若月佑美(撮影:池村隆司)

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 下鴨神社の糺の森に暮らす狸一家を中心に、京都の地で狸・天狗・人間が繰り広げる奇想天外、波瀾万丈な物語『有頂天家族』。シリーズ累計55万部を誇る森見登美彦の大人気小説が、ストレートプレイとして舞台化される。

参考:若月佑美、先輩の教えによって変化した考え方 「恥を横に置いて行動するようになった」

 妖艶な美女・弁天を演じるのは若月佑美。2018年に乃木坂46を卒業してから、役者としての活躍が目覚ましい彼女が、舞台にかける思いとは。そのほかにも、人生を変えるきっかけとなった先輩俳優からの“言葉”や、憧れの人物像などをたっぷりと語ってもらった。

■妖艶な美女“弁天”に共感する部分は?

ーー出演が発表されて、周囲の反響はいかがでしたか?

若月佑美(以下、若月):原作を知っている方は、「あの弁天を若月が!?」と喜んでくれていました。原作を知らない方も、出演者のラインナップやビジュアルを見て、「面白そうだね」「行きたいです」と言ってくださって。ありがたいですね。

ーーポスターを拝見しましたが、若月さんが演じる弁天のビジュアルもすごいですよね。

若月:いやぁ、ビックリしました(笑)。メイクをするまで、どんなビジュアルか詳しく教えられていなかったので、「こんなに煌びやかなの!」と思いました。おかげで弁天のイメージを掴むことができました。

ーー演じられる弁天は“妖艶な美女”ということで。

若月:かなりミステリアスな女性です。何を考えているかわからないし、言っていることがコロコロ変わっていく。人間と狸と天狗、それぞれの中間にいるというか。「わたしは人間だから」と言っていたかと思えば、「わたしは天狗だもん」と言ってみたり。いろんなところに逃げていくんですよね。掴みどころがない人だなと思っています。

ーー掴みどころがないと、演じるのも難しそうですね。

若月:かなり怯えています(笑)。弁天って、やっぱり女性としての魅力がないとダメなので。赤玉先生も弁天のことが好きだし、矢三郎からも綺麗な人だと思われている。でも、だからといって、そっちに振り切って色っぽくなりすぎるのも違うと思うんですよね。天狗としての怖さだとか、人間や狸と対立したときに見える大きさだとか、そういうことも考えていかなければいけないので、難しいです。その分、やりがいのある役柄だと思います。

ーー弁天に共感する部分はありますか?

若月:うーん。でも、物怖じをせず、ハキハキ発言をする……みたいなキャラクターは、これまで演じることが多かったので、引き出しとしてはあるんですよね。ただ、妖艶だったり、色っぽかったり、女性らしかったり、周囲を翻弄する役柄は経験したことがないので、新しく作っていかなければと思っています。

ーー共演者のみなさんとはこれまでに共演経験はあるんですか?

若月:濱田(龍臣)さんとは、過去に番組で一度お会いしたことがあるんですけど、ほかの方は本当に初めましてで。なので、今から震えています(笑)。ラインナップがすごすぎて。

ーー舞台と映像作品では、共演者の方々との関わり方も変わってきますもんね。

若月:全然違いますね。舞台は、何度も相談をして、リテイクを重ねて作り上げていく感じなので。たとえば、ドラマだと一度マックスまで上げたら、それをもう二度とやることはないじゃないですか。でも、舞台だと「これは上げすぎたかもね」「ちょっと下げすぎたから、上げていこう」とか、稽古でどんどん変えていくことができる。そうすることで、お客様に本当にいい部分を見せることができるというか。

ーー目の前にお客さんがいるのも大きな違いですよね。

若月:本当に救われる部分がたくさんあります。笑いの部分で笑いが返ってきたら、すごく嬉しいし、ホッとします。「一体になったな」と思うことができますし。あと、映像だとひとりの人物にスポットが当たることが多いですけど、舞台だと全体が見られるのもいいですよね。好きな方にフォーカスして、物語を追いかけていけるというのも、舞台の素敵なところだなと思います。

ーー今回は、新橋演舞場(東京)のほかに、南座(京都)、御園座(愛知)も回られるんですよね。地方公演は久しぶりですか?

若月:めちゃくちゃ久しぶりです。コロナ禍以降は、東京のみのことも多くて。なので、ふだんは会うことができない方にお芝居を見ていただけるのがすごく楽しみです。やっぱり、空気感も違うんですよ。

ーー反応とかも変わるんですか?

若月:変わります! 過去の舞台でも、関東と関西の反応ってやっぱり違うなぁと思いました。とくに、コメディだと如実だったりして。そういった雰囲気を、お客様と一体になって作り出しているライブ感がすごく楽しいです。

■舞台で求められるのは“アドリブ力”

ーー若月さんは、舞台の経験も豊富ですよね。

若月:でも、どこに行っても緊張しますよ(笑)。

ーー人見知りなんですか?

若月:はい! 人見知りというか、気にしすぎ? とにかく、気にしいなんですよ。あとは、めちゃくちゃ緊張しいで。お芝居の面でも、「いま、ここまで出して大丈夫なのかな?」とか、すごく考えてしまいます。

ーー舞台の稽古も緊張されますか?

若月:しますね。みなさん、本当にすごいんですよ。初日から、「これで、ステージに立てるんじゃないか?」というくらいのものを持ってこられるので。

ーーそこから1カ月くらいかけて磨き上げていくんですもんね。

若月:はい。なので、すごいものができますよ。過去に、(吉田)羊さんとご一緒させていただいたことがあるんですけど、すごい台詞量があるのに、初日から台本を持ってこなかったんです。

ーー全部覚えられていたんですか?

若月:そうそう。台詞だけじゃなく、キャラクターもすでに出来上がっていて。本当にすごいなって。

ーー舞台の脚本は、台詞が膨大ですもんね。

若月:そうなんですよ。だから、頑張らなきゃ……。

ーー覚えられなかったりすることはあまりないですか?

若月:今のところ。ただ、情景で台詞を覚えていることがよくあって。「この情景にはこの台詞!」みたいな。実際に、前回の舞台であったんですよね。刀を右に振ったときに言う台詞があったんですけど、その次に同じ動作をしたとき、また同じことを言っちゃって。

ーーそのときはどうされたんですか?

若月:ギリギリ、関連づけられたのでセーフでした。その台詞を言いつつ、元の台詞に戻るようにアドリブでつなげて。気づいている方があまりいなかったので、良かったんですけど。これからは、意識して台詞を言っていかなきゃいけないなぁと思いました。

ーーそういったアドリブ力を求められるのも舞台ならではかもしれませんね。

若月:そうだと思います。舞台は映像とは違って“生”なので、トラブルとかが起きることもあるんですよね。衣裳が引っかかってしまったり、置いてあるはずの場所に、物が置いていなかったり。たとえば、この間も観劇した舞台で、ステージ上から小道具が落ちてしまったことがあったんです。

ーーそれは焦りますね。

若月:ですよね。でも、キャストさんはすごく冷静で。アドリブで対応しながら、自然にはけていかれたので、「すごい!」と思いました。自分もできるようにしておかなければならないな、と。

ーーご自身でも舞台を観劇される機会は多いんですか?

若月:そうですね。役者の友人が多いので、「観にきてほしい」と誘われることもありますし。この間は、朗読劇を観に行きました。朗読劇って、座って台本を読んでいるだけで、お客さんを楽しませなければいけないから、すごく難易度が高いと思うんです。でも、声だけでこれだけの人を感動させられるってすごいなぁって。勉強になる部分がたくさんありました。

■朝ドラ『おむすび』では橋本環奈と久々の共演

ーー現在放送中の朝ドラ『おむすび』(NHK総合)にも出演されているんですよね。

若月:わたしが出るのは糸島編で、もうすでに撮り終わっているんです。朝ドラは、祖母がいつも観ているのを知っていたので、ずっと憧れていました。いつもみたいに、わたしから「観てね」と言うのではなく、もともと祖母が観ているものに自分が入っていけるのが、すごく新鮮というか、嬉しかったです。

ーープライベートでも仲の良い橋本環奈さんとも久しぶりの共演ですね。

若月:めちゃくちゃ嬉しかったです。わたしにとっての初めての朝ドラが、かんちゃん(橋本環奈)主演作というのは、すごいご縁だなと感じています。

ーー撮影はいかがでしたか?

若月:とても楽しかったです。ずっと笑ってました(笑)。わたしが演じるのは、かんちゃんが在籍する書道部の顧問なので、撮影現場に現役の高校生の方たちもたくさんいて。若いパワーをたくさんもらえて、ありがたかったです。その子たちが、わたしのことを「環奈ちゃんと同い年くらいだと思ってた」と言ってくれたので、「やったー!」ってひとりで盛り上がったりして(笑)。すごくウキウキしちゃいました。

■人生を変えるきっかけとなった“言葉”

ーー若月さんはグループを卒業されてからも、途切れることなくさまざまな作品に出演されていますよね。

若月:本当に幸せなことです。グループを卒業して、ひとりになっても選んでもらえているのって、奇跡だなって。ただ、わたしも年齢を重ねて、年下の方たちとの共演が増えているので、これからは助けになるような存在を目指していかなければならないなと思っています。待ち時間に他愛のない会話をしたり、プライベートでご飯に行って話を聞くとか。自分がこれまで先輩方にしてもらって嬉しかったことを、今度は後輩たちにしてあげたいです。

ーー若月さんも過去に先輩方に相談されたりしていたんですか?

若月:はい。グループ時代は、外部の方と関わる機会があまりなかったんですけど、卒業後はいろいろな先輩方に話を聞いてもらっていました。たとえば、先ほどもお話しした羊さんとか。あとは、福田雄一監督と安田顕さんにも、人生がガラリと変わるほどありがたい言葉をかけていただいたり。

ーーどのような言葉をかけてもらったんですか?

若月:グループにいたころって、「売れてますね」と言っていただけることが多かったんです。でもそれって、グループの勢いがあるだけで、個人として何かできているわけではないんですよね。ずっと、グループのおかげで、ファンの方が見てくれているんだという意識が消えることがなくて。でも、「そんなことないです」と返すのは違うから、「ありがとうございます」と笑うしかない自分がいて。なので、安田さんに「若月には、売れてほしいんだよ」と言われたとき、すごくスッキリしたんです。「そうなんですよ! わたし、まだ全然売れてないんですよ!」って。

ーー素敵な言葉ですね。

若月:福田さんは、有言実行してくれるところがありがたいです。「また今度、ご一緒しましょう」と言うだけで終わってしまうことって、よくあるじゃないですか。でも、福田さんは言ったという事実を、絶対に忘れない。「次、やるって言ったから、やるよ!」と言われたとき、なんだか心が救われたんですよね。あと、わたしはアイドル時代「真面目」って言われることが多かったんです。

ーーたしかにそういうイメージがありました。

若月:ですよね。でも、自分のなかではそんなふうに思っていなくて。もしかしたら、周りに天然だと言われる人が自覚ないのと同じなのかもしれないけど(笑)。真面目がゆえに、真面目で悩んでいたことがあったんです。

ーーそんなことがあったんですね。

若月:「真面目だから、何を言っても面白くないんじゃないか?」とか、「優等生発言をしてしまっているんじゃないか?」とか。あとは、「“真面目”って“堅苦しい”って意味なんじゃないか?」と思ってしまったこともありました。でも、福田さんとコメディ作品でご一緒したときに、「真面目は武器だよ」と言ってもらって。

ーーそれは刺さりますね。

若月:かなり刺さりました。「真面目にバカをやるから、お客さんが笑えるんだ。何も考えずにバカなことをやると、意図が伝わらないから、笑いが起きない。でも、真面目人間が、真面目にバカをやろうとすると、それがまっすぐに伝わってお客さんが笑うんだ」って。そう言われたときに、わたしはこのままでいいんだと思えたんです。なので、福田さんにはすごく感謝しています。

ーーこれから舞台の本番を迎えることになりますが、舞台を終えたあとの今後の展望があれば教えてください。

若月:ずっと憧れているのがプロデュース業です。人の役に立ちたいという気持ちが強くて。プライベートでも、自分が助言したことで、その人がいい方向にいっているのを見たりするのが好きで。あと、憧れの人がいて……。

ーー“憧れの人”ですか?

若月:はい。“スーパー演助”という舞台の演出助手の方に出会ったのですがその方が本当にすごいんです。気配りができて、その方がいるだけで円滑に物事が進んでいく。わたしは演出家や監督などには向いていないと思うので、その方のように、誰かの隣でそっと背中を支えられるような人間になりたいという夢もあります。あとは、おしゃべりが好きなので、またラジオができたらいいなと思っています。

(取材=宮川翔/構成=菜本かな)