@AUTOCAR

写真拡大 (全4枚)

BEVスペシャルモデルではなく、N-VANをBEVに

2020年、ホンダは初のフル量産BEV(バッテリー電気自動車)『ホンダe』を発売した。だが、セカンドカー的なクルマを目指すというコンセプトとデザインが先行したものの販売には結びつかず、残念ながら2024年1月で生産を終了した。

【画像】積めるし、走れるし、地球にも優しいN-VAN e:の画像はこちら 全47枚

そこでホンダが新たなBEV戦略モデルとして発表したのが、今回の『N-VAN e:(エヌバンイー)』だ。その名のとおり、ベース車はホンダの軽商用スーパーハイトワゴンのN-VAN。2018年に登場以来、運転席以外のシートをたたんでフラットで広いカーゴスペースを生み出す使い勝手の高さなどで、ビジネスユースはもちろん個人ユースでも人気を集めている。


乗り味しっかりで、パワー不足もなし。タイヤ次第で走りも楽しめそうだ。    田中秀宣

ホンダ独自のセンタータンクプラットフォームを活かし、ガソリンタンクの位置にバッテリーを、フロントのエンジン部にモーター類を搭載。これによりN-VAN e:は、エンジン車のN-VANと変わらないラゲッジスペースと使い勝手を実現した。これは見事というしかない。

エクステリアも遠目に見るとエンジン車と変わらない。近くによるとリサイクル樹脂を使ったフロントグリルに充電ポートが備わっているので、差別化できる。

インテリアも基本的なデザインは変わらないが、スイッチ式となったATセレクターやその下に備わるパワーウインドウスイッチ、フラット化されてビードの入ったドア内張りなどが特徴的だ。

バリエーションは業務用に特化した1人乗りとタンデム2人乗り(いずれもオンラインストア限定販売)、リアシートも備えた4人乗り、そして個人事業と乗用を兼ねた4人乗りのe:FUNの4グレード。今回は、趣味グルマとしても使えるe:FUNに試乗した。

商用車とは思えない乗り味の良さ。全域でパワフル

今回の試乗は市街地が中心で、首都高速を少しだけ走ってみた。乗員はドライバーとカメラマンの2名、そして撮影機材+αの荷物だから、実際の使用ではもっと積載量が増えることが多いだろう。それゆえ、空荷の商用車にありがちなポンポン跳ねるような乗り心地を想像したのだが、その予想は大きく裏切られた。少なめの積載量でも、乗り心地は悪くない。13インチにアップしたタイヤや適切なサスペンションセッティング、そしてエンジン車より約200kg重い車両重量の恩恵(?)もあるのか、乗り味はけっこうしっかりしている。

BEVというと初期ゲインの強い発進では、と思われるが、商用ユースでは荷物が倒れてしまったりするのを防ぐため、マイルドな設定にされている。したがって、普通にアクセルを踏み込めば比較的ジェントルに発進し、その後スーッと加速する。それでも余力は十分で、少しハンドルを切った状態でアクセルをベタ踏みして発進するとホイールスピンを起こすほど。


エンジン車と変わらないラゲッジスペースと使い勝手には、お見事の一言。    田中秀宣

低速域のトルク感はBEVならでは。そして高速域は軽ターボ並みに車速が伸びる。しかもエンジン車ではフル加速時にエンジンが高回転まで回ることで音が騒がしいが、N-VAN e:は全域で静か。気になるのはタイヤノイズくらいだ。

エンジン車より約200kg重いにもかかわらず、パワー不足を感じることはない。しかも、重いバッテリーを床下に搭載して低重心となっているから、見た目から想像されるよりコーナリングスピードは速い。もう少し良いタイヤを履けば走りも楽しめそう……、なんて考える乗用ユーザーも増えるに違いない。

街中を走りまわる配送業には軽BEVは最適な1台

商用車としての使い勝手はエンジン車と変わらないから、使用環境や経済的な条件をクリアできれば、企業や個人事業主の商用ユースにはオススメしたい。とくに1日の走行距離が少なく、ゴーストップが多く、街中を走りまわる配送業のクルマとしては、大気を汚さない軽BEVは理想的だと思われる。

ただ、個人の乗用ユースが中心で選ぶのなら、電気式パーキングブレーキ&ホールド機能やワンタッチパワーウインドウ、電動スライドドアなど、乗用車並みの快適装備が欲しくなる。パワーウインドウのスイッチはATセレクターの下にあるので、運転中などは少し使いづらい。


発売半月で受注は好調。商用車としての使い勝手の良さも特筆モノだ。    田中秀宣

だがじつは配送業の人たちは、エンジンを止めてクルマから降りて荷物を持って走って届ける、これの繰り返しで、エンジンをかけてエアコンを入れてもクルマはすぐに冷えないから、仕事中はほとんど窓は全開なのだという。したがってパワーウインドウスイッチの位置も気にならないらしい。さらに、電動スライドドアは開閉に時間がかかるから、素早い荷物の積みおろしには不向きなのだ。

こうした快適装備を求めるならば、近い将来に登場予定の乗用軽BEV『N-BOX e:(?)』に期待するしかない。まあ、平日は個人の仕事で使って、週末は趣味グルマとして使うけれど2人しか乗らない、というなら不満は上がらないだろう。

N-VAN e:は発売されてからまだ半月ほどだが、受注は好調のようだ。しかも受注の約6割は今回試乗したe:FUNだという。もっとも、この割合はエンジン車のN-VANでも変わらないそうだ。ホンダの本音としては、配送業を中心にサービス/メンテナンス業など、多くの法人に使用してもらいたいところだろう。

個人ユース中心では、もったいない。N-VAN e:のような軽BEV商用車が街中に増えれば、人にも環境にもやさしい社会が広がるのでは。そんな思いを抱かずにはいられなかった。

ホンダ N-VAN e: FUN 主要諸元

●全長×全幅×全高:3395×1475×1960mm
●ホイールベース:2520mm
●車両重量:1140kg
●モーター:交流同期電動機
●最高出力:47kW(64ps)
●最大トルク:162Nm(16.5kgm)
●バッテリー総電力量:29.6kWh
●WLTCモード航続距離:245km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:145/80R13
●車両価格(税込):291万9400円