介護を受けることを考えるなら「どこで」「だれと」「どのように」暮らすかを想定することが鍵となる。定年退職後のライフプランの組み立て方を解説
介護は生活上での課題
図表1は、退職後のライフプランを考えるうえで、どこにポイントがあるかを示したものです。この図では、介護が必要になるライフステージを「後期高齢者(75歳)になってから」と見立てています。
介護については「医療・介護」と表現されることがありますが、75歳以降は特に、健康上の問題である「医療・介護」を軸に、ライフプランを組み立てる必要があります。
図表1
※筆者作成
このとき、どこでだれと生活するかが重要なポイントになります。
介護は一般的に、介護を必要とする人を世話することなどのように解釈されがちですが、本質的には、介護を必要とする本人(要介護者)が「どのような場所で」「だれに」介護されるのか、つまり、どこでだれと暮らしながら介護を受けるのかという「生活上の課題」といえます。
このようなことから、退職後のライフプランを組み立てる際は、どこで天寿を全うするかを想定したうえで、介護について対策を講じる必要があります。
介護を考える際は、生活環境の変化を想定する
それでは、要介護状態の代表的な例として、身体障害が生じた場合について見ていきましょう。例えば、脳梗塞を患い、救急車で病院に運ばれ、右腕が動かないなどの障害が残った状態でその後の生活をしていくことを想定します。
罹患後の生活環境の変化としては、次のような過程が考えられます。全ての人がこのような過程を経るわけではありませんが、一般的な流れとしてイメージしてみてください。
(1)急性期病棟⇒(2)回復期病棟や慢性期病棟⇒(3)介護施設や自宅
(1)病院の急性期病棟では、救急車で運ばれた後、緊急で入院・手術が行われます。
(2)その後、回復期病棟に移り、リハビリテーションを行いながら日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)の回復を目指します。回復期病棟で十分にADLが回復せず、もう少し療養が必要な場合は、慢性期病棟に移り、療養を重ねます。
(3)回復期病棟や慢性期病棟を退院し、介護施設や自宅で生活します。
病院は「治療や療養」をする場所、介護施設や自宅は「生活」をする場所、と分けて考えると分かりやすいでしょう。
つまり、治療や療養をしていた病院を退院し、その後、介護施設や自宅でだれとどのように暮らすかを考えることが、人生設計における介護のポイントであるといえます。
どこで、だれと、どのように暮らすかを想定する
「どこで、だれと、どのように暮らすか」介護は生活課題の一つであるため、この3つについてあらかじめ想定しておく必要があります。
1. どこで?
「自宅で最期を迎えたい」、と考える方は多いでしょう。その場合、「どこで?」は「住み慣れた家」になるでしょう。
一方、自宅に帰っても家族が面倒を見ることは難しい、独り身のため自力で生活することができない……などの事情がある場合、「どこで?」は「介護施設など」になります。
2. だれと?
住み慣れた家で介護されながら生活したいという場合、だれにサポートしてもらいながら暮らすかが、生活上の課題になります。配偶者や子ども、介護職の方など、具体的な支援者を思い浮かべてみましょう。
一方、介護施設などで暮らす場合、具体的に生活を支援してくれる人は、施設に関係する職員になります。
3. どのように?
自宅で介護されながら暮らす場合、どのようなサポートを受けることができるかを、あらかじめ認識しておく必要があります。
例えば、介護保険サービスのうち、訪問介護を利用する場合、食事や入浴、トイレ、掃除、洗濯、買い物などについて介助を受けることができます。また、デイサービス(通所介護)を利用する場合、デイサービスセンターで食事や入浴、トイレ、レクリエーションなどのサービスを利用することができます。
一方、介護施設などで暮らす場合、介護保険制度を通じ、一連の入所サービス(食事や入浴、トイレ、掃除、洗濯、買い物、レクリエーションなど)を利用することができます。
まとめ
介護施設の種類や介護保険制度におけるサービスについては、紙面が長くなるため今回は言及しませんが、これまで伝えてきたように、介護は「どこで、だれと、どのように暮らすか」という生活上の課題といえます。これについてある程度イメージする過程で、経済的な課題や選択すべき方法が見えてきます。
昨今、お金ありきで介護を考える傾向があるように感じますが、これは単に、「介護というサービスを買うための原資をためる」という類いの話です。
大切なのは、「どこで、だれと、どのように暮らすか」です。支えてくれる場所があって、支えてくれる人がいて、どのように支えてくれるか……ということをあらかじめイメージするからこそ、ためるお金に価値が生まれます。
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)