SOUND WARRIORの真空管アンプ「SWL-T20U」

テレビでインテリアにこだわったオシャレなカフェや部屋が流れたりすると、オーディオコーナーをつい目で追ってしまう。すると度々目にするのが、真空管アンプだ。そしてその都度、「買いたい欲」と「置く場所もお金もない現実」が頭の中でぶつかり合う。

これまで100%現実が勝ってきたが、ここで城下工業が手掛けるSOUND WARRIORブランドから気になる製品が登場した。USB DACを内蔵した、コンパクトな真空管プリメインアンプ「SWL-T20U」だ。

このモデル、総合的に考えるとコスパが良く、買いなのではないか?ということで本機をお借りして確かめてみた。

USB DAC内蔵で対応力アップ、使い勝手の良い真空管アンプ

SWL-T20Uは、2021年発売の真空管プリメインアンプ「SWL-T20」(79,800円)をベースとして、新たにUSB入力を追加したブラッシュアップモデルだ。価格は94,800円。SWL-T20も併売されるため、兄貴分の上位モデルに位置づけられる。

内蔵USB DACは48kHz/16bitまでの対応。SOUND WARRIORではハイスペックな単体USB DACもラインナップしているし、いまさら技術的なハードルはないはず。これはコスト面の問題と、ソースにSpotifyなど音楽ストリーミングサービスが多くなり、ハイレゾ対応は必須ではないという判断ではないかと予想する。

実際に、双三極管(12AX7)1本と五極管(6BQ5)2本を採用した純日本製の五極管接続カソード負帰還A級シングルアンプ構成で、USB DACを内蔵して10万円切り。スペースのことを考えても、とにかく導入しやすいのが本機の1つの魅力と言えるだろう。

アナログ入力は引き続き、MM対応のフォノ入力、ライン入力、AUX入力を装備。出力はヘッドホン向けに3.5mmステレオミニ、サブウーファーアウトを備える。スピーカーターミナルは導線を通す穴のサイズが小さく、ケーブルの差し替えを楽しむにはバナナプラグを使いたい。

端子部は天面のリア側に配置されている

天面のフロント側に電源、ボリューム、トーンコントロール、入力切替の操作系統を装備。トーンコントロールはBassとTrebleの2種類で、12時の位置をフラットとしてノブを左に回せばカット、右に回せばブーストになる。またトーンコントロールをオフにすることで回路をスキップできる設計になっている。

フロントではなく天面に操作系統を配置。小ぶりなノブとトグルスイッチは感触が良い

公式サイトでは本機をデスクトップオーディオではなくリビングオーディオと分類しているが、リビングユースではコンパクトさも重要になってくる。SWL-T20Uの外形寸法はおよそ200×290×112mm(幅×奥行き×高さ)。同程度の価格帯ではTRIODEの「Pearl」あたりが同じくコンパクトな設計だが、それと比較すると横幅と高さに目立った差はないが奥行きは10cmほどSWL-T20Uの方が大きい。とはいえ、多くのサイドボードやキャビネットなどにも載せられるサイズ感に収まっているので、そう設置に困ることはなさそうである。

ただ、確かにデスクトップオーディオとしてはちょっと大きさはあるが、ぜんぜん置けないことはない。高さの圧迫感もないし、ヘッドフォン出力が天面に配置されたデザインは案外ケーブルの取り回しがしやすい。小さいだけで言えばハイブリッド型のCarot Oneなどが存在するが、小さすぎると接続したケーブルに引っ張られて傾いたりするので、むしろある程度のサイズは必要だと思う。

それに天面に集中させたスイッチ類は、棚や机の上など、囲いのない空間に設置した時が最も操作しやすい。そのことからも、筆者としてはSWL-T20Uはデスクトップユースを推したい。

天面にケーブルを接続するため、後ろにスペースを大きく確保しなくても設置できるのもポイントだ

真空管アンプなので出力は3W×2と控えめのため、組み合わせるスピーカーには能率の高さが求められる。公式でブックシェルフ型スピーカー「SW-SP1」とのセットモデル「SWL-T20USET1」(124,600円)を用意しているので、スピーカー選びに迷うならこちらをチョイスするのが手っ取り早いだろう。SW-SP1もコンパクトで、トータルの設置性に優れているのも嬉しいところだ。

SW-SP1の外形寸法は150W×240H×180Dmm。この中に100mmPPコーンウーファー、25mmソフトドームツイーター、110×180mmパッシブラジエーターを搭載する

背面のほとんどのスペースを占めるパッシブラジエーターで低域増強が図られている

真空管アンプらしさを存分に感じられる艷やかなサウンド

机の上に置いたSWL-T20Uの電源を入れる前に、真空管にホコリが確認できたので、ササッと掃除。普段は気にならないようなわずかなものだが、真空管はキレイに保ちたくなる。真空管アンプは結構熱くなるため、一応、観葉植物も少しだけ離しておく。

パチリと電源スイッチをオンにすると、徐々に真空管の光が強くなって熱を帯びてくる、それと同時に気分も高まる。アイドリングはそう長い時間必要ないと思うが、急ぎでもなし、数分ゆっくりと待つ。この待機時間に「これぞ、真空管アンプの醍醐味」を感じるからだ。あえて言うならば、こうした“儀式”も楽しんでこそ、真空管アンプを所有する喜びもひとしおとなるだろう。

ということで今回は、SWL-T20USET1を試聴していきたい。まずはパソコンとUSB接続して、Amazon Musicから再生する。

SWL-T20UとSW-SP1の組み合わせで試聴していく

一聴して強く感じたのは、「滑らかで艷やかな音」という印象だ。また全帯域をバランス良くまとめ上げようとするより、ボーカル帯域の美味しさを活かすことに躊躇しなかったような趣を感じる。生半可に優等生を目指すのではなく、真空管アンプらしさを前面に押し出したような感覚を受ける。

解像感にはある種のレトロさが感じられ、分析的に音楽を聴き込むというタイプではない。それよりも上述した滑らかさからくる、耳をバイパスして直接鼓膜を震わせていくような質感にマッチした楽曲を探したくなる。

tuki.「地獄恋文」では、深みと透明感のあるボーカルがアップテンポな演奏をスルスルとすり抜けて前に立つ。おかげで多彩な歌い分けや少しだけ喉を震わせるような表現を堪能できる。そのようにボーカルを際立たせながら、ピアノは跳ね、ベースはうねり、刻まれるリズムにはスピード感がある。小音量でも楽しく聴くことができるバランスだ。

Mrs.GREEN APPLE「僕のこと」は、高音の男性ボーカルがその輪郭を削られることなく厚みをもって届くため、その力強さに心が熱を帯びる。盛り上げどころのストリングスも艶があり美しい。菅田将暉「まちがいさがし」の落ち着いたボーカルでも、男性らしい声の太さが保たれることでストレートな歌唱の魅力がより増して感じる。女性ボーカルと相性が良いことは想像していた通りだが、思いのほか男性ボーカルにマッチする。

レコードプレーヤーとも接続してみた

SWL-T20Uのフォノ入力を使用したレコード再生では、滑らかな質感の傾向はそのまま、エネルギッシュな表現に。アナログプレーヤー内蔵のフォノイコライザーを利用して、SWL-T20U側をライン入力にしてみると、ボーカルに当たっていたスポットライトが消え、バンドメンバー全員が照らされるようなバランスに変化した。

また、TAGO STUDIO「T3-02」でイヤフォン接続も試してみる。スピーカーリスニングとの違いがあるにせよ、これまで通り「滑らかで艷やか」を踏襲しながら、低域と高域の細かな情報が聴き取れるようになった。ここはSW-SP1のサイズの限界もあるように思う。逆にSWL-T20Uのドライブ能力にはまだ先があり、スピーカー選びの楽しみがあるとも言えそうだ。

3.5mmステレオミニプラグは真空管の脇あたりに備えられている

ちなみにトーンコントロールをいじってみたところ、けっこう強めに効いてきた。使う場合は2時~3時の位置でノブを調整するくらいでブーストさせてあげるとちょうど良さそうだ。

真空管の光に抗えない

SWL-T20Uの機能性、そして音を確認すると、確かに真空管アンプのエントリーにはちょうど良いモデルのように思える。すでにUSB DACを持っていたり、さらにコンパクトなモデルを求めているといった方には合致しないかもしれないが、そうでもなければ一考の価値がある。

真空管アンプらしい真空管アンプが欲しいという要望を満たしつつ、無理のない設置が可能。自己バイアス方式でバイアス調整の必要はないし、初心者でも使いやすい。一般的に見るとそれなりに値段はするが、オーディオ機器としてはコスパ良しと言えるだろう。

改めて、SWL-T20Uをぼんやり眺めて考える。真空管がほんのりオレンジに光っている。アナログメーターもカッコいいが、この灯火には代えられない。これが見たいから真空管アンプを選ぶようなところもあるので、間近に置けるのは嬉しい。机の上に真空管アンプのある生活、良いなぁ。

真空管の灯りに自然と近寄ってしまう