●頑張っている時間の総量が多い番組は強い
AIが最速で“正解”を出す時代に、あえて足を使い、悩み、汗をかいて答えを探す――そんな“人間の強さ”を真正面から描く、MBS・TBS系バラエティ特番『大変だけど…AIよりちゃんと調べてみた タイパ対timelesz』が、15日(15:00〜)に放送される。

『プレバト!!』などを手がける演出・プロデューサーの水野雅之氏が目指したのは、AIのすごさを見せることではなく、“AIが出した「正解」を人間が超えられるのか”という真剣勝負。その挑戦を今最も勢いのあるグループ・timeleszに託した理由には、彼らのひたむきな魅力と、AI時代にこそテレビの価値を見つめ直したいという思いがあった――。

『大変だけど…AIよりちゃんと調べてみた タイパ対timelesz』MCの菊池風磨 (C)MBS

○プライベートの台湾旅行から発想

今最も勢いのあるグループ・timelesz。各局から引っ張りだこの状況だが、今回の番組は彼らのキャスティングありきで企画がスタートしたものではなかった。

「僕がずっと大事にしていることの一つに、“頑張っている時間の総量が多い番組は強い”という考えがあるんです。数字を取るかどうかは別として、出演者だけじゃなく、スタッフも含めて、そういう番組は強い。それと今の地上波の存在意義は、自分で調べたり手を動かしたりするのが面倒なことを、ちゃんと足を使って、労力をかけて、信頼できる形で作り、それを視聴者に短時間で見せることにあると思っているんです。ネットメディアや配信と差別化するには、そこしかないんじゃないかと」

そんなことを常に考えていた中で、昨年の夏、台湾を旅行した水野氏。仕事の海外ロケならコーディネーターがいるが、プライベートでは自分で調べなければならない。そこでAIを使い、「今いる場所から徒歩10分以内で楽しめる場所」「この年齢層向き」など条件を入れると、瞬時に提案が返ってきた。

しかも、タクシーで行く場合には運転手に見せるための現地表記まで即座に表示してくれる。旅行雑誌や既存情報をベースにしていても、「今ここにいる自分」に最適化されて提示されることに、従来の検索からの劇的な変化を感じたという。

ここから、「例えば、鎌倉日帰り旅のプランを、AIと人間で三本勝負ができるのではないか…」と発想。生成AIの急速な普及に伴い、これを活用した番組が各局で次々に制作されている中、今回目指したのは、単純にAIのすごさを見せることではなかった。

「AIが出してくれるものは論理的で説得力もあるから“正解”だと思いがちですよね。でも、それはあくまで“かぎかっこ付きの正解”なんです。だったら、その“正解”を人間が超えられるのか。そのほうが番組として見やすいし、感情移入がしやすいと思いました」

演出・プロデューサーの水野雅之氏

○timeleszの起用で感じた「企画が跳ねる」兆候

瞬時に答えを出すAIに対し、時間と労力をかける“反タイパ”に体当たりで打ち込んでくれるキャスティングとして、「ホントにピッタリだと思います」と決まったのがtimeleszだ。

彼らの名前が出たことで、“言葉”もつながった。

「最初は『AI vs人間』という企画でMCが菊池さん、というところから考え始めていたんです。そこからtimeleszがAIと対決する『AI vs timelesz』になって、言いやすいタイトルは何だろうと考えていたら、『タイパvsタイムレス』みたいなタイトルに行き着いて、さらに真ん中を漢字の“対”にしたら、『タイ・タイ・タイ』って3つ並ぶなって思って。“あ、つながった”と」

番組のハッシュタグも「#タイタイタイ」に。この“つながる”感覚は、水野氏にとって企画が跳ねる時の一つの兆候だという。

timeleszの先輩メンバーは、前身グループ時代から、たびたび水野氏の番組に出演しており、「彼らの頑張りにはいつも助けてもらっています」という。

「松島(聡)さんは『プレバト!!』の丸太アートや、特番ではボウリングのパーフェクトに挑んでもらったりしました。(佐藤)勝利さんもコントライブが毎回すごく面白くて、活躍の幅に驚かされています」という中で、実は先輩メンバーのうち、これまで最も接点が少なかったのが、MCの菊池だった。

水野氏が菊池に抱いていた第一印象は、「コメントが残る人」。2015年『プレバト!!』に出演した時、「ポンと出た言葉のキレが良くて、編集してもちゃんと残る人だなと思いました」と、天性のパフォーマンス効率を振り返る。その上で、今回の番組で打ち合わせと収録を経て改めて感じたのは、視野の広さと回転の速さ、そしてテンポの良さだった。

「スタジオ収録では回しが本当に鮮やかでした。内容はかなり盛りだくさんな中、撮れ高もバッチリなのに収録時間はちょっと巻きました。正直、感動しました」

●「旨辛にんにく」を選んだ猪俣周杜に感謝
(C)MBS

今回、ロケに挑んだメンバー4人はAIと対照的な“人間らしい”爪痕を残している。象徴的なのが、「CoCo壱カレートッピングカスタム対決」に挑んだ猪俣周杜。ジャッジするのは日本体育大学の女子学生たちだが、トッピングの一つに「旨辛にんにく」を選んでいる。

AIは「大勢の女性が審査員ならニンニクは避けた方が無難」と判断したが、猪俣は、実際に食べたことで、「この旨辛にんにくは意外と匂いが残らない」と気づき、その体感をもとに選択したのだ。水野氏は、最初の対決で猪俣が今回の企画の“軸”を表してくれたことに感謝した。

「冷蔵庫の中身で料理対決」に挑んだ原嘉孝も同様。味見を繰り返して微調整してより良いものを求めるのは、人間だからこその行動だ。AIが導き出した答えを、実地の感覚で上回っていく、その“頑張りどころ”を、メンバーたちがしっかり見せてくれた。

橋本将生が、その人柄を見せたのは「誕生日プレゼント対決」。水野氏はtimeleszの公演に行った際、家族が見に来ていることを話していた姿が印象に残っており、“真心”の部分が垣間見えたら理想的だと思ったそう。実際に会ったことのないアンミカや片岡愛之助への贈り物を真剣に悩む姿が映し出された。

そして、「ファッションコーディネート対決」に挑んだ篠塚大輝が、ロケ後に毎回、率先して店舗に戻って「ありがとうございました」とお礼を伝えていたことも明かした。

ロケ以外の時間も悩み続けた彼らの頑張りのおかげで、水野氏は、スタジオ収録前の段階で「番組として必要な要素が、想定以上に積み上がっている」と手応えを感じた。「新番組のロケ前って全部“机上の空論”じゃないですか。だから、メンバーそれぞれが一人ロケに出て、ディレクターと会話しながらVTRを作り上げてくれた感覚。つまり、番組の最初の最初を作ってくれているのが、あの4人なんです」と信頼を寄せた。

(C)MBS

○“テレビ的な寄り道”はしていられない

“反タイパバラエティ”を掲げているが、厳密には、彼らは決してタイパが悪いことをしているわけではない。

「いろんな選択肢の中から、AIに勝つための最適解を選んでも、結果として時間がかかるお題に挑んでくれているんです。“テレビ的にやっときましょう”みたいなくだりは全くないです」と強調する。

誕生日プレゼントを選ぶ時に、街頭アンケートを取れば画変わりはするが、それがアンミカや片岡愛之助を喜ばせるための最適な行動ではない。「自分の中で悩む、親しい人に聞く、実際に見て触れて考える…そうしたプロセスの積み重ねしか視聴者は見てくれないし、人間がAIに勝つには“テレビ的な寄り道”はしていられない」と言い切る。

その頑張りをできるだけ長い尺で見せたいところだが、テレビ番組もタイパが好まれる時代。そこで、編集では一つ一つのカットにこだわった。

「アウトレットを8時間、1万8000歩を費やしてくれた篠塚さんの頑張りを、いかに少ない秒数の中で伝えきるか。ディレクターは、ワンカット、ワンカットを丁寧に選びました。 “頑張っている時間の総量が多い番組”を作るには、出演者が前向きになってくれるように、スタッフがそれ以上にもがかないといけない。timeleszのみなさんに頑張ってもらうということは、スタッフがひたすら愚直に“反タイパ”で作る番組なんです。出演者もスタッフも、すごくいいチームに出会えたと思います」

●若い才能とチーム編成、ファン層との親和性
timeleszという若いパワーとタッグを組むにあたっては、番組のビジュアル面にもこだわった。番組ロゴやAIのキャラクターなどをデザインしたのは、博報堂の30代のアートディレクター・小暮菜月氏。昨年実施した『プレバト!!』のUI変更や、ダウ90000・蓮見翔のYouTube番組『トキトケトーク』のタイトルロゴを手掛けた実績があり、いつも「視聴者がどう感じるか」を起点に、視聴者と番組の間をつなぐデザインを提案してくれるのだという。

また、「SNSの投稿の頻度や文言も、会社の若いスタッフに完全に任せてます」ということで、動画作成は水野氏と一緒に芸能人のTikTokなどを手掛けてきた23歳のクリエイター・関戸かのん氏が担当し、投稿するたびにバズり続けている。こうした若いクリエイターとチームを編成することで、timeleszのファン層と高い親和性を生んでいる。

今回のラインナップは、日曜昼帯の特番として最適な対決として選んだそうだが、このフォーマットにはもっと広げられる可能性を感じている。

例えば、「大喜利対決」でtimelesz側が芸人に弟子入りして1週間かけて答えを準備し、回答を出す。ティーンの悩み相談や、かつての「亭主改造計画」のようなコーディネート対決も成立する。「いろんな対決を試して、番組が大きく成長したらいいなと思っています」と意欲を示した。

○AI時代でもゆるがない俳句は“人間の文学”

テレビの制作現場では、ネタのリサーチやアイデア出しをはじめ様々な場面でAIが活用されており、「企画のブラッシュアップも、ナレーション原稿の推敲も、AIを活用するのがすっかり当たり前になってます」と明かす。

ただ、「あくまで伴走者的な存在かなと。例えば、番組のトーンに合うようにナレーションを仕上げるのは、人間のほうが上です」と評価。自身の中で、ナレーション原稿における約束事を5つ設定しているが、AIはケースごとに細分化してしまうため、番組のトーンの精度が失われてしまうのだという。

『プレバト!!』の看板企画である「俳句」作りも個人的に試してみたそうだが、「名人・特待生のレベルには発想のオリジナリティーが全然たどりつけない。凡人レベルがせいぜいです」と限界を感じた。

その理由は「俳句は季節を体で感じた“人間の文学”なんだと思います」と説明。AIは触覚や匂い、温度、湿度といった体感の蓄積がないため、どうしても感動の起点がありきたりになってしまうのだ。過去の大量の“それっぽい句”を参照しても、面白い句にはならないという。

最近、各地の「川柳コンテスト」で、AIと人間の作品が見分けられなくなったため、中止する大会も出てくるなど対応が迫られているが、俳句においては「五感で詠む」という創作方法が人間を優位に立たせている。水野氏は「俳句界の大御所の皆さんからは、“AIの登場で俳句は揺るがない”という気概を感じます」と頼もしく感じているようだ。



●水野雅之1977年生まれ、愛知県出身。慶應義塾大学卒業後、2000年に毎日放送入社。営業局で6年勤務した後、大阪本社の制作に異動。2年後に東京支社の制作に異動し、『イチハチ』で初の総合演出となり、以降は『林先生が驚く初耳学!』『教えてもらう前と後』などを企画・演出・プロデュース。現在は『プレバト!!』総合演出のほか、新木優子の公式YouTube・TikTok、ダウ90000蓮見翔の音声コンテンツ『トキトケトーク』など、地上波テレビにとどまらないコンテンツ制作を手がける。