現在の物流危機には、1990年代から加速した業界の構造変化が密接に関係しています(記者撮影)

新たな時間外労働規制の適用で、トラックドライバーの長距離運行に制限がかかる――。この「物流2024年問題」により、多くの業界関係企業が現在も対応に追われている。事態はなぜ深刻化したのか。担当記者が解説する。

※記事の内容は記者による解説動画「Q Five」からの抜粋です。外部配信先では動画を視聴できない場合があるため、東洋経済オンライン内、または東洋経済オンラインのYouTubeでご覧ください。

制作:田中険人

Q:物流危機を深刻化させた「悪循環」の構造とは?

物流危機が深刻化している要因はたくさんあります。中でも注目したいのは、「多重下請け」の構造、そして「荷主(=荷物の輸送や保管を依頼する側の企業)優位」の構造。これらは長い年月の中で業界に定着してしまった、根の深い問題です。

振り返ると、「物流2法」の施行によって、運送業が免許制から許可制に変わったのが1990年のことでした。事業を始めるのに必要な車両の台数なども緩和され、そこから新規参入が相次ぎます。結果、この30年で業者の数は1.5倍の、6万2000〜6万3000社程度まで膨張しました。

業者の数が増えれば、価格競争は激化します。また、物流は季節によって物量の変動が激しい業種でもあります。そういった背景から、(経営をスリム化する目的で)仕事を下請けに出すことが当たり前になっていきました。こうして、多重下請けの構造が作られていったわけです。

最近の大手の手がける案件でも、「6次下請け」のような形になっている例は実際にあり、最終的に荷物を運ぶ会社が「どこが元請けなのかわからない」となるケースもあるといいます。

こうした多重下請け構造の中では、「水屋」と呼ばれる、車両を手配してマージンを抜いていくだけというブローカーの存在も目立ってきており、これを問題視する業界関係者が増えています。

本来業務でないことも当たり前に押し付け

次に、荷主優位の構造についてです。運送業者の数が非常に多くなったため、荷主が優位な立場で業者を選別するようになっていきます。

「この運賃で受けてくれないならほかに頼む」と言われてしまうと、運送会社としては苦しい。こういった点に付け込む「買い叩き」の行為は、業界では20年、30年と続いてきました。

また、トラックが着いた先ですぐ荷物を下ろせず、長々待たされる「荷待ち」などもよくみられるケースです。加えて、「倉庫に運んでくれ」「ラベルを貼ってくれ」など、本来ドライバーの業務ではない部分まで追加料金なしで当たり前のように押し付けられるケースもあります。

こうした要因が重なって、賃金は低いのに長時間労働というドライバーの働き方が定着してしまいました。そんな悪条件では若手も集まりにくいため、業界では高齢化と人手不足が深刻化しています。

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(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)