【インタビュー】秋葉龍、3rdアルバム『Akiba Tatsu』に高度な構築美と最新鋭のプログレサウンド「最終作として自らの名前をつけた」

YES、GENTLE GIANT、GENESIS、JETHRO TULL、そしてHATFIELD & THE NORTHをはじめとするカンタベリーミュージックなど、英国プログレッシヴロックに影響を受け、作詞作曲も手がける1997年生まれの才能溢れる若き音楽家が、秋葉龍(Tatsu Akiba)だ。ヴォーカル、ギター、キーボード、ベース、作曲、編曲まで全てひとりでこなし、“ひとりプログレ”の異名を欲しいままにしてきた彼が、3rdアルバム『Akiba Tatsu』をリリースした。
PROVIDENCEや那由他計画の塚田円(Syn)、ダモ鈴木やマニ・ノイマイヤー、Zappa Plays Zappaとの共演でも知られる今井研二(Fl)、内核の波ほか多方面で活躍する吉田真吾(Dr)ら、名手たちをゲストに迎えて制作された本作について、じっくり語ってもらった。
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■今なお失われていないロックのパワーを
■世界の音楽ファンに届けたい
──本作制作にあたってのコンセプトやテーマとは?
秋葉:本作は主にカンタベリーサウンド(英国カンタベリーを拠点としたジャズやサイケデリックの融合によるプログレッシヴロックの支流)に大きく影響を受けた作品となっております。使う楽器の特殊なトーン、メロディやリズムの絡みの複雑さをポップにまとめ上げたロックという作風です。しかし決して’70年代当時のカンタベリーの再現や夢の続きに留まらず、あくまでそれを背景に他の音楽をも吸収し秋葉龍独自の世界観を描いた作品となっております。
──曲名については、アルバムからの先行配信シングルとしてリリースされた「2389」をはじめ、記号のようなタイトルが多いですね。
秋葉:楽曲のコンセプトとしては“アルファベットと数字”なのですが、これは特に大義があるものではなくて。曲の作詞を語感やナンセンスなジョークに任せて書いたところ、アルファベットや数字の言葉遊びが多かったため、曲のタイトルもそのようなネーミングにしました。
──1stアルバム『SWANS DANCE, ROSES BLOOM LIKE MAD』や2ndアルバム『CITIES IN PEOPLE』と、本作との関係性はどんなものですか?
秋葉:先に述べたカンタベリーサウンドは、断片的には1stや2ndアルバムにも感じられるところがあるのですが、いわゆるシンフォニックロックとトラッドフォークの影響が大きくありました。そのためアコースティック楽器やメロトロンの使用が多く、曲もアルバム全体でひとつの組曲だったり、1曲あたり12分以上のサイズだったり、歌詞はファンタジー風に社会の風刺や人々の情動を描いたりと、今作よりもより分かりやすくドラマチックなサウンドでした。
──叙情性という意味ではそうでしたね。
秋葉:今作ではフォークアコースティック色やシンフォニック色が大きく減退し、メロディの美しさや曲展開の構築美をそのままに、ジャズロックやサイケデリックロックに近いサウンドとなっています。音の面白さやオリジナリティをより追求したため、先ほど述べた通り、作詞は語感重視で作曲面は斬新なコード進行やメロディが顕著に見られると思います。
──これまで“ひとりプログレ”と呼ばれるようなスタイルで活動をされてきました。一般的にプログレッシヴロックを演奏するアーティストは大所帯なことが多いですが、秋葉さんがひとりで活動してきたのは何故ですか?
秋葉:私は大学時代からコピーバンドをやっており、同時に自分で作った曲もたくさん持っていましたが、その曲を演奏するオリジナルのバンドのメンバーがなかなか集まらず、音源にして発表することが出来ないでいました。卒業すると同時に新型コロナのパンデミックが始まり、対面バンドがなかなか出来ない状況になってしまって、そこで以前から持っていたDAW (PC上で音楽制作の全工程を一元的に行えるソフトウェア)を使って好きな曲のカバーや、ゲーム音楽の多重録音したものを撮影して、YouTube上での活動を始めました。
──それなら自宅でひとりで出来ますし、新型コロナウイルス感染予防対策としても問題ありませんね。
秋葉:録音やミキシングのノウハウが身に着いてきたので、せっかくなら自分のアルバムも自主制作でやってみようと思ったのがきっかけでした。そうやってひとりで作ったものがなかなか評判も良かったので、感染対策としての外出自粛が解かれた後も、新バンドが実現するまではひとりプログレをやっていました。管楽器やドラムなど自分では演奏できない楽器のゲストをお招きしているうちに、今作のような形態にたどり着きました。

──今作では9人ものゲストミュージシャンを迎えて制作されています。
秋葉:サックス、フルート、シンセサイザー、ヴォーカル、ドラムにゲストをお招きしています。自分の音楽制作の幅が広がっていくにつれて、同じメロディひとつとっても「これはサックスが合うんじゃないか?」「こっちは女性ヴォーカルの声が合いそうだ」とイマジネーションが膨らんできたため、自分の過去の共演経験や個人的な知り合いをつてに声をかけさせてもらいました。
──ドラマーは計5人の方が参加されています。
秋葉:当初ドラムは前作までと同様、打ち込みでリリースする予定だったのですが、本作でライナーノーツを書いていただいたMJさんに「今作はバンドサウンドとして完成されているので、生ドラムのほうがよりグルーヴを体感できて、作品としての質も上がる」とアドバイスをいただき、それぞれの曲に合ったドラマーをお呼びしました。
──ゲストが参加したことで、どんな変化が生まれましたか?
秋葉:私は曲を作る時にはけっこう編曲込みで行なっているので、曲がデモとして完成する頃には楽器の細かいフレーズやドラムのフィルなども相当練ったものが出来ているんですが、今回はドラムも含め、すべての楽器の演者の方々に、重要なメロディやキメ以外のフレージングをお任せしました。そのおかげで自分では思いつかないパターンやトーンを収録できましたし、私の作った曲との面白いマジックが起こって、作品としての深みが増して、バラエティが豊かになったと思っています。
──秋葉さんの音楽性は、今の音楽シーンの中ではかなり異色な存在だと思います。時代性的にも’60年代の匂いを感じますが、今これをやっている理由を教えてください。
秋葉:昨今「ロックは死んだ」と言う人も多いほど、当時のシーンほどロックに勢いはなく、下火になっていると思います。しかし私は、ロックのダイナミズムがテクノロジーによって失われたとか、アイデアやオリジナリティが底をついたなどとは決して思いません。主流ではなくても、或いは形を変えたりしても、リスナーに雑に消費されず、本物のロックの熱量を持ったサウンドを出しているミュージシャン、それを愛するリスナーは現代にもたくさんいますよね。
──確かにロックは継承されていると思います。新しい音楽が目に付くだけで。
秋葉:私が今、当時の匂いのするサウンドを奏でるのは懐古主義によるものではなく、今なお失われていないロックのパワーを世界の音楽ファンに届けたいという思いからです。そのため、自分のことを“1960〜70年代に当時いたはずのバンドが現代にタイムスリップしてきてしまったが、新しい価値観やテクノロジーを取り入れつつ、また新たに現代のロックとして生まれ変わる”という漫画や小説にありそうな設定の主人公だと思い込んで活動しています(笑)。

■テクノロジーこそが全てではありません
■私は思い切って縁を切っております
──秋葉さんは作詞、作曲、編曲だけでなく、ヴォーカル、マルチな楽器演奏ほか、ジャケットデザインやミュージックビデオ制作などのアートワークも手がけていますね。
秋葉:私がデザインや映像編集の技術を身に着けたのは、ここ4年ほどのことです。私の愛したバンドにも、アルバムのアートワークやステージングといった視覚的な領域まで、ロックの芸術性を拡張しようという気概を持ったミュージシャンが多くいました。私は、1stと2ndアルバムまでのジャケットやミュージックビデオのアイデアは自分が出し、実際の制作や撮影は腕の立つ知り合いに依頼していました。しかし今作は『Akiba Tatsu』というセルフタイトルということで、出来ることは自分で出し切りたいという思いがあったので、YouTube動画やサムネイル編集で培った技術をより磨き、アートワークの制作に挑みました。
──表現したい世界観や創り出したいイメージは、どんなものなのでしょう?
秋葉:音楽とアートワーク、どちらの制作の中でも私に一貫しているのは“決してAIに頼らない”ということでした。AIの作った作品のように正確無比で完璧に整った作品でも、冷たくて面白さに欠ければ、それは私にとって無価値です。とてもアナログな発想なので、これこそ懐古主義と思われてしまいそうですが、テクノロジーこそが全てではありません。芸術というのは非常に神経を使って、科学や社会と折り合いをつけてやっていかないと、その価値が危うくなってしまいます。ことAIに関しては、うまく対応していかないと“それっぽい”音楽だけがはびこる音楽市場になってしまうので、私は思い切って縁を切っております。このアルバムの収録曲にも「I Ain’t AI」という曲があるのですが、私はこのようなロックをやる以上、身体性のある、ともすれば粗や隙があるようにも捉えられるような、人間にしか、秋葉龍にしか出来ない温かみのある世界を表現していきたいと思っています。
──“プログレ”という言葉から、最近はいわゆる“テクニカルメタル”を想起するリスナーもいるかもしれませんが?
秋葉:世の中には、100の音を並べるのではなく、1音だけで聴かせることのできるミュージシャンもいて、これは訓練によるテクニック習得よりも難しいことだと思います。テクニックは手段であり、目的になってしまってはいけない。それでは運動会やオリンピックのようなものです。私たちがやるのはそうではなく、音楽であり、音楽は一生探し続けても聴き切ることのできないほどの数が世界にあります。もちろんテクニカルメタルも、彼らなりの極地を目指して作られた優れた音楽であると思いますが、リスナーの皆さんが良い音楽を探しているのなら、たまにはテクニックにこだわらない温かみのある音楽も聴いてみてはいかがでしょうか。

──秋葉さんが紡ぎ出す、どこか懐かしく優しい音の世界を新鮮に感じる若い世代の音楽ファンもたくさんいるはずです。もちろん、年季の入ったクラシカルプログレファンには間違いなく響く作品だと思います。
秋葉:私はプログレやカンタベリーのサウンドすらも手段としており、目的ではありません。目的は、“秋葉龍にしか出来ない音楽を作ること”。私の音楽を聴いて、リチャード・シンクレアの声やフィル・ミラーのギターを想起していただくのは大変光栄なことではありますが、そういったサウンドの表層の下には、ただならぬ巨大な秋葉龍のオリジナリティが渦巻いていますので、ぜひ深く味わってお聴きいただければ幸いです。
──先ほどもお話がありましたが、この3rdアルバムはご自身の名を冠したセルフタイトル作となっています。
秋葉:半分冗談、半分真剣みたいなタイトルです。セルフタイトルは多くのバンドやミュージシャンの場合、自身の1stアルバムにつけることが多いと思うのですが、ここは敢えて3作目になって“今なの?”というタイミングでつけるという面白さを狙いました。私の知る唯一の例外は、ビートルズが後期になって毛色の違う初の2枚組アルバムを出す時にやっと『The Beatles』とつけた事例ですね。こういうものとか、曲のタイトルを一番盛り上がるところでもなんでもない場所の歌詞で回収するみたいな“外し”が、個人的にけっこう好きなんですよ。王道とか様式美みたいなのから外れて、リスナーに意外性を与えるというやり方は曲作りでもよく行なっています。
──自身の名前を冠するくらい、出来栄えにも満足している?
秋葉:そうですね。決定的な作品が完成したぞという自信の表れでもあります。今の自分の最大限を引き出すことが出来たし、これからも違う素晴らしい音楽を作っていくつもりではありますが、今作は今の自分にしか出せないパワーがあると私は感じています。そのため当面の間はソロ活動としてのアルバム発表は、これを最後にしようと考えており、最終作として自らの名前をつけたという意味もあります。
──今作の完成を踏まえて、今後どんな活動をしていきたいか、ヴィジョンがあれば教えてください。
秋葉:今後、最も私が注力していきたいのは、まだ駆け出しのバンド”Pink Square Ave.”です。現在私の書いた曲だけをレパートリーとして演奏しておりますが、場数をこなし、バンド内でのメンバーのそれぞれの音楽的カラーの化学反応が起き始めており、私個人ではなくバンドとしての作編曲が活発化していく見通しです。今後はこちらのバンドでまたプログレやカンタベリーにとらわれない、新たな次元のロックへと踏み出していこうと思います。
Pink Square Ave. 活動を始めます
— Pink Square Ave. (@PSAvenue_delcen) August 1, 2024
秋葉龍(@ArabSobo)
L.T.I.Adachi(@LTIAdachi)
埜咲ロクロウ(@Seaweed_prog)
洋景(@mad_yokel)
Chijinyo-(@chijinyo_)
以上5人で、現代にプログレ/カンタベリーを再構築します pic.twitter.com/J1RIKxmou3
──Pink Square Ave.は、秋葉さんや金属恵比須の埜咲ロクロウ(B)さんを中心に2024年から活動されているバンドですね。ソロよりもバンド活動の比重が増えていきそうな流れということですか?
秋葉:ソロ活動では、今のような形式のアルバムを出すことは当面しない方針で、全然違う音楽を思いつきでストリーミングのみで発表することはあるかも知れません。今考えているのは大人数のミュージシャンを呼んだ大地の唸るようなゴスペル曲を作ることと、架空のゲームのBGMを作ってまとめてアルバムにすることです。どちらも本当にやるかは分かりませんが(笑)。
──意外な野望をお持ちで驚きました。活動スタイルも広がっていきそうですね。
秋葉:活動開始以来、私は客演としても何作品かで歌、ギター、オルガンなどで参加してきました。作品自体も面白くなったと自負していますし、他の方の素晴らしい音楽に参加させていただくことで私自身の成長にもなりました。ゲストミュージシャンとしてお呼びいただければ、今後も積極的に参加して参りたいと思います。
取材・文◎舟見佳子

■3rdアルバム『Akiba Tatsu』
2026年1月28日(水)発売
IMWCD-1839 \2,970(税込)
配信リンク:https://linkco.re/ddEpuTXu?lang=ja
▼トラックリスト
01 Overture, ABC & 123 Song
02 Sign 2 Turn 4 Another 1
03 Or O Or I
04 AWV 1202
05 ROFLOLed
06 I Ain’t AI
07 2389
08 ATGC
09 12-15-22-05
10 BGN 26
関連リンク
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