壇上で失神したストリッパーに注がれる「感謝のまなざし」…かつて日本中を席巻した「伝説の女」の知られざる最後の舞台

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1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるに至る。そんな人生を歩んだ彼女を人気漫才師中田カウス・ボタンのカウスが「今あるのは彼女のおかげ」とまで慕うのはいったいなぜか。

「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。

『踊る菩薩』連載第13回

『警察の突入さえも恐れない「大阪のストリップ」に沸いた戦後日本の「恐るべきポルノ事情」』より続く

伝説の踊り子の引退

午後1時20分過ぎ、司会の男性が舞台中央に立ち、こう紹介した。

「以前のストリップはアソコをちらちらと見せる程度でした。これではお客さんを満足させることはできません。廃れる一方のストリップ界にあって、勇気を出して自分のアソコを開いて見せた最初の人がこの一条さゆりです。このように勇気ある人が引退するのは非常に残念です」

司会者に紹介され、一条が舞台に立つ。客が一条に声を掛けた。

「あんた店やっているんやてな。どこでやっているんや」

「西成の松通りです」

「こんど顔見せるわ。お酌ぐらいしてくれるんやろな」

「もちろんですよ」

引退に備え、一条は内縁の夫、吉田三郎と2人で寿司屋を開いたばかりだった。

作者であり演者

彼女はいったん、舞台の袖に引っ込み、1時半を過ぎたころ、改めて和服姿で登場した。他の踊り子と違い、化粧は薄い。録音した音楽とせりふがテープ室から流れると、一条は日舞を踊った。帯に短刀を差したヤクザ風の踊りだ。そして、いよいよ一条は身に着けた布を一枚一枚、はいでいく。

会場は静まり返っている。一色は思った。

「なんとなくあか抜けないな」

一条は当時、女賭博師や三味線弾きの股旅女などヤクザもの10種、大奥物語など日舞10種、フレンチカンカンやアクロバットなどの洋舞4種類、それとロウソク攻めなどベッドショー2種の計26種の演目を持っていた。踊り子としてはかなり多い。

ただ、彼女はどんな踊りも一生懸命やりすぎるきらいがあった。そのため自然な感じがなく、一部のファンから、「あか抜けない」「田舎臭い」と評されている。

確かに一条は役作りに熱心だった。自分でストーリー展開を考え、音楽を選んで喘ぎ声と一緒に録音する。例えば戦争ものの場合、夫を亡くした看護師があばずれ女になり、酒をあおって男性との関係を持つ筋書きを作る。

爆撃の音に合わせて自分でナレーションも入れる。白衣に看護帽をかぶった一条は、自作の物語に合わせて踊り、身をさらしていく。作家であり演者でもある。

伝説のロウソクベッドショー

場内の空気が変わったのは3曲目に入るころだ。舞台正面に敷かれた布団の上に横になるや、衣装を脱ぎ、生まれたままの姿になった。伝説のロウソクベッドショーだった。束ねたロウソクに客が火を付け、一条が自分の胸の上にロウを垂らす。

それと同時に自慰に入る。オナニーショーである。曲の進行につれて速くなる手の動き。呼応して激しさを増す喘ぎ声。一条は完璧に性の虜になっていく。一色はこう語る。

「彼女はロウソクを上から垂らさない。肌に近いところから垂らす。熱いはずです。気持ちの昂まった一条は、『アッ、アッ、アッー』って喘ぐ。その声を聴いて、みんな固唾を吞み、ただ聞いているだけです。客席は微動だにしない。それが1人や2人ではない。客席の全員が舞台に集中しているんです」

官能に浸りきった喘ぎ声を聞き漏らすまいと客席は水を打ったような静けさである。

「狂っていると思いました。彼女の発するエネルギーはそれほど強い。みんなが圧倒されている。まるで一条の子宮に客が吞み込まれてしまったような一体感です」

一色は長くストリップ業界に身を置きながら、あれほどの芸に出会ったことは、ついぞなかった。

「やっぱり他の人はむらがあるんです。彼女ほど必死にやる人は、うん、そうね、いなかったな」

誰もが一条に釘付けになっている。やがて天にも昇るような官能の絶叫が響いた。激しく波打つ乳房と腹。そして、収縮を繰り返すピンクのひだ。握力が抜けたのか、ロウソクが舞台上に落ち、客が優しく火を消した。失神でもしたのか、一条は微動だにしない。客はみな固唾を吞むだけだ。

確かに目の前には女体がある。それを見る客は感動に酔いしれ、一条を労っている。客の表情にはただ感謝の気持ちが浮かんでいる。

『「わいせつな感覚は微塵もなかった」…伝説のストリッパーの「引退公演」で見られた異様な光景』へ続く

「わいせつな感覚は微塵もなかった」…伝説のストリッパーの「引退公演」で見られた異様な光景