「キエェェェェエ!!」自称霊媒師が叫ぶと、女性が「白目をむいて震え」…その衝撃の顛末
日本テレビ系列「人生で一番長かった日」(10月13日放送)に出演した、お笑いトリオ「ぱーてぃーちゃん」のツッコミ担当・すがちゃん最高No.1は、中学1年生のときに家族全員が家からいなくなり、12歳で一人暮らしをすることになったという壮絶な半生や、破天荒な父親とのエピソードが度々メディアで紹介され話題を集めています。
Netflixと人気バラエティ番組を数多く手掛ける佐久間宣行プロデューサーがタッグを組んだコメディシリーズ『トークサバイバー!ラスト・オブ・ラフ』でも決勝戦前まで勝ち残り、2024年ネクストブレイク ランキング お笑い芸人編で第2位などいま注目の若手芸人のひとりです。
【前回】に引き続き、すがちゃんの初エッセイ『中1、一人暮らし、意外とバレない』(ワニブックス刊)より、衝撃のエピソードをお届けします。
いつもは帰ってこない父親が家にいて…
その日、部活が終わり、俺はいつもの道を通り、いつも通り家に帰ってきた。
そしていつも通り普通に、玄関を開けながら「ただいま〜」と声に出す。
……誰もいないけど。
なぜこんなことをしているのか。
寂しいから、というわけではない。周囲に一人暮らしをしていることがバレないよう、周囲の人間を欺くためにしているのだ。
俺は、一人暮らしをしている間、家に鍵をかけることがほとんどなかった。
盗まれるものが家にないから、というわけではない。もし家に鍵をかけていたら、家に帰るたびに鍵を使って家に入ることになる。
俺しか住んでいないのだから当然だ。
が! そんな鍵っ子生活をしていて、万が一にでも周囲の奥様連中にその姿を見られようものなら、
「あの子、いつも自分で鍵を開けて家に入ってるわよね? もしかして……一人暮らしなのかしら⁉」
とバレてしまうかもしれないじゃないか。
それだけは避けなければいけない。クールでカッコいい狼設定を守るために。
だからこの日も普通に鍵のかかっていない玄関扉を開け、いつも通り誰もいない家に向かって、「ただいま〜」と声を出したのだ。
が……いつもと違ったのはここからだった。
「おかえり!」
いつもと違い、俺のただいまに返事があったのだ。
声の主は……親父だった。
帰宅すると知らない「霊媒師」が…!
親父は、ほんと、めちゃくちゃ、たま〜〜〜に家に帰ってくる。
帰ってきてくれて嬉しい! という感情は申し訳ないが一切ない。
なぜなら、親父が帰ってくると絶対に“最悪な出来事”がもれなく起こるからだ。そしてこの時も、とんでもなく最悪な出来事が起こった。
俺がリビングに行くと、親父が、スーパーで買い込んだ酒やつまみをやりながら、俺の全く知らないおっさんと酒盛りをしていた。
(いや誰よ)
と、心の中でツッコむも、大体の見当はついていた。
というのも、親父はスーパーに行くと、たいてい一人は友達を作ってくる。親父はそういうコミュ力お化け、いやコミュ力の神と言える能力を持っていた。
だから、この誰か知らないおっさんも、おそらくスーパーで知り合った、今日友達になったばかりのよく知らない男だろう。
親父は俺に、
「おい! たもっちゃんと一緒に飯食うぞ!」
と。
(いや誰よ、たもっちゃん)
と思いつつも、親父の奢りみたいだし、まあ一食分食費が浮くと思えばアリか、と俺は親父と、たもっちゃんこと知らないおっさんと飯を食うことになった。
親父は酒を煽りながらたもっちゃんに、
「おまえ、なんの仕事してんだよ」
と尋ねる。たもっちゃんは、
「あ、自分、霊媒師です」
……ん? れいばいし?
「普段は悪霊の除霊をしてます」
……ヤバ。親父、大ハズレ連れてきてんじゃねーか。
でも親父は、そういうオカルト系の話を全く信じない人だったから、
「嘘つけおまえ。そうやってナンパして、おっぱいとか揉んだりしてんだろ? あ?」
親父の返しもヤバ。
すると、たもっちゃんは親父に少々腹を立て、
「べつに僕の仕事を馬鹿にしてもらうのはいいんですけど、霊というのはそういうのを一番嫌うんで、やめてください。今も怒ってますよ」
「怒るか!」
そんな親父とたもっちゃんとのやりとりが、やきとりを食べている俺の前で繰り広げられる。
さっさと食って、2階の自分の部屋で漫画読もう、と俺は飯を急いだ。
俺が食べ終わった頃、たもっちゃんは親父に、
「わかりました。じゃあ僕の仕事が本当だっていうところを今度お見せします」
たもっちゃんはそう告げ、次の土曜日に駅前にある喫茶店に来るよう、親父に
伝える。親父は、「あぁ、わかった。行ってやるよ!」と意気揚々と答えた。そこまでの話を聞き、俺は2階の自分の部屋へと戻った。
喫茶店で除霊を見せられる
そして土曜日の朝。俺は、朝から池田ん家で、川辺と庄司と四人で「誰が一番スマブラつえーか決めようぜ大会」をやる約束をしていた。
今日を楽しみに平日のつまんねー授業も、きつい部活も乗り切ったと言っても過言ではない。そのくらい俺は楽しみにしていた。俺がルンルンで出て行こうとすると、靴を履く俺の前に親父がやってくる。
……あー、嫌な予感がする、と思った矢先、
「俺行けなくなったから、おまえ代わりにたもっちゃんのいる喫茶店行ってこい!」
(なんでだよ……! 今日はみんなでスマブラなんだよ)
俺は親父に、
「今日は友達と盛り上がる予定なんだよ」
と断ろうとすると、親父はそれを見越してか否か、
「冷蔵庫にやきとり置いてあっから帰ってきたら食べろ」
と言い残し、先に家を出て行った。
結局俺は、一食の食費代に釣られ、スマブラを泣く泣く諦め、たもっちゃんがいる駅前の喫茶店の前まで来ていた。
すると、店の中からたもっちゃんが現れる。たもっちゃんは俺を見るなり、
「あれ? お父さんは?」
と。代わりに行けって言われたなんて言っていいものかと迷った俺は、
「まぁ、後から、はい」
となんとなく濁して答えた。
たもっちゃんは、「えー……」と困った様子で、
「でも始めないともう危ないし……まぁいい。とりあえず入って」
と俺を喫茶店の中へと連れて行く。
そこは割と広めの、2階席のある吹き抜けの喫茶店で、中には喫茶店のマスターらしき男性と、その娘さんだという二十歳前後の女性がいた。
たもっちゃんは俺に、
「危ないからキミは2階で見てて」
と2階の席から1階の除霊の様子を見るようにと伝えてくる。
いや、除霊の様子って、と俺は少し笑いそうになってしまうが、ここでそんな態度を取ったらものすごく怒られそうな雰囲気だったので、必死に我慢した。
その日、喫茶店は臨時休業にしていたらしく客はいない。
1階は普段おそらくテーブルや椅子が置かれているんだろうが、それらを全部端に寄せ、その代わりに部屋の真ん中に椅子が1脚置かれ、そこに娘さんが座らされていた。どうやら、この娘さんに霊がついているらしい。
お父さんであるこの店のマスターは、娘から少し離れたところで様子を見ていた。
たもっちゃんは、座った娘さんの周囲を盛り塩で囲っていく。
四つの四角で囲うと、たもっちゃんは、
「始めます」
とマスターに一礼した。そして、何やら念仏なのか呪文なのかわからない言葉を呟き始める。
ヤベー……なんだこれ……帰りてぇ……と思わずにはいられない俺。
娘さんも自分が何をされているのかわからないようなキョトンとした様子だった。
が、その時、
「キエェェェェエ!!」
と、突然たもっちゃんが奇声をあげた。その瞬間!
娘さんはガタガタと震え出し、白目をむき、全身に力がこもっているのか、女性なのに筋肉の隆起まで見え、明らかに常軌を逸した様子になった。
そんな娘さんのナニカと格闘するかのように、力一杯念仏的な何かを唱えるたもっちゃん。
え⁉ え⁉ と俺が混乱している中、しばらくすると娘さんの震えはゆっくりと止まり、そして気を失ったようにぐったりとした。
たもっちゃんはマスターに、
「除霊完了です。この子にすみ着いていた悪い霊は取り除かれました」
……ホントだったのかよ。気持ち悪りぃ……。
父親が部屋を荒らし…
その後、たもっちゃんは俺に、
「この子から取れた悪霊は、今浮遊している状態だ」
と言ってくる。霊をパーソナルスペースに入れると、今度は俺や親父に取り憑く可能性があるから、家に帰ったら俺の部屋や親父の部屋の前に必ず盛り塩を置くように、と。それが結界になって、霊が入ってこられなくなるから、と言うのだ。
俺は、もう猛ダッシュで一目散に家に帰ると、自分の部屋の前と、隣にある親父の部屋の前に塩を盛りに盛りまくった。親父の部屋より俺の部屋の方がちょっと大きくなる感じで盛った。
その後、俺は親父の携帯に電話をして、喫茶店であったことを話した。
そして親父の部屋の前にも盛り塩をしたことを伝えると、親父は、
「置くなそんなもん! 気持ち悪りぃ!」
そして、親父は俺に「負けるな!」と強く言い放つ。
勝ち負けの問題じゃねーだろと思いつつも、親父は、
「塩を置いた段階でおまえの負けだ。信じてるってことだ。怯お びえてるってことだ。んなダセー男になんじゃねー」
と。そこまで言うものだから、俺は親父の部屋の盛り塩を撤去した。
そして、その日の夜中。俺が寝ていると、玄関の扉をガチャガチャと開けるうるさい音が響き、俺は目を覚ました。
親父は、うちに帰ってきている時は大抵夜中に酔っ払って騒がしく帰ってくるか、朝方酔っ払って騒がしく帰ってくるかだ。
この様子だとまたずいぶん酔っ払ってるな……。親父はとにかく扉の開け閉めの音がうるさい。この日も、真夜中にもかかわらずドタドタとうるさい音が響く。
しばらくすると、今度は俺の部屋のドアノブをガチャガチャと開けようとする音が聞こえる。
俺の部屋はべつに鍵がかかっているわけでもないのだが、酔っ払ってうまく開けられないのか俺の部屋に入れないでいる様子。
いやそもそもあんたの部屋は隣だよ……と呆れていると、部屋を間違えていることに気がついたのか、ドアノブの音が止む。
再び眠りにつこうとすると、今度は隣の親父の部屋からなんだか暴れているような大きな音が聞こえてくる。
おいおい、どんだけ飲んだんだよ……。俺は布団に潜り込み、無理やり眠りにつくことにした。
次の日の朝。俺が目を覚ましてすぐのことだった。親父が玄関扉をガチャガチャと開け、帰ってくる音が聞こえる。
……ん? 昨日夜中、帰ってきてたのに?
あれは夢だったのか? と思いつつも、とりわけ気に留めることもなく、寝起きでぼーっとしていた。
すると、親父が突然、俺の部屋の扉をバタン! と、デカい音をたてて開ける。
ビクッ! と寝起きのぼーっとした頭が一気に覚醒する。そして親父の、
「オイッッ!!!」
と、これまた馬鹿デカい声が俺の耳をつんざく。
なんだよ朝っぱらから……。
「おまえ、俺の部屋で友達呼んで盛り上がったろ⁉」
親父は、意味不明なことを言ってくる。
俺が何もしてないことを伝えても親父は信じてくれない。それどころか親父は俺の腕を無理やり引き、親父の部屋の前まで連れていかれ、
「じゃあ俺の部屋がなんでこんな荒らされてんだよ!」
親父の部屋を見ると、親父の部屋がむちゃくちゃに荒らされていた。
俺は……この瞬間、ピンときてしまった。これは……
あの悪霊の仕業だ。
夜中聞こえた音は全部悪霊が入ってきた音で、俺の部屋は盛り塩で結界を作っていたから悪霊は入ってこられず、親父の部屋には盛り塩をしてなかったから悪霊が入り悪さをしたのだ!
ヤバ。マジじゃん。マジのやつじゃん。
と俺が震え上がっていると、親父は、
「おまえ昨日言ってたもんな! 友達と盛り上がる予定だってな! おまえがふざけてやったんだろうが!」
俺は、俺じゃないことを親父に必死に伝えた。
でも親父は、「おまえ以外誰がいんだよ! おまえ以外いねーだろ、この家!」
とブチギレ。親父は、「仕返しだ!」と、俺の部屋をぐちゃぐちゃに荒らす。
そんな親父を見つつ、止める気力もなく、なんなんだよ……とうなだれた。
よくよく考えると俺が親父の代わりに行きたくもない除霊現場に行かされて、なんでこんな目に遭わないといけないんだよ……。
盛り塩して入ってこられない悪霊と、盛り塩してても入ってきて部屋を荒らす親父、もはやどっちがマシかわかんねー、と荒ぶる親父を見つつ呆れた。
結局、この時の出来事が本当に悪霊のせいだったのかはわからない。
あるいは親父が酔って一度帰ってきて、もう一回出て行って、帰ってきたのを忘れていたのか、あるいはたもっちゃんが信じさせるために鍵開けっ放しの我が家に忍び込み、親父の部屋を荒らしたのか……。
ただ一つだけ確かなことは、これが“最悪の出来事”だったということだ。
【夜中に鎌を持った男が現れて…父親が姿をくらまし、12歳から1人暮らしを経験した「その後」】では、壮絶な子ども時代のエピソードをさらにご紹介します。