2000ケース超を知る達人が教える「認知症」悪化を防ぐため絶対に不足させてはいけない「3つのもの」

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認知症の患者数は、2040年には584万2000人(高齢者の約15%)にのぼると推計されています。今後は街中で困っている認知症の人に出会うことが多くなるかもしれません。そんなとき、あなたはどうしますか?著者の豊富な実体験に基づいて書かれた『認知症の人がスッと落ち着く言葉かけ』から、役に立つ知恵をご紹介しましょう。

適切に対応するためには、まず認知症について正しく理解する必要があります。認知症の人は、知識や体験をだんだん忘れていく、いわば「引き算の世界」に住んでいます。大切なのは、本人の世界に合わせた「引き算」の言葉かけ・接し方をすること。具体的に何を言いどう振る舞えばいいか、本稿で詳しく解説します。

お年寄りに絶対に不足させてはいけない「三不足」

これは認知症の人に限らずお年寄り一般に言えることですが、絶対に不足させてはいけないものが3つあります。それは、栄養・水分・刺激です。

まず栄養について。歳をとって体がだんだん動かなくなると、高齢者は調理を億劫がるようになるので注意が必要です。とくにひとり暮らしの男性は、放っておくと菓子パンや買ってきた惣菜だけで食事をすませたり、お酒ばかり飲んでいるという状態にもなりかねません。栄養不足は認知症に限らず病気のもとであり、持病が悪化するもととなるので、介護者が気をつけてあげる必要があります。

水分も同様に大切です。体に必要な水分が足りなくなる脱水が起きると、めまい・ふらつきから始まって、重度になると意識障害(意識がない・わけのわからないことを言う)などの深刻な症状が出ます。

お年寄りは、若い人よりも体に蓄えておける水分量が少ないので、脱水を起こしやすくなっています。さらに、歳をとるとのどの渇きを感じにくくなります。どうしても水分を摂ってくれないときは、よく知られた方法ですが、ゼリーにしたお茶やかき氷を食べてもらってもいいでしょう。

最後に、生活の中に刺激を取り入れることを忘れないようにしたいものです。外に出る・人に会う・交流して楽しむといった活動を通じて刺激を与えなければ、脳は衰えていくばかりです。とくに認知症の人は、初期は「こもり病」になりやすいので注意しましょう。

「安全地帯」の「安心座布団」に座らせて、不安を和らげる

認知症の人は周囲の状況をうまくつかめなくなって不安を感じています。ある女性が、認知症のお母さんを病院に連れていこうと、車イスに乗せました。「さあ、病院に行きますからね」と伝えたところ、しばらくの間は何ともなかったのですが、横断歩道にさしかかったところでお母さんが突然、「ギャーッ、人殺し! 助けてください」と叫び出したという出来事がありました。

おそらく本人は、誰かわからない人に、わけのわからない場所に連れて行かれるような感じがして、殺されるのではないかというくらい、強く不安になったのでしょう。認知症の人の気持ちとはこのようなものです。介護者がかかわるにあたっては、不安であることを理解したうえで、その気持ちを少しでも和らげることができるようにするのが大切です。そのためにはどうすればよいでしょうか。

それには、自宅や仕事場の机など誰にでもほっとできる場所があるように、認知症の人にもそのような安心できる場所、いわば「安全地帯」を介護者が用意してあげればよいのです。ちょうど車がビュンビュン行き交う道路の真ん中に、絶対に大丈夫な場所が設けられている、あのイメージです。

もっとも、認知症の人を安全地帯に案内するだけではまだ不足です。“納得”してそこにいていただかなくてはなりません。そのためには、「ここにいていいんだ」「ここは自分の居場所だ」と、認知症の人に安心してもらう必要があります。認知症の人に「安心座布団」に座っていただくのです。座布団にスッと腰が落ち着くあの感じを、認知症の人に得てもらうのがベストです。引き算はそのための有効な手段だと言えます。

認知症の人と接するときに必要な「三原則」を把握しておこう

引き算のときだけでなく、認知症の人と接するとき全般で介護者が心得ておかなければならないことは、そう多くはありません。必要なのは、おどかさない・追いつめない・おびえないという、この三原則だけです。

ちょっと忘れものをしただけで、「それは認知症じゃないか」「病院に行ったら?」とお年寄りに言う家族がいます。心配しているつもりかもしれませんが、あまり言い過ぎても、本人をおどかして不安を煽るばかりで、いいことはありません。それどころか、かけた言葉がお年寄りを追いつめてしまうことさえあります。

実際の話ですが、78歳のある女性は、事あるごとに周囲から「認知症じゃない?」「病院に行ったら?」などと言われ続けたため、いつもおどおどして過ごしていました。そのうちにうつ状態となり、本当に認知症になってしまったのです。

あるいは、うつ状態は認知症の前兆だったのかもしれませんが、いずれにせよ、おどかすようなことばかり言うのは考えものです。もちろん、まわりの声かけだけが悪かったと言うつもりはありませんが、明らかに認知症の人を追い込むような声かけだけは避けましょう。

認知症というと何となく恐ろしげな感じがすることと思います。また、認知症の人にどのようにかかわってよいかわからない、という戸惑いを感じることもあるでしょう。でも、本人はもっと不安で戸惑っているのです。介護者までおびえてしまっては、状況を悪くするばかり。とにかく介護者が恐れることなく接することが肝心です。

このように、認知症の人―その家族―介護職は、互いに誰かの心理がほかに反映するのです。ちょうど「三面鏡」のように関係が映し出されます。ひとりが離れればほかのふたりも離れ、逆に近づけばみんなで歩み寄ることができるのだということを、よく心得ておきましょう。

後編記事〈無理は禁物、「共倒れ」だけは避けて! あなたにも訪れる認知症介護「施設どき」の見極めかた〉へ続く。

無理は禁物、「共倒れ」だけは避けて! あなたにも訪れる認知症介護「施設どき」の見極めかた