「ワーホリを甘く見た」日本の若者たち、その悲惨すぎる末路…オーストラリアに殺到も「ホームレス向けの食料配布に長蛇の列」「仕方なく現地のキャバクラで働く人も」

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「海外に行けば、新しい自分に出会えるかもしれない」――。そんな期待に胸をふくらませて毎年およそ2万人の若者が利用するのが、現地で働きながら語学や文化について学べるワーキングホリデー、略して「ワーホリ」だ。

しかし今、渡航先として人気のオーストラリアで”異常事態”が起きている。現地のホームレス向けの食料配布に、日本人ワーホリ生が長蛇の列を作っているのだ。

数年前までは“稼げる国”としてメディアにたびたび取り上げられたオーストラリアで、いったい何が起きているのか。取材を進めるうちに、夢を抱いた若者たちに立ち塞がるワーホリの厳しい現実が浮かび上がった。

「月給100万円も夢じゃない」

お互いの国の文化や生活様式の理解を深めるために1980年に始まった「ワーキングホリデー」(以下、ワーホリ)の利用者は、コロナ禍以降、右肩上がりに伸びている。

日本ワーキング・ホリデー協会によると、年間およそ2万人の若者がこの制度を利用して渡航しており、ワーホリ先として人気のオーストラリアを訪れた日本人は、去年6月までの1年間で1万4千人を突破。統計を取り始めてから過去最高を記録したという。

そんなワーホリの一番の特徴にあげられるのが、留学期間中に”就労”が認められている点にある。現地で語学や文化を学びつつ、アルバイトで給与をもらいながら生活できるため、一般的な留学よりも費用が安く済む。それが近年では「円安」の影響で高騰し、たびたびメディアに取り上げられるようになったのが”海外出稼ぎ”というワードだった。

オーストラリアの最低賃金は時給24.1ドル(約2400円)で、日本の2倍以上になっています。現地では農場や工場で一週間に2500ドルほど稼いでいるワーホリ生もおり、月給にして100万円稼ぐのも夢じゃありません。

本来ワーホリとは、異文化交流や語学勉強を主の目的としていますが、2022年ごろにはテレビでも『(日本の)寿司職人が海外に行ったら数千万円稼ぐことができた』などのサクセスストーリーが流れたこともあり、お金を稼ぐためにオーストラリアへ渡航するワーホリ生が急増しました」(現地コーディネーター)

ホームレス向けの食料配布に…

そんななか、今年の夏に衝撃のニュースが日本列島を駆け巡った。7月4日付けの朝日新聞で、オーストラリア第三の都市「ブリスベン」にて、現地ボランティア団体によって行われたホームレス向けの食料配布に、日本人ワーホリ生の行列ができていると報じたのだ。

この現象について、オーストラリアでシェアハウスを営む20代の日本人男性はこう分析する。

「そこに並んでいた日本人はワーホリ1年生でしょう。オーストラリアでは最大3年間にわたってワーホリビザが発行されますが、彼らはワーホリに来て半年以内で、仕事を探しているうちに貯金が尽きて困窮したため配給に並びだした。そこから現地の日本人同士で『あそこでタダ飯食べられるよ』みたいなウワサが出回り、ちょっとお金に余裕があっても節約したい人や、軽いノリで行く人も集まり行列が生まれたのです」

現地では日本人ワーホリ生限定のLINEグループも存在。前出の男性は「そこで情報交換していくなかで”炊き出し情報”として拡散されて日本人が増えた」と話すが、ワーホリ生が無料配布に並んでいるのは、ブリスベンに限った話ではないという。シェアハウスを営む男性が続ける。

「僕が住んでいるゴールドコーストもワーホリ生に人気の地域なのですが、そこの日本人の若い子たちも『知り合いがゴールドコーストの配給に並んでいる』と話していました。それと、これは本当かどうか分かりませんが、X(旧Twitter)のワーホリアカウントの中には『家賃も払えなくてメシ食う金も底をついた。誰か日本に帰る航空券代をくれ』みたいなことをつぶやいているユーザーもいました」

なぜ「ワーホリバブル」は起きたのか

数年前までは“稼げる国”としてメディアにたびたび報じられていたオーストラリアで、いったい何が起きているのか。

日本ワーキング・ホリデー協会で広報を担当する真田浩太郎氏は、「ワーホリ=稼げるという状況が一人歩きしたために起きた現象だ」と言う。

「大前提としてオーストラリアの人たちは、農場や工場をはじめとした最前線の労働力はワーホリメーカー(ワーホリ生)で賄ってきたんです。その証拠として、オーストラリアだけに『セカンドワーキングホリデービザ』という制度があります。他の国でも一部似たような制度はありますが、1〜2年がっつり延長できるのはオーストラリアだけ。それだけ国としても、労働力としてワーホリ生を重宝しているという背景があったんです」

ところが2020年に全世界にコロナが蔓延したことで、オーストラリア政府は自国の国籍を持たない人びとの出入国を禁止する「水際対策」を実施。その2年後に巻き起こったのが「ワーホリバブル」だったという。

「コロナ明けの2022年には、国境を解放しようという動きが起こり、その年の夏ごろからワーホリ、学生ビザ、観光ビザを含めてふたたび外国人を自国に入れていこうという政策が始まりました。そこに『円安』がヒットしたことで巻き起こったのが『ワーホリバブル』で、この時期は国内に働き手がほとんどいなかったので、英語力やスキルは関係なく誰でも仕事に就けて、高額な給与がもらえるという状況になりました。

まさしく当時テレビで話題になった『寿司職人の年収が数千万円』みたいな記事もこの時期です。介護系の仕事がとくに人手不足の状況だったので、誰でも月に50〜60万円ほど稼げていました」(真田氏、以下「」も)

「誰でも稼げる」時代は終わった

そうした“サクセスストーリー”が世間に広く知れ渡ったからか、去年6月までの1年間でオーストラリアに渡航したワーホリ生は過去最多の1万4千人を突破。

前出の真田氏は、「その結果としてコロナで足りなくなった『労働力』も補えてしまい、仕事の需要も落ち着きました。逆に現在のオーストラリアは、世界中からワーホリ生が殺到した影響でコロナ前よりも仕事を見つけるのが難しくなりました」と話す。

「ただし依然として『ワーホリ=稼げる』という事実は変わりません。今でも円安は続いていますし、農場や工場などをはじめとした経験やスキルが必要とされてない仕事においても、月に40〜50万円ほど稼ぐことができます。それに休日出勤が重なると、ダブルペイやトリプルペイと呼ばれる手当が発生するので時給が跳ね上がりますから、働けば働くほどお金を稼げるという状況にあります。

とはいえ、現在はなかなか仕事を見つけるのが難しく、おまけに『ワーホリに行けば誰でも稼げる』と勘違いしたまま渡航される方が増えました。あのような食料配布に並んでいたワーホリの方も、オーストラリアに来たはいいものの、仕事を見つけられずに貯蓄を使い果たしてしまったのではないでしょうか」

まさに”ワーホリバブル”から一転してしまったオーストラリア。しかし、前出の真田氏は「そもそも海外で働くのは非常に難しいという認識が欠けている人が多いんです」と指摘する。またコロナ禍以降、ワーホリを希望する人の「情報収集の方法」にも変化を感じているという。

「コロナ前は我々のような団体だったり留学エージェントの説明会を経てワーホリに参加するのが一般的でしたが、現在はSNSのインフルエンサーや、友達経由で情報を集める人が増えた印象を受けます。『ネットでこういう風に知ったんですけど、実際はどうなんですか?』と聞きにくる人もいますが、自分で情報を集めてそのままワーホリに行ってしまう人が多いんじゃないかなと感じています。

もちろんインフルエンサーも、その人が知ってる情報の範囲でメリット、デメリットを伝えていると思うのですが、現在のオーストラリアの状況についてどこまで正確に伝えているのか微妙なところなんですね。その人自身はオーストラリアに行ってたまたますぐに仕事が見つかったかもしれませんが、他の人はどうなのかって分かりませんから…」

「夜の仕事」に手を染めるワーホリ生も

現在オーストラリアでは、カフェやレストラン、ホテルのフロントといった接客業に各国のワーホリ生が殺到して”席の奪い合い”が発生している。前出の真田氏は「『人と関わる仕事がしたい』というところで視野が狭まり、そうした仕事に人気が集中してるのかもしれません」と分析する。

しかし一方で、最近では仕事が決まらず、現地のキャバクラや風俗のような仕事に流れるワーホリ生もいるという。当然のことながら、ワーホリの規則で”夜の仕事”は禁止されている。もし見つかったら強制送還は免れないが、なぜここまでワーホリ生が追い詰められてしまうのか。

「現地に相談できる人がいないのが原因にあると思います。そこで我々としても、『一番最初の期間は語学学校に通いましょう』とお伝えしています。なぜかというと、単純な英語力の向上だけではなく、語学学校に通うことで現地のコミュニティに入ることができるからです。困ったときには学校を頼ることもできますから心強いんですね。

いざアルバイトを探すとなっても学校側が履歴書を添削してくれたり、面接の練習をしてくれたりと、親身になってサポートしてくれる。それこそオーストラリアで仕事を探すときは、誰かに紹介してもらうのが一番採用率が高くなる傾向にあるのですが、そうしたコミュニティの紹介までしてくれる場合もあります。もちろん仕事が決まるには運要素もありますが、このようにしっかりと準備するだけで確率は引き上げられると思います」

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