ラクスマン来航時の根室を描いた絵図(天理大学付属天理図書館蔵)の複製画。煙が上る小屋が描かれている(根室市歴史と自然の資料館で)

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 ブームが続くサウナ。

 江戸時代、その文化が日本で最初に伝わったとされるのが、北海道根室市だ。地元の産官学のサウナ愛好家らは、「伝来の地」の歴史を生かしたまちおこしを進めようと、研究グループを今春設立した。市もサウナ施設の誘致・整備を進める構想を掲げ、空洞化が進む中心市街地の再興を目指す。(柳沼晃太朗)

 サウナは北欧のフィンランドが発祥とされる。日本には1792年、父親が同国人だったロシアの使節アダム・ラクスマンが根室へ来航した際に持ち込んだと伝わる。ロシアに漂着し、ラクスマンに伴って帰国した大黒屋光太夫(だいこくやこうだゆう)の記録には、熱した石に水をかけて蒸気を出すスタイル「ロウリュ」をうかがわせる記述があり、当時の絵には煙が上る小屋も描かれている。

 ラクスマンの目的は幕府との通商交渉だったが、市歴史と自然の資料館の猪熊樹人(しげと)・学芸主査(48)は「サウナなどの身近な文化が伝わった点でも、来航は意義深い出来事だった」と指摘する。

 根室とサウナの歴史的な関わりは、近年のサウナブームで認知度が高まった。ただ、市内でサウナがある施設は一部の銭湯など数か所にとどまる。そこで、市や民間企業、学識者らはこうした歴史を地域振興に生かそうと、「サウナ伝来の地・根室まちおこし研究グループ」を4月に設立した。

 メンバーは10人ほど。代表で地元企業「ヒシサン」社長の岩崎祥治さん(56)は、「サウナ施設には北海道でも若い人の行列ができる。幅広い年齢層が根室を訪れるきっかけをつくりたい」と語る。

 活動の第一歩として、7月下旬にはフィンランドを訪問。同国の伝統的なサウナ文化は国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録されている。現地ではラクスマンの父親の出身地の市長らと面会したほか、まきを燃やして室内を温める「スモークサウナ」も体験した。本場の文化をヒントに現在、根室の活性化策を模索している。

 市も将来のまちづくり構想の中で、JR根室駅前にサウナ付き宿泊施設を整備するとし、民間施設の誘致にも力を入れる。石垣雅敏市長は「歴史とロマンという新たな視点で、根室ならではのサウナ文化をつくり出し、地域経済を引っ張る活力にしたい」と意気込んでいる。