セダンは左右に車線変更を繰り返し、どちらかの車が道を譲るのを待ち望んでいるようだったのだが……。

「トラックとミニバンは、意図的なのか、それともただの偶然なのか、まるで息を合わせたかのように並走を続けています。隙間はわずか1メートルあるかないかだったでしょうか。10分ほど、この緊迫した状態が続いていました」

 その10分間が、まるで永遠に続くかのような感覚で、熊田さんにとっても非常に長く感じられた。セダンの運転手の焦りや怒りが、熊田さんにも分かったという。

◆突然のエンジン音に白い煙がもくもく

「そして、ついにそのときがきた」と、熊田さんは振り返る。

 セダンのエンジン音が突然、耳をつんざくような高い音を周囲に響き渡らせたのだ。と同時に、白い煙がもくもくと立ち上がった。

「私は、『やっちゃったな……』と思わず呟きました。セダンは速度を落とし、ハザードランプを点滅させて、車を路肩に寄せました。トラックとミニバンは、それを目のあたりにして軽くクラクションを鳴らし、余裕をもってその場を後にしたんです」

 どこか勝ち誇ったような感じさえ漂っていたそうだ。熊田さんはその瞬間、思わず笑みを浮かべてしまったとのこと。

「あれだけの時間、必死にあおり続けていたセダンの運転手が、自らの車を壊してしまうという展開は、まさに“因果応報”という言葉そのものでしたね」

 熊田さんはセダンが路肩に停まっているのを横目に車を進めた。

<取材・文/chimi86>

【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。