改修工事で天井裏に断熱材を敷き詰めた岡山県津山市立西小学校の教室(2019年8月撮影、津山市提供)

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 冷房の利きが悪い学校の教室で断熱改修の有効性を検証するプロジェクトが10月から、岡山など6都道県でスタートする。

 勉強に集中できる環境づくりが目的で、学識者と企業が1年がかりで室温や電気使用量の変化などを調べ、国に断熱改修の重要性を訴える方針だ。(藤本綾子)

 文部科学省によれば、公立小中学校の普通教室のエアコン設置率は2022年9月時点で95%に達する。一方で校舎の断熱性能に明確な基準はない。

 築年数が古い校舎の多くは低断熱や無断熱とみられ、夏は暑く、冬は寒くなりやすい。特に校舎の最上階は直射日光で天井が熱くなり、教室内が冷えにくい。

 「エアコンの設定を18度に下げても室温は32度」。横浜市立小学校の男性教諭(58)はこの夏の猛暑を振り返り、冷房が利く階下の特別教室に移って授業を行うこともあると明かす。

 兵庫県立高校の男性教諭も「夏休み後も冷房で涼しくなりにくく、生徒が我慢できずに窓を開けてしまう。授業中も多くが手持ち扇風機を使い、望ましい学習環境とは言えない」と話す。年間の電気代を抑えるため、職員室では冷房を一時的に止めるなどしている。

 文科省の学校環境衛生基準で、望ましい教室の温度は通年で「18度以上、28度以下」だが、同省は各地の断熱性能の状況を「把握していない」(施設助成課)という。

 検証プロジェクトは竹内昌義・東北芸術工科大教授が代表を務める「エネルギーまちづくり社」(東京)と前真之・東京大准教授、建材大手YKKAP(同)が実施。北海道、東京都と山形、長野、岡山、大分各県の計6校の協力を得て、最上階で隣り合う2教室の一方を改修し、エアコンの稼働状況や室温変化を比較し、1年がかりでデータを収集する。

 竹内教授によれば、一つの教室の天井に断熱材を入れ、窓を二重にするなどの改修は数日あれば済むが、費用は150万円程度がかかる。一方、各自治体では「効果を示すデータに乏しい」として、予算化が進まない課題があるという。

 竹内教授のサポートを受け、3階建ての最上階の1教室を5年前に改修した岡山県津山市立西小学校の下山智之教頭は「エアコンの利きが良く、並びの教室より高めの設定温度でも涼しくなりやすい」と話す。市は夏で3割、冬は5割程度の節電効果があるとしている。

 竹内教授は「様々な気候の場所で調査するため、地域に応じた効果的な改修方法が検討できる」と意気込む。前准教授も「まずは無断熱の教室だけでも早急に進める必要がある。暑さが年々厳しくなる中、これ以上、問題を放置すべきではない」と訴えている。