ウーバーイーツ配達員が一度ハマるとなかなか抜け出せない沼。それは……

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ウーバーイーツ配達員が一度ハマるとなかなか抜け出せない沼。それは......

連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第73回

ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!

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趣味などにどっぷりハマって抜け出せないさまを表現する「沼」という言葉がありますが、実はウーバーイーツ配達員にとっても、一度ハマってしまうとなかなか抜け出せない沼が存在します。

私が主に配達する東京の湾岸エリア、中央区、港区、江東区での一番の沼は江東区有明と港区台場。「お台場」の名で有名な港区台場は、私のような自転車配達員にとっては特に行ってはいけない、一度入り込んだら最後という沼です。

埋立地であるこの場所は、北側にJR山手線・田町駅や浜松町駅へつながるレインボーブリッジが、西側にはJR京浜東北線・大井町へとつながる東京港トンネルがあります。

レインボーブリッジは自転車で通行する場合、歩道を15分から20分ほど手で押していかなければなりません。さらに通行時間が限られていて、4月から10月は9時から21時、11月から3月は10時から18時となっています。また、東京港トンネルは自転車の通行が禁止されています。

ということで、「お台場沼」にハマってしまった場合は、有明方面に出なければならないのですが、有明から都心部へは豊洲、晴海、勝どきと3つの埋立地を通って戻ります。埋立地同士を結ぶ橋の中には、大型の船が通れるようにするため高さ30mを超える橋もあり、電動アシスト自転車を使っていても橋に差し掛かるとテンションが下がります。

ごちゃごちゃと書きましたが、ざっくり言うとお台場はレインボーブリッジや東京港トンネルのショートカットルートを自転車はほぼ使えないので、遠回りしなければならない高さのある橋を何本も越えてたどり着く、最果ての地なのです(自転車配達員である私個人の感想です)。

そんな最果ての地であるお台場がなぜ沼なのか。それは店が多く、住宅やオフィスも結構あるからです。

この場所はバイク配達員の方も行くのが手間なのか、ウーバーイーツの配達員をあまり見かけませんが、お台場には店も住宅も揃っています。さらに隣の有明にはタワーマンションが立ち並び、2020年には巨大なショッピングモール「有明ガーデン」がオープンして飲食店が一気に増えました。そのため、一度このエリアに入ると、お台場と有明の中だけで完結する注文が入り、なかなか抜け出せなくなるのです。

抜け出せなくてもそれなりに稼げればいいのですが、配達依頼が入ってくるペースは1時間に2本程度。依頼が来ないので銀座方面に向かっている途中に、お台場の店の配達依頼が届いて引き戻されることもよくあります。その上、海に近いので真冬や春先は風が吹き荒れ、向かい風の場合は自転車が前に進みません。

配達員用のアプリを切って注文を受けなければ、「お台場沼」や「有明沼」から抜け出すことができますが、自転車の場合、お台場から銀座や新橋など繁華街へ戻るには30分ほどかかります。

「もし、お台場から銀座へ戻る途中にある豊洲の店から銀座への配達を受けることができたら、帰るついでにひと稼ぎできる」と考えると30分もスイッチを切る勇気が出ません。というわけで、注文が来て内容をよく確認せずに依頼を受け、再びお台場へ戻されてしまうのですが。

他の配達員の方の体験によると、都内には蒲田近辺にある「羽田空港沼」(空港で働くスタッフに蒲田の飲食店の商品を何度も配達する沼)もあるようです。また、住宅地の多いところでは、山の上に切り開かれた住宅地と山のふもとにある鉄道の駅周辺の飲食店を往復する、自転車配達員は決して踏み入れてはいけない沼もあるそうです。

趣味の世界の沼もハマると怖いですが、ウーバーの沼もハマると大変です。

文/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明