22日、ロシア中部カザンで会談する中国の習近平国家主席(左端)とプーチン露大統領(右端)=BRICS―ロシア2024提供、ロイター

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 【カザン(ロシア中部)=東慶一郎】中国の習近平(シージンピン)国家主席は22日、BRICS首脳会議に合わせてロシアのプーチン大統領と会談し、ウクライナ侵略について協議した。

 習氏は会談で、対話による政治解決を呼びかけたとみられる。中国は米欧の対露制裁とは一線を画す一方で、北朝鮮の対露軍事協力が地域の不安定化につながりかねないと懸念し、早期停戦を求めている。

和平案 新興国が支持

 タス通信によると、ドミトリー・ペスコフ露大統領報道官は22日、「(露中首脳は)ウクライナや国際情勢全般について意見交換し、双方の立場とアプローチが収束したことを確認した」と述べた。

 中国がロシアに働きかけているのは、5月にブラジルとともに発表した独自の和平案だ。恒久的な解決策ではなく、戦場の拡大防止など応急的な措置に軸足を置く。停戦と対話を訴えているが、露軍のウクライナ領からの撤退は求めていない。露メディアによると、ユーリー・ウシャコフ大統領補佐官は23日、会談で議題になったと認め、「我々はこれが有益な構想だと信じる」と和平案を評価した。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は和平案に否定的だが、新興・途上国「グローバル・サウス」の間では支持が広がっている。

 中国はブラジルなどと連携し、さらにグローバル・サウスが受け入れやすいように和平案の「アレンジ」もためらわない。

 9月にグローバル・サウスを中心に17か国の代表が集まった国連総会の「平和の友」閣僚会議の後、両国やインドネシア、トルコなど13か国はウクライナの和平案に関する共同声明を発表した。声明には、両国の和平案になかった「各国の主権と領土の一体性尊重」や「核兵器による威嚇に反対」といった文言が明記された。中国主導でグローバル・サウスの支持も得た和平案をまとめ、ロシアとウクライナの「仲介役」を果たそうとしている。

 グローバル・サウスには対露制裁に同調しない国が多く、6月にスイスで開かれた「平和サミット」で示されたウクライナ主導の和平案にも冷ややかだ。侵略後も経済的に結びつく中国やグローバル・サウスの国々の提案はウクライナ領からの撤退に言及しておらず、プーチン氏は耳を傾けやすい。米欧の支援を受けるウクライナは中国主導の和平案には容易になびかないが、中国は説得を続ける構えだ。

 中国が停戦を目指す背景には、露朝の軍事協力への懸念がある。露軍への北朝鮮兵の派遣が指摘され、米欧などによる北朝鮮への介入を招く可能性があるためだ。北京の外交筋は「中国はロシアの弱体化も周辺国の不安定化も避けたい。ロシアの侵略を早期に停止させることは中国の利益に合致している」と分析する。

まずは紛争の冷却化を…中国社会科学院 ロシア東欧中央アジア研究所 田徳文副所長

  中国社会科学院ロシア東欧中央アジア研究所の田徳文副所長に、ロシアのウクライナ侵略に対する中国の姿勢を聞いた。中国がロシアに軍事支援していると米欧が非難していることについて、田氏は「根拠のない中国批判だ」と中国の立場を主張した。(聞き手・中国総局 東慶一郎)

 中国は国際法の原則に基づき、全ての国の主権と領土の一体性は尊重されなければならないとの立場を堅持している。中国はロシアによるクリミア半島やウクライナ東・南部4州の併合を認めたことはない。

 中国が対露制裁に参加せず、ロシアと経済貿易協力を継続していることに米欧は不満を抱いている。しかし、ロシアとの経済関係を完全に断絶している国は世界にほぼない。

 「中国はロシアを説得すべきだ」との意見があるが、中国はウクライナ危機の当事者ではない。ロシアはパートナー国として中国の立場を尊重しているが、それぞれ独立した主権国家であり、中国はロシアに自らの考えを押し付けられない。国際社会は一部の国の仲介に希望を託すのではなく、互いに協力すべきだ。

 中国がブラジルと提案している和平案は、紛争の冷却化だ。各国は当事国に武器を渡すのではなく、停戦を推進すべきだ。戦場外の地域を攻撃しないようにするなど地域の平和を回復した上で、領土や戦後復興の問題を交渉で解決するのが望ましい。

 短期間で休戦できない場合でも(戦闘の)拡大は避けるべきだ。核兵器の使用や威嚇、原子力発電所への攻撃はあってはならない。この立場は多くの国の支持を受けている。