いつもビリビリに破って捨てていました。また、土谷は偏食で特にカラムーチョが大好き。差し入れはいつもカラムーチョ。朝食を食べないで、カラムーチョをばくばく食べていたこともあったくらいです。横山真人(49)は、常に瞑想の世界にいる人。いつもあぐらをかいて耳栓をし、白目でじっと虚空を見つめていたものです」

執行の時は――

 そんなフロアに緊張が走る瞬間があった。死刑執行の時である。衛生夫もそれを経験した。

死刑囚は朝7時に起床、朝食後、7時40分には食器を下げ、運動や風呂に入る準備をします。しかし、その日は空下げのタイミングで突然、刑務官に呼ばれて”ちょっと別のところへ行ってくれ!”と言われ、他の場所の掃除などをさせられたのです。刑務官が異常にピリピリしているので、何があるのかはすぐに感づきました。約30分後、フロアに戻されると、やはり房の一つが空になり、フロア全体に重苦しい空気が流れていた。死刑囚からの当たりもきつくなりました」

 さらに、翌朝が大変だった。

「フロアでは毎朝、読売新聞を5部程度閲覧用に回すのですが、その朝はみな死刑執行のニュースを読みたくて、刑務官や衛生夫を呼ぶための報知器を鳴らし、“新聞どこだ!”“早く回せよ!”と怒鳴る。また、“次は自分だ!”という不安をなだめてほしいのか、刑務官と話をしたがるのです。その日は、報知器の作動を示すモニターが点滅しっ放しだったのを覚えています」

「ゴーサインのゴー」

 このフロアの死刑囚たちは、普段、死刑について話をすることはほとんどなかったという。

「やっぱり彼らにとってはシビア過ぎる現実ですから、口に出すことはない。日々思い通りに過ごすことで、恐怖を忘れようとしているのでしょう。しかし、ひょんなことでそれが表に出てしまうことがありました。妻と知人を殺害したある死刑囚が定期転房の際、『5房』に入ることになったのです。すると、彼は急に“これはゴーサインのゴーだ!”“やっぱり次は俺なんですかねえ”などとうろたえはじめ、刑務官に“バカ言ってんじゃねえ”と、逆に怒られていました」

 ところが、死刑囚自身の不安と恐怖をよそに、刑務官や衛生夫の間では、次の”候補者”について予測は付くというのだ。

「例えば、今年(2013年)4月26日に、このフロアの宮城吉英(56)が執行を受けましたが、私たち衛生夫はみな、彼がこの次だと囁き合っていました。再審請求をしていれば執行は行われないというのは暗黙の了解になっていますが、彼はそれをしていなかったし、昨今、世間の目が厳しい暴力団員でもあったからです。ただ、宮城は大人しく、ほとんど文句を言わない死刑囚だった。いつも小説を静かに読んでいて、自らの罪を粛々と受け入れているようにも見えました」

 その一方で、

「反省も贖罪の念の欠片もない死刑囚が、死刑回避のためだけに、無駄と思える再審を続け、命永らえている実態がある。それに乗っかっているのが“人権派”の弁護士やNPOで、ある弁護士などは、フロアで再審請求をしている死刑囚5人ほどの担当に同時に就いていたくらい。『再審』であれば何でもやるということなのでしょう。そしてそうやって延命を図る死刑囚は、罪に向き合うこともなく、拘置所の待遇に文句ばかりを言って、毎日を過ごしているのです」

過剰気味の収容人員

 他方、刑法犯に対する厳罰化の流れを受け、近年、死刑判決が相次いでいる。それゆえ、確定死刑囚の数は大幅に増し、10年前の03年には56人だったのが、現在では134人と倍以上に膨れ上がっているのである(注:2013年7月時点。今年4月時点では101名となっている)。

 そのため、

死刑囚は囚人同士のコンタクトを防いだり、衛生上の理由から、隣の房は空房にしておくのが望ましいのですが、私がいたフロアは収容人員が常に過剰気味。20名程度の死刑囚に加え、25名前後の未決囚と合わせ50名弱の人員となっていたため、死刑囚の隣の房にも囚人を入れざるを得なかったのです。また、監視カメラも一房おきにしかなく、中で何をしているか把握できない死刑囚もいました。これでは自殺や職員への暴行など、どんなトラブルが生じても不思議ではありませんし、また、刑務官や衛生夫の負担もそれだけ重くなるのです」

 だから、と続けて、

「もちろん死刑を執行することは大変な決断でしょう。しかし、野放図に死刑確定囚が増え続ける状態を放置しておけば、いつか大きな問題が生じるのは明らか。法務大臣は腹を括ってきちんと自らの職務を遂行すべきだと思います」

(文中の遠藤、土谷、横山については、2018年、死刑が執行されている)

【前編】では、埼玉愛犬家殺人事件やオウム真理教元幹部の秘められた拘置所生活を記している。

デイリー新潮編集部