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 昨今、入社してすぐに退職してしまう新入社員の話題は枚挙に暇がない。
 今回は入社3日目で会社に姿を見せなくなったモンスター新入社員について、鉄鋼メーカー勤務のカナさん(仮名・42歳)に話を伺った。

◆慌てもせず「社員証を忘れました」

 4月、カナさんが働く会社の営業部に配属された新入社員・A君。入社式が行われる朝、カナさんは普段通り会社の入館ゲートを通ろうとすると……。

「一人の若い男性がゲート前で立ち止まっていたんです。ただ、慌てている様子もなく棒立ち状態だったので、不思議に思って声をかけたところ、そこで新入社員A君だと気づきました。私が『なにしてるの?』と尋ねると『社員証を忘れました』と。

 いきなりこんなことでつまずくなんて先行きが不安でしたよ。だって“社員証は必ず持参すること”というのは、人事部の担当者が口を酸っぱく何回も伝えていたはずで、入社日に社員証を忘れる人なんて今までいませんでしたから」

 何も行動を起こさないA君に代わってカナさんが人事部に連絡をして、無事にゲートを通過。初日はその後、何事もなくA君は帰宅していったそうだ。

◆何度もトイレにこもり…サボり疑惑

 しかし入社2日目。午前中のA君はやる気は見えないものの体調は悪くなさそうだったが、午後になって急変。

「午前中は新人研修などを受けていましたが、昼休みが終わり、これから午後の業務だというときに、彼は『疲れた』と言ってトイレに行ったんです。そもそも昼休み中に行っておきなよとは思ったんですが、それから10分経っても戻ってこない。けっきょく30分経ち、男性社員がトイレまで様子を見に行こうとしたときに、ようやくA君は帰ってきました」

 30分もトイレにこもってしまうほど体調が悪いのかと心配したが、カナさんはオフィスに戻ってきた際のA君の態度にイラっとしてしまったという。

「A君に仕事を教える先輩社員をずっと待たせていたのに、『お待たせしました』の一言も『すみません』の一言もなく、無表情でさーっと戻って来て、自分の席に座ったんです。

 そして午後の業務中も何度かトイレにこもってたんですよね。さすがに30分帰ってこないというのはもうありませんでしたが、トイレに行って10〜20分帰ってこないっていうのを3、4回繰り返していたんです。本当に体調不良ならば辛くて大変だろうなと思いつつも、正直言うと彼があまりにふてぶてしい態度だったので、サボッているだけなんじゃないかと疑ってしまっていましたね」

◆3日目は出社せず、とうとう無断欠勤

 迎えた3日目。昨日の体調不良から快復して、今日から巻き返してがんばってほしいと思っていたそうだが……。

「3日目、A君は職場に来ませんでした。休むという連絡も来てなかったそうなので、上司が電話とメールをしていましたが、電話は繋がらず、メールの返信もなし。無断欠勤となりました。みんな口には出しませんでしたが、A君は戦力にならないかもしれないなと、心の中で思っていたはずです」

 その日の帰宅後、カナさんがテレビをつけると、退職代行サービスが流行しているというニュース。

退職代行サービスというものがあるというのは耳にしたことありましたが、どういうものか気にもしていなかったので、そのニュースで具体的にどういうサービスなのかを初めて知りました。就活で苦労してせっかく入った会社を、わざわざ数万円も払って辞めたくなるほど、ブラック企業がまだまだ世の中にはたくさんあるんだな……ぐらいの感想でした」

◆4日目、例のサービスから電話が…

 そしてA君の入社から4日目。まさかの事態が起こったという。

「その日もA君は来ていなかったのですが、めずらしく朝イチで電話が鳴っていたので私が出ました。すると、それはA君から依頼を受けた退職代行業者からの電話だったんです。人事部に引き継ぐ前に一応最低限のヒアリングはしておこうと思って、退職理由を尋ねたところ、『会社の雰囲気が合わない』と」

 カナさんたち先輩社員がA君を迎え入れるために、数ヶ月前から準備していた教育プログラムなどは水泡に帰することに。

「A君にも言い分はあったのでしょうが、徒労感がすさまじかったですね(苦笑)。今のご時世、『こんなに周囲に迷惑をかけておいて何も言わずに辞めるなんて、社会人としての自覚が欠如してる』なんて口に出したら、パワハラ認定されたりブラック企業扱いされたりしそうですけど、内心はそう思ってしまっていました……」

 退職代行サービスは、若い世代の社員や社内で立場が弱い社員たちにとって救いとなるのは間違いないだろう。だが一方で、「石の上にも三年」ということわざに共感している人たちからすると、モヤモヤが募ることもあるのかもしれない。

<取材・文=瑠璃光丸凪/A4studio>

【瑠璃光丸凪】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは、アングラ・音楽・ファッションなどサブカルチャー全般と、ジェンダー問題、政治経済問題について。趣味はレコード集め。