Temuは80を超える国・地域にスピード展開したが、東南アジアへの進出は相対的に遅れていた(写真はベトナム向けウェブサイトより)

中国発の低価格越境EC(電子商取引)サイト「Temu(テム)」が、東南アジアでの事業展開を加速している。10月からベトナムとブルネイでサービスを開始し、東南アジアの進出先を5カ国に増やした。

Temuの運営母体は中国のEC大手の拼多多(ピンドゥオドゥオ)だ。中国市場で培った低価格ECのビジネスモデルをもとに海外向けの新サービスを立ち上げ、2022年9月にまずアメリカ市場に進出。その後、ヨーロッパ諸国やオーストラリアなどに矢継ぎ早に展開を進め、現時点の進出先は82カ国・地域に上る。

欧米進出に比べスローペース

そんな中、Temuの東南アジアでの事業展開は相対的にスローペースだった。最初に進出したフィリピンとマレーシアでのサービス開始は2023年8月。それから1年近くを経た2024年7月、ようやく3カ国目のタイに進出した。今回のベトナムとブルネイはそれに続くものだ。

東南アジアのEC市場では、このところベトナムとタイの急成長ぶりが目立つ。シンガポールの調査会社モメンタム・ワークスがまとめた2024年版の「東南アジアEC市場レポート」によれば、2023年のベトナム市場のGMV(流通取引総額)は前年比52.9%増加、タイは同じく34.1%増加した。

一方、GMVの規模で見ると国別で最大の市場はインドネシアであり、東南アジアのEC市場全体の46.9%を占めている。

ところが、Temuはインドネシア市場への進出を事実上阻止されている。現地メディアの報道によれば、Temuは2022年9月以降にインドネシアで3回にわたって商標登録を申請したが、名称が(登録済みの他社の商標と)重複するという理由ですべて却下された。


インドネシアのセティアディ通信情報相は、Temuの進出は地場の中小零細企業の脅威になると警戒を隠さない(インドネシア政府内閣官房のウェブサイトより)

だが、真の要因は別のところにありそうだ。Temuの越境ECビジネスは、中国の加盟店(売り主)は商品の開発と生産に専念し、その後のサイトへの掲載から販売、マーケティング、物流までTemuが一手に代行する「全面委託方式」をとっている。

インドネシア政府は、このようなビジネスモデル自体を問題視している。具体的には、Temuの全面委託方式はインドネシアの「2021年第29号大統領令」に抵触すると判断した模様だ。この大統領令は、製造業者が流通業者を介さず商品を消費者に直接販売することを禁じている。

先行大手の牙城を崩せるか

「Temuの直売方式は(インドネシアの)地場企業の生存を脅かす可能性がある。とりわけインドネシア経済の基盤である中小零細企業への打撃が大きい」。インドネシアのブディ・アリー・セティアディ通信情報相は10月1日、現地メディアの取材に対してそう述べた。


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また、インドネシア政府の拒否反応を別にしても、東南アジアのEC市場におけるTemuの競争環境は甘くない。現時点では、シンガポールのネットサービス大手シーが運営する「Shopee(ショッピー)」が東南アジア各国で先行者としての地位を確立し、トップシェアを守っている。

さらにタイ、フィリピン、マレーシア、シンガポールの市場では、中国のEC大手アリババ(阿里巴巴)の傘下にある「Lazada(ラザダ)」が、2番手の座を安定して確保している。それらの牙城を後発のTemuが突き崩せるか、先行きは不透明と言わざるを得ない。

(財新 駐シンガポール記者:楊敏)
※原文の配信は10月8日

(財新 Biz&Tech)