by Victoria Pickering

アメリカの有力紙のワシントン・ポストが2024年10月25日に、「2024年11月5日のアメリカ大統領選挙に向けて、特定の候補者を支持することはありません」と発表しました。ワシントン・ポストによると、民主党候補のカマラ・ハリス氏を支持する記事を用意していたものの、2013年にワシントン・ポストを買収してオーナーに就任したAmazonの創業者であるジェフ・ベゾス氏による指示があり、掲載が見送られたとのことです。

Opinion | On political endorsement - The Washington Post

https://www.washingtonpost.com/opinions/2024/10/25/washington-post-endorsement/



The Washington Post will not endorse a candidate for president - The Washington Post

https://www.washingtonpost.com/style/media/2024/10/25/washington-post-endorsement-president/

Jeff Bezos killed Washington Post endorsement of Kamala Harris

https://www.cnbc.com/2024/10/25/jeff-bezos-killed-washington-post-endorsement-of-kamala-harris-.html

ワシントン・ポストは1976年以降、アメリカ大統領選挙において民主党の候補者を支持する記事を掲載してきました。2016年・2020年の大統領選挙でも、ワシントン・ポストは共和党候補のドナルド・トランプ氏ではなく民主党のヒラリー・クリントン氏とジョー・バイデン氏を支持する社説を掲載しています。

2024年11月5日に投開票が行われるアメリカ大統領選挙でも、ワシントン・ポストは民主党候補のハリス氏を支持する記事を起草し、掲載に向けた準備が進められていました。しかし、2024年10月25日にワシントン・ポストは「今回の選挙で特定の大統領候補を支持するつもりはありません。また、今後の大統領選挙でも同様の措置をとる予定です。私たちは、特定の大統領候補を支持しないという原点に立ち返りつつあります。」と主張する記事を掲載しました。

ワシントン・ポストが言及する「原点」とは、同紙の編集委員会が1960年に出した「ワシントン・ポストは、大統領選挙においてどちらの候補者も『支持』していない。これは当社の伝統であり、過去6回の選挙のうち5回における当社の行動と一致している。1952年の選挙では、異例な状況であったため、例外的に指名大会前にアイゼンハワーを支持し、選挙戦中も支持を繰り返した。今にして思えば、アイゼンハワーの指名と当選を支持する論拠は説得力のあるものであったが、後から考えると、独立系新聞としては正式な支持を避けた方が賢明であったかもしれないとも確信している」という声明を指しています。この「原点」の精神はしばらく引き継がれましたが、1976年、ワシントン・ポストいわく「当時としては理解できる理由」のために変更され、同紙はジミー・カーター氏を大統領として支持しました。

今回のようにワシントン・ポストが大統領候補の支持を行わないのは、1988年以来36年ぶりのことだそうです。

またワシントン・ポストは「特定の大統領候補を支持する記事を掲載しないという今回の決定は、ワシントン・ポストのオーナーであるジェフ・ベゾス氏によって出されたものです」と匿名の2人の関係者の言葉を引用して説明しています。

一方で、ワシントン・ポストのウィル・ルイスCEOは「ワシントン・ポストのオーナーとしてのベゾス氏の役割と、支持する大統領候補についての記事を掲載しないという決定をめぐる報道には不正確なものがありました。ベゾス氏が推薦文の掲載に口を挟むことはありませんでした。独立した新聞である我々は、『読者自身が投票する大統領候補を決断する』能力をサポートすべきという考えに至っています」と述べ、推薦文の掲載にベゾス氏が介入したことを否定しています。

ルイス氏は「今回の決定が『ある候補者への暗黙の支持』『別の候補者の非難』『責任の放棄』と捉えられる可能性は認識しています。これは避けられないことです。私たちの決定は、アメリカの倫理に奉仕するための人格と勇気、法の支配への敬意、そしてあらゆる場面での人間の自由の尊重という大統領が成すべき行為と一致していると考えています」と語りました。



しかし、今回の決定に対し多くの読者から否定的なコメントが寄せられており、その中には「ファシズムか民主主義かを決める我が国で最も重要な選挙が開かれるにもかかわらず、あなた方はただ静観するだけなのですか。ワシントン・ポストは非倫理的で恐ろしい臆病者です」「ワシントン・ポストは倫理や道徳よりもビジネスを優先しています。今回の決定を受けて、購読をキャンセルします」との厳しい意見も含まれています。

ワシントン・ポストは伝統的に、日常のニュースと選挙関連のオピニオン記事を分けて運営していますが、今回の決定を受けてワシントン・ポスト社内のオピニオンスタッフの多くに動揺が広がっているとのこと。また、ワシントン・ポストの編集長であるロバート・ケーガン氏は今回の決定への抗議の末、辞任したことも報じられました。

ワシントン・ポストのスタッフによる労働組合であるワシントン・ポスト・ギルドは「アメリカの報道機関であるワシントン・ポストが、最も重要な選挙のわずか11日前に今回の決定を下したことを深く懸念しています。今回の決定についての記事が編集委員会からではなく、ルイス氏によって掲載されたことも、ベゾス氏を含む経営陣が編集部スタッフの仕事に干渉したのではないかという疑念を強めています。今回の決定によって読者からの購読のキャンセルが相次いでいます。この決定は、読者からの信頼を失うだけでなく、私たちスタッフの仕事を台無しにするものです」と批判しました。





カリフォルニア州選出の民主党員であるテッド・リュー下院議員は今回の決定について「ファシズムへの第一歩は、報道の自由が恐怖に萎縮するときです」と述べています。





また、ワシントン・ポストのコラムニストであるカレン・アティア氏は「今回の決定は人権と民主主義の大切さを訴えるために自分たちのキャリアと命をかけてきた私たちに対する侮辱です」と指摘しています。





なお、記事作成時点でベゾス氏やベゾス氏が筆頭株主を務めるAmazonはコメントしていません。