夜中に鎌を持った男が現れて…父親が姿をくらまし、12歳から1人暮らしを経験した「その後」

写真拡大 (全2枚)

10月13日放送の日本テレビ系列「人生で一番長かった日」に出演した、お笑いトリオ「ぱーてぃーちゃん」のツッコミ担当・すがちゃん最高No.1。

Netflixにて配信されている新感覚お笑いサバイバル番組『トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ』でも、ひときわ異彩を放ったエピソードの数々に注目が集まりました。

ここでは、【前回】に引き続き、すがちゃんの初エッセイ『中1、一人暮らし、意外とバレない』(ワニブックス刊)より衝撃のエピソードを紹介します。

父親が再び姿をくらまし…

親父は数日経って、また姿をくらました。

再び中学生一人暮らしライフが始まる。ずっと一人でいるとだんだんと孤独にも慣れてくるのだが、ちょっとでも家に人がいる期間を経てまた一人になると、結構な寂しさを感じてかなりのダメージを食らう。

特に寂しさを感じるのは冷蔵庫だ。うちにある冷蔵庫は五人で暮らしていた時から使っていたものだから、デカいファミリータイプのものだ。ただ、今この家に暮らしているのは俺一人。当然一人ではこのデカい冷蔵庫を持て余す。

学校から帰ってきたばかりで腹が減っている。が、冷蔵庫の中を見たくない。見ると寂しくなるから開けたくない。でも腹は減った……。

俺は一度大きくため息をつき、仕方なく冷蔵庫の扉をガコッと開ける。と、ほぼものが入ってなくて、ガランとしている。

きゅうりが一本と、ラップに包まれたなすが半分。それと、親父の残していったやきとりの食べさしが1本……。

いかん。いかんいかんいかん!

これはいかん。このままでは、寂しさに押し潰されてしまう!

こんな時は……狼モードだ!

俺は、孤独を楽しむ、山形の狼。

そうだ、今日は水曜日だ。

水曜だったら、アレをやろう。アレで寂しさを紛らわそう。

アレとは、最近編み出した最新の寂しさ紛らわせ狼術だ。

俺は炊飯器にあったご飯を急いでおにぎりにして、ラップに包み、それを持って足早に家を出た。

向かったのは、友人の秋田の家。

俺は秋田の家の前まで行くと、チャイムを鳴らす……わけではなく秋田の家の裏手に回る。秋田の家は木造で、家の中の声とかテレビの音とかがめちゃくちゃ漏れ聞こえてくる家だった。裏手に回ると、そこはキッチンの換気扇のすぐそばで、換気扇からは秋田の家の晩飯の匂いが漂ってくる。

そんな匂いと共に聞こえてくるのは、水曜のバラエティー番組『クイズ! ヘキサゴン2』の音。

秋田の家で、家族揃って『ヘキサゴン』を楽しんでいる声が聞こえてくる。おそらく晩飯を食いながら家族で見ているのだろう。

なんて平和な家族なんだよ全く。そんな中、俺は孤独……。やれやれ。人生はなんて不公平なんだろう。

俺は、そう思いつつ、ポケットに入れていたおにぎりを取り出す。そして秋田の晩飯の匂いを嗅ぎながら、『ヘキサゴン』の音と、『ヘキサゴン』を楽しむ家族の声を聞きつつ、おにぎりを頬張った。

その瞬間だけ、何だか俺も秋田の家族の一員になった気がして寂しさが紛れた。

こんなことしてる自分、なんて孤独なんだ……と孤独に酔いしれる狼に浸ることもできた。

うん。だんだん寂しさを紛らわせる方法をこじらせつつあるな……。と、そこで秋田の兄が帰宅する音が聞こえてきた。

深夜に足音が

秋田の兄はヤンキーで、平和な秋田家に不穏な空気が流れる。楽しげな『ヘキサゴン』の音とは裏腹に、ヤンキーの兄に何かされたのか、秋田のお婆ちゃんの悲鳴が聞こえてくる。

「あ〜ヤダヤダヤダ違う違う違う」

こんなの聞きにきたんじゃない。嫌な気持ちになったので、俺は足早に帰宅した。

寂しさは秋田家『ヘキサゴン』で適度に紛れたものの、まだまだモヤモヤが残っていた。もう今日はさっさと寝よう。

こういう時は寝るのが一番。寝て起きたらまた平和な朝が来る。朝さえ来れば学校に行ける。学校に行けば友達と遊べる。寝よう。

俺はさっさと自分の部屋に引っ込み、早々にベッドに横になった。

……寝れん。

こんな時に限って、全く眠れない。

ベッドに入ってかれこれ何時間が過ぎただろうか。寝ようと思っても寝られず、漫画でも読んでたら眠くなるかと思って、枕元に置いてあった電気スタンドだけをつけて『テニスの王子様』を1巻から読み直し始めた。

が、読めども読めども眠気は来ない。おいおい山吹戦読み終わっちゃったぞ。

なんでこんな時に限って寝られないんだよ……。

時計を見ると、針は2時を指している。もう真夜中じゃねーかよ。もうそろそろマジで寝ないとヤバい。明日部活もあんのに。

俺は漫画を閉じ、電気スタンドを消して布団に潜り込み、目をつぶった。

寝れん! くそ〜〜

と思ったその時、

ジャッ、ジャッ

と、うちの駐車場のあたりに敷いてある砂利を踏む音が聞こえた。この音は、俺にとって誰か人が来たサインだ。

親父め、またこんな時間に帰ってきやがって。また面倒ごと起きなきゃいいけど。いや、どうせ起こるんだろうな。やれやれ。

……ん?

おかしい。いつもならこの砂利を踏みつける音がした後、扉を開ける馬鹿デカい音が聞こえるはずだ。それなのに……。

聞こえてきたのは、扉を開けるデカい音ではなく、網戸をゆっくりこっそり開ける、ギーッという音だった。

いやいやいや。え……。嘘だろ……。

この感じって……まさか、

泥棒?

嘘だ嘘だ。

そんなわけない。

親父だろ? 親父だよな?

親父であってくれよ。家の鍵なくして、庭から入ろうとしてるとかそういうことだろ?

俺が戸締まりなんて適当にしてるって知ってて、それで庭から入ろうとしてんだよな? そうだよね⁉

耳を澄ますために静かにしているのとは正反対に心の声はものすごくやかましい。

このままじゃダメだ。とりあえず様子を見にいかないと。俺は物音を立てないようにベッドから起き上がり、とりあえず適当に武器になるものを持つ。

そして、最近かっちゃんから防犯用にと買ってもらった携帯を手に持ち、携帯の画面で床を照らしつつ、2階にあった自分の部屋を出た。

鎌を持った泥棒が入ってきた

音を立てないようにゆっくりと進み、階段の踊り場まで行く。

と、そこからリビングが見える。リビングは明かりがついておらず、誰かが懐中電灯か何かで部屋を照らして、何やら物色している様子がうかがえた。

いや……確定ですやん。

親父じゃないですやん。マジ泥棒ですやん。

えー……どうすんねん……! と心の関西人がしゃべり出す。と思ったその時──

俺の携帯の着信音が馬鹿デカい音で鳴る!

俺の心臓が跳ねる!

友達の川辺からの電話だ!

いやこんな時間に! それよりこんなタイミングで!

しかし、その音で驚いたのは俺だけではなかった。

リビングにいた奴も驚いたのか、何かを落とした大きな音が聞こえた後、バタバタと家から走って出ていく音がした。

俺はリビングに向かい電気をつけると、そこには……

カマが落ちていた。

あ……あっぶねぇ……!

俺、殺されるところだったのかよ!

俺は腰を抜かして、しばらく立てずにいた。

その後、俺は警察を呼んで、警察の人が家に来て、色々してもらって、その日は結局寝られずじまいだった。

人生で最も無駄な地獄の作業

しばらくしてから、俺の家に入った泥棒が捕まったと警察から連絡があった。

その泥棒は、郵便局に強盗に入ったらしい。俺の家から採取した指紋とその泥棒の指紋が一致したんだとか。

うっすらと期待していた「やっぱり親父でした〜」というオチの可能性は0になった。

その後、俺は、当分の間、窓と階段が死ぬほど怖くなる。

夜、寝る前には戸締まりの確認をしないと気が済まない。でも確認したところで、今度は2階に上がるのが怖い。もはや階段を上ることが怖い。

とりあえずテレビでバラエティー番組を観てテンションを上げ、

「今なら上れる!」

という気持ちになった瞬間、テレビをバッと消して、ヤア! と、あり得ないスピードで階段を駆け上がる。

息を切らせて自分の部屋まで辿り着くと、寝巻着にサッ! と着替えて、布団にスッ! と入り目をつぶる。

……寝れん。

今度は、本当に戸締まりができているのか不安になったからだ。再び家の全ての窓や扉をチェックしないと不安でたまらない。

戸締まりを確認しに行こうとする。が、今度は階段を下りるのが怖い。踊り場から先が下りられない。

また泥棒がいたらどうしよう。カマを持った凶々しい表情の泥棒がいることを想像すると、その場から動けなくなる。

だから俺は、一回部屋に戻って、漫画を読む。30分ほど『はじめの一歩』を読み、気持ちを強くし、闘争心を掻き立て、

「俺は行ける! 俺は行ける!」

とデンプシーロールをかましながら、なんとか階段を下りる。下りたら再び戸締まりを全て確認する。

階段を下りたら左手にすぐトイレと風呂がある。風呂には脱衣所と浴槽の上に小窓が一つずつあり、そこはちょうど人がよじ上ってこられる高さで、そこがまた異常に怖い。

俺は、泥棒がいた時を想定してあえてバンバン! と壁を叩いて大きな音を立てる。

それは、親父がデカい音で扉を開け閉めすることから、親父みたいなヤベー強い奴が来たぞ! といもしない泥棒にアピールするためだ。

なんとか小窓の戸締まりを確認すると、次はリビングに向かう……。

そんな感じで全ての鍵という鍵を、夜中に何分もかけて確認する。そしてまた部屋に戻ろうとすると、今度はまた階段を上るのが怖くて──その繰り返し。

そんな人生で最も無駄だと思える地獄の作業を、当分の間、もう毎晩のように繰り返した……。

【父親が「知らない子ども5人」を集めて放置し…“12歳から1人暮らし”の若手芸人が経験した驚きの顛末】では、引き続きすがちゃんの壮絶な人生についてお読みいただけます。

父親が「知らない子ども5人」を集めて放置し…“12歳から1人暮らし”の若手芸人が経験した驚きの顛末