「どうせ短命」「マジメに取り合う必要はあるのか?」石破総理の「奇妙な外交・防衛政策」に各国が抱いている「ホンネ」を読み解く

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アジア版NATOの設立」「日米の核共有」「自衛隊のグアム駐留」…石破総理が提唱する外交・安全保障政策は、世界の外交的常識や現在の世界情勢に照らして、実現のハードルが相当に高そうだ。

なぜ総理は、こうした独特の外交・安保政策を唱えるのか? 前編記事【石破総理の「アジア版NATO」が世界で「総スカン」を食らうヤバい理由…「アメリカ支配からの独立」を口にした政治家を待つ「恐ろしい末路」】では、その理由を石破総理が尊敬する石橋湛山の発言から読み解いた。

日中、日韓関係に好転

湛山に加えてもうひとり、石破総理が私淑する先人に、元外交官の故・色摩力夫(しかま・りきを)氏がいる。色摩氏もやはり『国際連合という神話』などの著作で、国連などの「アメリカを中心とする戦後秩序」に疑義を呈してきた人物である。

石破総理の外交・安保は、これまで主流だった政策と違いすぎて、一見「不可思議」にも映る。だがこうした先人たちの発言という補助線を引けば、その理想が「中国・韓国・ロシアなど周辺国との融和」と「アメリカからの自立」にあることが見えてくる。

永田町や霞が関では、石破総理の持論を「青年の主張」、つまり「正論かもしれないが、夢物語にすぎない」と評する向きも多い。ただ、就任後に軌道修正をはかったことも含めて「肯定的に評価できる」と言うのは、上智大学教授(現代アメリカ政治)の前嶋和弘氏だ。

「確かに、石破総理が主張してきた自衛隊の憲法明記・アメリカ領土への駐留といった政策はそもそも憲法改正が必要で、ハードルが高いでしょう。

ただ、外交・安保では総理のイメージも重要です。仮に海外で石破総理よりも右派的とみられている高市早苗総理が誕生していたら、韓国や中国の猛反発を招き、岸田政権がバイデン政権や韓国の尹錫悦政権と推し進めてきた協力関係の構築も、大ダメージを負ったかもしれません」

理想を逆手に取られる

石破総理は10月10日からのASEAN関連会議で外交デビューを果たしたが、今のところは足元を固めることに手一杯で、とうてい攻勢に出られる雰囲気ではない。各国の政府関係者の間では「どうせ短期政権になるから、まじめに向き合う価値はないだろう」との声まで漏れる。

しかし、もう難局は目前に迫っている。まず何といっても、11月のアメリカ大統領選挙だ。一時は民主党のハリス候補が世論調査でトランプ元大統領をリードしたが、ここにきて再びトランプ氏が追撃している。

「安倍元総理は2016年にトランプ氏が大統領に選出された際、正式就任前に会いに行き、一対一で話せる信頼関係を結ぶことに成功しました。以来、安倍元総理はトランプ氏の独断に歯止めをかける役割を担ってきた。

トランプ氏が中国の習近平総書記に宥和的な姿勢をとろうとした際にも、安倍元総理が厳しく指摘し、トランプ氏はそれを受け入れたと聞いています。

今回も外務省は同じ展開を狙って準備を始めているはずですが、トランプ氏が安倍元総理と同様に石破総理の話に耳を傾けてくれるかどうかは、まだ何とも言えません」(前出・前嶋氏)

そして、今はまだ静観を続けている中国である。深圳での男児殺害事件が示したように、中国では日本や日本人への攻撃が国民の不満のはけ口となる、不穏な兆候が現れ始めた。東京大学大学院教授(現代中国研究)の阿古智子氏が指摘する。

中国に“利用”される懸念

「石破総理が掲げる『独力で国防が担える日本』という理想像が、中国政府のプロパガンダに利用されるのではないかという懸念があります。

日本からすれば『防衛』でも、中国はそれを『軍事』だと言うでしょう。『日本が再軍備しようとしている』というキャンペーンを展開され、中国国内で日本に対する警戒感がさらに高まったとき、どのように対応するのかが難しい課題になると思います」

平成以降、長らく権力を握ってきた自民党清和研(旧安倍派)は、アメリカへの接近によって日本を守ろうとした。その源流であり、日米安保を主導したのが安倍元総理の祖父・岸信介元総理だが、岸と対立した石橋湛山はわずか65日で総理の職を辞している。

日本の「本当の独立」--。石破総理は、長年唱えてきたその悲願に道筋をつけられるのか。

【つづきを読む】『その権力は最盛期の「二階元幹事長」をも凌ぐ…!長老たちに翻弄される石破政権の「意外なキーマン」』

「週刊現代」2024年10月19日号より

その権力は最盛期の「二階元幹事長」をも凌ぐ…!長老たちに翻弄される石破政権の「意外なキーマン」