「最大34メートルの津波」「東日本大震災の14.5倍の犠牲者」…「南海トラフ巨大地震」の「驚愕の被害想定」

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今後30年以内に高い確率で発生が予測されている「南海トラフ巨大地震」。果たしてその実態はいかなるものなのだろうか。その巨大な災害はどのようなメカニズムで発生し、どのような被害をもたらすのだろうか。そして、われわれはその未来にどう備えればよいのか。防災・危機管理アドバイザーの山村武彦氏に解説してもらった。

災害は皆、違う顔をしている

1964年に発生した新潟地震以来、国内外の大規模災害を見てきた私が思うのは、災害にはそれぞれ違う顔(様相)があるということである。同じ震災でも阪神・淡路大震災と東日本大震災では、年代、季節、時刻、規模、発生場所などが異なるだけでなく、被害の様相もその都度異なる災害が多かった。そして、想定される南海トラフ巨大地震は、これまでの災害とは違う顔(様相)を見せるものと思われる。

3つの地震の被害データ(1-(6) 図参照)を並べると、数字だけ見ても大きな差がある。想定される南海トラフ巨大地震は、阪神・淡路大震災に対して想定犠牲者数が49倍、全壊・焼失建物数は21倍、避難者数が約30倍とそれぞれ一桁違う想定数値である。それが直下地震と海溝型地震の違いかもしれない。さらに東日本大震災と比較すると、南海トラフ巨大地震は犠牲者数で14.5倍、全壊・全焼建物数で19倍、避難者数で20倍となる。これは、人口密度や社会資本の集積度によるものと思われる。

南海トラフ巨大地震では、高知県で最悪34メートルの津波が短時間で襲来すると想定されている。あまりにも凄まじい想定数値に、何かしようとする気が萎えてしまわないか心配するほどである。日常とかけ離れた甚大被害を突き付けられると、現実的に受け入れることができない人も出てくる。しかし、これらの数字はあくまで想定地震モデルを基にしてコンピューターで計算した被害想定である。特に東日本大震災直後に作成されたもので、そのショックも数値に入っている可能性もある。現在、南海トラフ巨大地震・被害想定の見直しが進んでいると聞く、新たな被害想定に注目したいと思う。

超広大震源域

阪神・淡路大震災と違って、東日本大震災の場合は、亡くなった人の約92.4%が津波による溺死。建物の下敷きで亡くなった人は約4.4%に過ぎない。いかに大津波が恐ろしいかということである。

東日本大震災の震源は宮城県の牡鹿半島の東南東沖130キロメートルとされているが、破壊された断層震源域は広大で、岩手県沖から茨城県沖までの南北約500キロメートル、東西約200キロメートルで面積は約10万平方キロメートルだった。南海トラフ巨大地震の震源域も広大で、東海から九州まで東西およそ700キロメートルに及ぶ。そして、東部は富士川河口断層帯が含まれ、西部は日向灘北部から九州・パラオ海嶺付近まで含まれる。

特に、想定される強震断層域がプレート境界面深さ約10キロメートルで面積は約14万平方キロメートル、津波断層域も深さ約10キロメートで面積が約11万平方キロメートルと広大で陸に近い。そのため、地震発生後、短時間で津波が押し寄せると想定されている。さらに地域によっては揺れ方が阪神・淡路大震災のような直下地震に近い激しい揺れになる可能性もある。震度が大きくなる最悪(陸側ケース)の場合、震度6弱以上になる地域面積が約7.1万平方キロメートル、震度6強以上になる地域面積が約2.9万平方キロメートル、震度7になる地域面積が04万平方キロメートルと超広範囲で東日本大震災よりも激しい揺れになる地域が多くなると想定されている。

危険なのは海岸だけではない

12年前、東日本大震災の津波映像が繰り返し放映された。そして、震災後「津波防災地域づくりに関する法律」(津波まちづくり法)が制定され、政府や自治体が津波対策を重点施策として対応してきたこともあって、南海トラフ巨大地震対策イコール津波対策というのが定着しているように思われる。日本では、直近の既往災害だけを下敷きにした対策に力を入れる傾向がある。阪神・淡路大震災後は「直下地震対策」「震度7」がクローズアップされ、東日本大震災後は大津波対策が焦眉の急とされてきた。

その結果、危険なのは海に近い場所という間違ったイメージを持っている人もいる。とくに南海トラフ巨大地震の震源断層域が陸に近いということは、阪神・淡路大震災の時のような激しい揺れが長く続く可能性がある。激しい揺れが長く続けば、海岸・内陸を問わず住家が多数倒壊し、多くの人が倒壊家屋の下敷きになる危険性がある。緊急地震速報が鳴ったらすぐに安全な行動がとれるように日頃から訓練しておくことが重要だ。

阪神・淡路大震災(1995年兵庫県南部地震)、M7.3、震源の深さが約16キロメートルで、とくに震災の帯といわれる地域は震度7の激しい揺れに見舞われた。揺れの周期(応答スペクトル)が約1〜2秒のキラーパルスといわれるやや短周期地震動が卓越した揺れで、中低層階建物が壊れやすい揺れ方だった。阪神・淡路大震災は、多くがまだ寝ている時間帯ということもあって、亡くなった人の約80%が屋内で建物の下敷きで亡くなっている。南海トラフ巨大地震では津波がクローズアップされているが、阪神・淡路大震災の時のような強い揺れでも家が壊れないための耐震診断、耐震改修も必要。どんな場合も地震対策の第一歩は、建物の耐震化、室内の転倒落下防止対策から始まることに変わりはない。津波避難の前に大揺れから命を守る対策と行動が重要。そして、揺れが収まったら、津波危険区域はすぐ高台避難である。

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