(左から)ピアノ・西村由紀江さん、クロマチックハーモニカ・山下伶さん、ボーカル・藤田恵美さん(撮影◎本社 武田裕介)

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ボーカル・藤田恵美、ピアノ・西村由紀江、そしてクロマチックハーモニカ・山下伶。国内を代表するソロアーティスト3名が、ジャンルを超えた新たなスペシャルユニットを結成。10月、初のセッションライブを行う。ユニット名は「OTOHIME」。ボーカルとピアノとハーモニカ。前代未聞のコラボがいったいどんな音色を紡ぐのか。「プリンセスコンサート シネマで会いましょう」と銘打ったライブに、各方面から熱い視線が注がれている。そもそもジャンルの違う3人がなぜ出逢ったのか? 新たなチャレンジを前に、すでに三姉妹のように息の合ったところを見せる3人に話を聴いた。(構成◎吉田明美 撮影◎本社 武田裕介)

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クロマチックハーモニカとの出会い

西村 私はクロマチックハーモニカの存在は知っていたけれど、山下伶さんとは直接の知り合いではなかったんです。

山下 私にとっては、ピアニストの西村由紀江さんはもう遠い雲の上の存在で…。

藤田 私が2人を繋いだ感じになるのかな? クロマチックハーモニカという楽器に興味をもって、山下伶という素敵な演奏家がいることをYouTubeで知ったんです。そしたら私のマネージャーが伶ちゃんの事務所の社長さんと知り合いだということがわかって、なんとなく繋がった。
そもそも、クロマチックハーモニカって、あまりなじみのある楽器ではないでしょ。私たちが小学生のときに習ったハーモニカと少し違う。

山下 私自身、クロマチックハーモニカと出逢ったのは、音楽大学を卒業してからなんです。フルートを専攻していたけれど、このまま音楽の道に進むかどうか迷っていたときに、youtubeでたまたま見かけたのがクロマチックハーモニカ。一瞬で聴き惚れして、すぐに関西に住む演奏家を訪ねていって「弟子にしてください」と頼み込みました。

西村 それほど魅了されたということなんだろうけど、すばらしい行動力! 伶ちゃんが使っているのは16の穴があるタイプですね。

山下 ほかに12穴のものもあります。それぞれの穴を吹く、吸う、で半音違う音。さらに右側にあるレバーを押すとさらに半音上がるので、1つの穴から4種類の音が出ることになるんです。


礼文島の草原でクロマチックハーモニカを吹く山下さん(写真提供◎山下さん)

西村 16穴だと64の音。つまり4オクターブが演奏できるんだから、小さい楽器なのにすごいわ。

山下 持ち運びが便利だし、どこでも練習できるのもいいですよ。

藤田 素人でもすぐに演奏できるようになるの?

山下 はい。それぞれの穴の場所と音を覚えればできます。

ボーカルとハーモニカじゃ成立しない

藤田 今や第一人者の演奏家として大活躍の伶ちゃんだけど、私、実際に会う前にドレスを差し上げちゃったことがあったのよね。

山下 そうなんです。ジャケット写真で一度だけしか袖を通していない貴重なドレスをいただいてしまいました。

藤田 このところ断捨離をしていて(笑)、昔のドレスは似合いそうな方に差し上げてるんです。伶ちゃんが着てくれて、とってもうれしかったわ。

山下 そのあと、ようやく今年の新年会でリアルにお目にかかれたんですよね。

西村 それでもうユニットを組んでコンサート!早すぎでしょ(笑)!私と恵美さんとはもうかなり前からのお付き合いで…。初めて会ったのがいつだか、忘れちゃった!

藤田 私は覚えてますよー。「ひだまりの詩」を初めてテレビに出て歌ったのが、由紀江さんの番組だったんですから。

西村 えーー?!そうだったの?『西村由紀江の日曜はピアノ気分』(読売テレビ)に出てくれたんだっけ?「ひだまりの詩」が大ブレイクする前?

藤田 1997年だから27年前!

山下 わ、私、小学生だ!(笑)

藤田 それからラジオの公開番組でご一緒したときに初めて連絡先を交換。

西村 たぶんメアドとかじゃなくて、電話番号の交換!(笑)

藤田 それ以来ご縁があって、プライベートのお付き合いも始まって…。2010年には香港でジョイントコンサートが実現したり…。

西村 たまたまアジアツアーなどでお世話になっている通訳さんが共通で、その方から教えてもらった頭蓋骨マッサージに二人ともはまっちゃって!(笑)

藤田 だから、伶ちゃんと何かやりたいねという話が出たときも、ボーカルとハーモニカだけじゃ成立しないから、お願いするなら由紀江さんしかいないと思っていた。そしたら新年会の時に、私のマネージャーが酔った勢いで、由紀江さんのマネージャーさんに電話しちゃった!(笑)

西村 そうそう。彼からの「ご協力ください!」という電話を受けた私のマネージャーが、無責任にもその場で「はい、じゃあ、やりましょう!」と安請け合い(笑)! 


「私のマネージャーの〈はい、じゃあ、やりましょう!〉で活動が始まった」と振り返る西村さん

ユニット名を聞いてお手洗いのアレかと

山下 私はその話を聴いて、「え?あのピアニストの西村由紀江さんが、一緒にやってくださるの?」と半信半疑で…。

藤田 ボーカルも単音だし、伶ちゃんのクロマチックハーモニカも単音しか出ないですものね。ピアノの負担はもう信じられないぐらいめちゃくちゃ大きいよね。
でも、勢いでできたようなユニットだったけど(笑)、ユニット名は「OTOHIME」になった。

山下 オトヒメと聞いて、お手洗いに設置されてるアレですか?って思わず聞いちゃいました(笑)。 最初は「音姫」って漢字だったんですけど、それじゃああんまりだということで、アルファベットになったようです。(笑)

藤田 そして、日程も会場も先に決まっちゃったのよね。
コンサートの名前は「3 Princesses Concert 〜シネマで会いましょう〜」! 映画音楽を中心にお届けすることになりました。外堀を埋められて、由紀江さんはかなり困ったでしょう?

西村 お話はありがたいし、うれしいけど、果たして成立するのかなと心配で…。 ボーカルとハーモニカを私のピアノだけで支えて、あのオーケストラのゴージャスなサウンドが表現できるのかしらと、頭を抱えちゃいました。最初は、メールのやりとりだけで、曲目のラインナップを決めていったんだけど、映画音楽って、やりたい曲がたくさんありすぎて悩みましたね。

藤田 そうそう。お互いに好きな曲、演奏したい曲を出し合っていったけど、由紀江さんからリクエストがあった曲を私が滞在先の長野のあまり人のいない公園でこっそり歌ったデモ録音を由紀江さんに送ったこともあった…。

西村 あれ、いい感じだったよね、いい具合に鳥やセミの声が入っていて(笑)。おかげで「追憶」のイメージがばっちりつかめて、めでたくラインナップ入り!

藤田 パーカッションもベースも入れずにやるという無謀なチャレンジだったけど、最初のリハーサルで初めて3人で合わせたときに、いい音が生まれてきて、感動したわ。


「最初のリハーサルで合わせたとき、いい音が生まれてきて感動だった!」と語る藤田さん

3人がそれぞれの役割を果たし、3人とも主役

西村 結局ぶっとおしで10時間のリハーサルだったけど、その1日でほとんど決まったものね。二人からもいろいろなアイデアもいただいて、実際にやってみて、安心した。いいものになりそうね〜!

藤田 映画音楽メドレーは、かなり聴きごたえあり!

山下 恵美さんのビートルズもいいですよ!「Can’t Buy Me Love」とか…。

藤田 すべて由紀江さんのアレンジのおかげ!本当に大変だったと思うわ。

西村 やりがいありすぎのアレンジだったけれど(笑)、クロマチックハーモニカって吹き方でいろいろな音色が生まれてくるので、恵美さんの声と不思議なぐらいマッチするのが新鮮でとても楽しかった。お客さまにはぜひその不思議体験を味わってほしいです。

山下 プロ中のプロのお2人のお仕事を目の当たりにして、貴重な経験をさせていただきました。

藤田 私のマネージャーは、普段使っているスタジオのエレピ(エレクトリック・ピアノ)が、由紀江さんの手にかかるとあんないい音が出るのかとびっくりしてた。普通のエレピなのに、普段聴いている音とはまったく違っているって。さすが由紀江さん!!


ピアノに向かう西村さん(写真提供◎西村さん)

西村 恵美さんもさすがプロですよ。だって、「ひだまりの詩」のキーを、当時(1997年リリース)より半音上げているんだから!

藤田 年を取ると普通、キーはだんだん下げるのにね(笑)。「ひだまりの詩」の歌い出しって「♪逢えなくなって〜」なんだけど、その最初の「♪あ・え〜」が自分にとってはすごく出しにくい音域で。イントロが短いから出だしの緊張感も半端ない。でも半音上げてみたら、歌いやすい高さになったんです。そのかわり他の高音部分はちょっときついけど、インパクトのある出だしを優先してみました。

西村 今回は、私たち3人がそれぞれの役割を果たしたって感じね。役割がクロスオーバーしていて、3人とも主役。パーカッションもベースもないのが面白いって、今なら言える(笑)!

恵美さんの断捨離は半端ない

藤田 伶ちゃんは再来年がデビュー10周年なのよね。

西村 クロマチックハーモニカの普及にも努めていて、すごいです。この楽器が今回のコンサートをきっかけにもっと広まるとうれしい。

山下 ありがとうございます。ベテランのお2人に励まされるとうれしいです。長く現役でいる秘訣なども教えていただきたいし、オフのときは、どんな風に過ごしていらっしゃるかも知りたいです。 

藤田 私はもっぱら断捨離です!(笑)

西村 恵美さんの断捨離、半端ない(笑)。おうちに遊びに行かせてもらったときに、子どものころの写真も捨てようとしているのよ。思わず止めちゃった。

藤田 危なかった? 私はこどものころ「劇団ひまわり」に入っていて、左卜全さんとのユニットがヒットをして活動する中で、「学園天国」などで一世を風靡した「フィンガー5」のメンバーと「日劇」で共演してから仲よくなり、住んでいるところが近かったので、お互いの家を行き来して家族ぐるみのお付き合いをしてたんです。そのせいかフィンガー5の家族写真が私の手元にあったわけ。
それを先日約50年ぶりに再会した、三男の玉元正男さんにちゃんとお返しできてほっとしました。でもお返しできないものは、やっぱり断捨離だわ。

西村 恵美さんは刺繍もするでしょ? 文庫本のカバーをいただいたことがあるもの。

藤田 父が器用で、子どもの頃の私の服は、ステージ衣装も含めてよく作ってくれてたの。そういえば、フィンガー5の衣装も作っていたと、正男さんから聞いてビックリ。私も父ほどじゃないけど、手先を動かすことは好きですね。何か作品を作りたいというより、刺繍そのものがしたいだけなんだけど…。 


お父さんの手作りの服を来た藤田さん(写真提供◎藤田さん)

どんな音になるか、ぜひ会場で

山下 恵美さんは保護猫も飼っていらっしゃるんですよね。

藤田 はい〜!日々、癒されてます! 由紀江さんは、のんびりする時間なんてないでしょ? いつもストイックに体を鍛えているか、ピアノに向かってる。
リハーサルの時も、少し休憩しようと言っても、その間、ずっと楽譜を書いたりピアノを弾いてたし…。

西村 そうね。のんびりしてみたいんだけど、外でできる仕事が少ないので、どうしても家ではピアノに向かっちゃいますね。あとここ数年はずっとお味噌作りにはまっていて、福島に通っています。みんなもそうだろうけど、ピアノも体力勝負だから、食事には気を付けるし体を鍛えることも忘れないようにしています。恵美さんもボイストレーニングはしてるでしょ?


味噌づくりに勤しむ西村さん(写真提供◎西村さん)

藤田 してはいますが…。若いときはいくら歌っても声がどんどん出ていたけど、だんだん練習しすぎるとつらくなってきた。だからトレーニングしすぎないようにして本番に温存してる(笑)。ただ、ストレッチなどはすきま時間を見つけてやるようにはしてますね。積み重ねが大事よね。伶ちゃんは現役のおかあさんでもあるから、オフはやっぱり子育て?

山下 はい。3歳の男の子がいるので、休みの日はべったりです。

西村 ハーモニカ演奏のために体を鍛えたりはしないの?

山下 ママチャリをガーッと走らせるぐらいかな(笑)。といっても普段はけっこう夫まかせだったりするんですけどね。今回のチャレンジは、私の演奏生活の中の大きなエポックになりそうです。本当にお2人には感謝しています。


ママチャリを走らせて体鍛えてます!(笑)

西村 私にとってもチャレンジでしたよ。不安が少しずつ消えていって、楽しくなってきた。まだまだアイデアが出てきて、毎日のようにメールでやりとりしているから、本番までまだまだ進化し続けそうだけど…。

藤田 「いつかなんかやりたいね〜」と言ってるだけじゃ、何も始まらない。やっぱり実際に動いてやってみるのは大切ね。今回のチャレンジでつくづく感じました。

西村 ジャンルが違うわたしたちの音が掛け合わされてどんな音になるか、ぜひ会場に足を運んで確かめてほしいですね。期待は裏切らないです!(笑)

山下 クロマチックハーモニカにも興味を持ってほしいし、ぜひぜひたくさんの方に聴いていただきたいですね。