筋トレの効果を最大まで高める最良の「呼吸法」……「吸う」「吐く」「止める」だけではどれもダメ

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トレーニングのとき、「呼吸を止めてはいけない」とはよく言われることで、すでにご存じの人も多いだろう。では「吸う」「吐く」タイミングをどのように整えれば、トレーニング効果を高められるのか。長年にわたり呼吸法を探求してきた運動科学者・高岡英夫氏が解説する。高岡氏の著書『レフ筋トレ 最高に動ける体をつくる』から抜粋してお届けしよう。

呼吸のしかたを整えるだけ。筋トレがより高度なものになる

呼吸は人間にとって決定的な意味を持っています。たとえば、呼吸が数分停止しただけで、脳細胞の壊死が始まりますが、呼吸の有無が生死に直結することだけを考えても、その重要性はおわかりいただけるでしょう。

人類は科学が未発達だった昔から、この呼吸の重要性に気づいていました。そのことがわかる例を1つだけ挙げましょう。たとえば、いたたまれない雰囲気で心身が締め付けられるように苦しいとき、人はしばしば「息苦しい」「息がつまる」などと表現します。一方、休息をとって身も心もリラックスしようというときは、「一息つく」とも言ったりします。

こういった慣用表現からも、身体・精神・呼吸の密接なつながりを、私たちは窺(うかが)い知ることができるわけです。だから、筋トレをしている最中の呼吸のしかたを整えれば、そのトレーニングをより高度な、レフ化された「レフ筋トレ」へと近づけていくことができるのです。

(なおここでの「レフ化」とは、脳と身体を高度に統合し、ラフな筋トレをレフなものへと変えていくことはもちろんのこと、スポーツで、ビジネスで、あるいは日常生活で、優れたパフォーマンスを発揮できる状態へと高めていくこと全般であるとご理解ください)

では、どのような呼吸をすればいいのでしょうか。まずは呼吸の状態を3つに分け、レフ筋トレとの適合度を、適合している順に評価してみましょう。

胎息=息を止めている  →この状態での筋出力はNG

呼息=息を吐いている  →この状態での筋出力は「まずまず」

吸息=息を吸っている  →この状態での筋出力はOK

ここからわかるのは、筋出力をしているときに息を止めてはいけない、ということですが、昔はそんなことすら教えられないまま、「胎息」で筋トレをやらされていたことが間々ありました。

息を止めて筋出力するのは「ラフ筋トレ」(すなわち従来の、やりすぎによって体を傷めるリスクもある筋トレ)の最たるものです。最近は、呼息、すなわち息を吐きながら筋出力することが教えられていますが、以前に比べれば筋トレもレフ方向にだいぶ改善されたということでしょう。

スクワットなら、呼息しながら立ち上がり、重心を上に持っていく。

腕立て伏せなら、呼息しながら重力に逆らうように肘を伸ばして上体を押し上げる。

これだけでも、胎息して行う筋トレに比べれば、ある程度レフ化ができています。「では、それ以上のレフ化はあるのですか?」と尋ねられたら「もちろん、ある」と答えましょう。しかも、3種類もあるのです。

呼吸によるレフ化・その1 【吸息出力】息を吸いながら出力

グッと息を詰めて、「グーッ」といううめき声が出るような「胎息出力」の状態に比べれば、「呼息出力」で息を吐きながら筋出力するほうが、はるかにマシです。

息をまったく止めるか、ほとんど息を止めるに近い状態でやる筋トレの脱力緩解(ゆるむこと)のしやすさを0%だとすると、息を吐きながら筋トレをやることによって30%くらいまでは「ゆるむ」ことができますが、それ以上となると非常に難しいのが現実です。

ところが、息を吸いながら筋トレをやれるようになるともっと脱力緩解できます。これが「吸息出力」で、息を吸いながら出力するやり方です。

「えっ? それでは力は入らないのでは?」と異論をはさまれそうですが、いえ、これは十分にできるのです。

ただし吸息出力は、呼息出力や胎息出力に比べればはるかに難しいといえます。簡単に吸息で筋出力できるようにはなりません。間違いなく格別の練習が必要です。

ですが、だんだんできるようになってくると、全身の脱力、緩解が深く進むようになります。

武術は、歴史的に見ると、脳と身体運動の統合という点ではスポーツ以上の高い水準に達した分野だといえますが、その武術の伝統からすれば、吸息出力ができるのは当たり前のことです。吸息出力で相手を斬り、突き倒すのが当然だったのです。

呼息出力(つまり、息を吐きながら出力する)で相手を打ち、あるいは蹴り倒すような身体使いをしているようでは、吸息出力ができる人には到底、太刀打ちできません。本人も気づかないうちに、あっさりと斬られて終わってしまいます。呼息出力と吸息出力では、それほどの違いが生じるものなのです。

たとえば腕立て伏せの場合は、下の写真のようなタイミングで息を吸います。

呼吸によるレフ化・その2 【レフ音呼息出力】言葉を発しながら出力

2つ目は「レフ音呼息出力」です。

実は、脳にも身体にもレフ化を促すように働きかける言葉があるのですが、そのような言葉の代表格は、「気持ちよく」と「抜けるように」です。

呼息出力に慣れている人には、違和感があるでしょう。「気持ちよく」と言ってしまったら力が入らないし、「抜けるように」なんて言ったら、ますます力が抜けてしまう……そう思って当然です。

しかし、練習すれば誰でも、「気持ちよく」「抜けるように」と言いながら筋出力できるようになります。

また、試しに、小声でいいので、「気持ちよく」「抜けるように」と言いながら、スクワットで立ち上がったり、腕立て伏せでプッシュしたり、腹筋で上体を起こしたりしてみてください。どうでしょうか?

この方法は呼息で行いますから、吸息に比べればずっと取り組みやすいはずですが、正しくできるようになるためには、「気持ちよく」「抜けるように」、このメッセージが正しく身にしみるように言うことが不可欠です。全身に、そして主働筋に、深々とたっぷりしみ入るように言うのです。これが本当に気持ちよくできるようになると、身体の力みが本格的にとれるようになり(これを「力みカット」と呼びます)、全身の点検脱力がどんどん進みます。

呼息出力では、うまくやっても脱力、緩解、力みカットが進むのは30%くらいまでです。ところが、レフ音呼息出力ができるようになると、その上限が40〜60%くらいまでに上がります。

呼吸によるレフ化・その3 【吸呼息出力】吸い、そして吐きながら出力

3つ目が「吸呼息出力」です。これは吸息出力をやりながら、最後に呼息出力を行うというやり方です。

この方法は、評価でいうとOKを超えた「ベスト」な方法ですが、高度な吸息出力が正確にできることを前提としている点に留意してください。脳も、全身も、吸息出力から非常によい影響を受けた状態にあって、その状態に乗った流れのなかで呼息出力をやるという方法なのです。

スポーツの世界で吸呼息出力が完全にできている選手は、世界のトップ・オブ・トップのレベルだと言っても過言ではありません。

実のところ、吸息出力も十分「良し」といえるのですが、高度な吸息出力が達成できたところに、さらに高度な呼息出力を加えるのが「吸呼息出力」なので、これだけを最上、すなわちベストとしました。

本当に高度な段階で達成されると、吸息出力だけよりも強大な力(たとえば、剣でいうと圧倒的な斬撃)が生まれてきます。それが吸呼息出力です。

後編記事〈身体が心地よくゆるみ動きの調和が進む! 運動科学者が教える新トレーニング「ハイテク肩甲骨モゾ」の全手順〉に続く。

身体が心地よくゆるみ動きの調和が進む! 運動科学者が教える新トレーニング「ハイテク肩甲骨モゾ」の全手順