ジョアキーノ・ロッシーニ『ウィリアム・テル』

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2024年11月20日(水)~11月30日(土)新国立劇場 オペラパレスにて、2024/2025 シーズンオペラ『ウィリアム・テル』が上演されることがわかった。

ロッシーニ最後のオペラにして最大傑作『ウィリアム・テル』(ギヨーム・テル)を新国立劇場初上演する。ベルカント・オペラの旗手としてヒット作を連発したロッシーニが、フランス風の美しい旋律を追求し、ロマン主義的なグランド・オペラの扉を開いた画期的作品。今回、日本国内での原語(フランス語)・舞台上演は初めてとなり、幻の大作が待望の上演となる。

『ウィリアム・テル』は伝説の英雄ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)をめぐるシラーの戯曲を原作に、ハプスブルク家の圧政下にあった14世紀スイス・アルプス地方の民衆の自由を求める闘いを描く歴史劇。農民たちの苦悩と決起、そして秘められた恋の物語で、上演時間が5時間に及ぶ壮麗なグランド・オペラ(グラントペラ)。「『ウィリアム・テル』序曲」として老若男女におなじみの序曲、そして弓の名手ウィリアム・テルが息子の頭に載せたりんごを見事に射抜くエピソードはあまりにも有名。オペラ上演史に輝く記念碑的公演はオペラファン、クラシックファン必見だ。

演出は大野和士芸術監督が厚い信頼を寄せるヤニス・コッコス。演出家・舞台美術家として世界で活躍する巨匠が2021年4月『夜鳴きうぐいす/イオランタ』に続いて登場する。コッコスとクリエイティブ・チームは2021年の『夜鳴きうぐいす/イオランタ』では新型コロナの渡航制限で来日が叶わず、フランスと日本を連日繋いで完全リモート演出による新演出を行い、象徴的で心に染み入る、秀麗な舞台を生み出した。困難な創作活動で培われた日本側スタッフとの絆で、大作の演出に挑む。

タイトルロールのウィリアム・テルには、2022年『椿姫』で中村恵理と共演し、滋味あふれる表現で感動を呼んだ実力派、ゲジム・ミシュケタが登場。ヴェルディやロッシーニを得意とするバリトン歌手のミシュケタは、イタリア各地でウィリアム・テル役を歌っており、この役に精通したスペシャリストだ。青年アルノルドは、破格のロッシーニ・テノール、ルネ・バルベラ。バルベラは2020年『セビリアの理髪師』、21年『チェネレントラ』とロッシーニ作品で続けて新国立劇場に出演、超人的な声とテクニックを溌溂と披露し、『チェネレントラ』では連日アリアがアンコールされるほどのショーストッパーぶりを発揮した。アルノルドと恋仲となる皇女マティルド役は、今日のオペラ界屈指のスター、オルガ・ペレチャッコ。新国立劇場へはベルカントの新女王として話題を巻き起こした2017年『ルチア』以来の登場で、更に豊かに成熟した表現に期待が集まる。

【ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)】ゲジム・ミシュケタ(バリトン)

【アルノルド・メルクタール】 ルネ・バルベラ(テノール)

【マティルド】 オルガ・ペレチャッコ(ソプラノ)

さらに、総督として強権を振るうジェスレル役には、日本を代表するバス歌手妻屋秀和、総督ジェスレルの命で頭に載せたりんごを父が射抜くエピソードが有名なウィリアム・テルの息子ジェミにソプラノの安井陽子、テルの妻エドヴィージュにはフランス音楽のスペシャリスト齊藤純子が出演。須藤慎吾、成田博之、村上敏明らオペラ界トップ歌手が贅沢にも脇を固め、大河ロマンのような大作歴史劇をダイナミックに織り成す。

指揮は新国立劇場オペラ芸術監督・大野和士。苦悩と決起、葛藤と愛、誇りと希望が崇高に響く『ウィリアム・テル』に期待しよう。

【『ウィリアム・テル』あらすじ】
オーストリア圧政下のスイスの山村。長老メルクタールの息子アルノルドはハプスブルク家の皇女マティルドへの恋に悩んでいた。村一番の弓の名手ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)はオーストリアの支配に抵抗するよう、アルノルドを諫める。総督ジェスレルに反抗し村人を匿った咎で長老メルクタールが殺され、アルノルドは復讐を決意する。ウンターヴァルデン、シュヴィーツ、ウーリの3州の民が集まり決起を誓い合う。マティルドはアルノルドの決意を聞き、永遠の別れを交わす。ジェスレルは表敬を拒んだテルと息子ジェミを捕らえ、息子の頭に載せたりんごを射ることができれば命を助けると告げる。見事に射抜いたテルだが、ジェスレルに投獄される。アルノルドがついに蜂起し、脱出したテルがジェスレルを倒す。アルノルドとマティルドは再会し、自由を祝う民衆の声が崇高に響く。


芸術監督・指揮 大野和士からのメッセージ

芸術監督・指揮 大野和士

24/25シーズン2作目の新制作は、ロッシーニの最後のオペラとなるグランド・オペラ『ウィリアム・テル』(ギヨーム・テル)です。彼は速筆の作曲家でしたが、この作品だけは、半年にわたる時間をかけています。原作はシラーのドイツ語ですが、オペラ台本はフランス語で書かれ、今回は、そのオリジナル台本で演奏します。有名な序曲を除いて、全曲お聴きになった方はなかなかいらっしゃらないかもしれませんが、4幕からなるオペラには、オーストリア・ハプスブルク家の支配から解放されたいと格闘するスイスのテル親子と総督ジェスレルとの葛藤が描かれます。スイスの長老メルクタールの息子アルノルドは、なんとハプスブルクの皇女マティルドと熱い恋に陥っていましたが、スイスの独立のためそこから身を切り離し、戦いに向かうのです。
テルにはこの役で名声を博している、若くして威厳に満ちたゲジム・ミシュケタ、アルノルド役はルネ・バルベラ。2021年、新国立劇場の『チェネレントラ』のドン・ラミーロで、彼の高音の輝かしさと弱音の美しさに思わず息を呑んだ方も多いことでしょう。また、マティルド役のオルガ・ペレチャッコは、今や世界を駆け巡るソプラノ歌手。高音の魅力の美しさはいうまでもなく、最近は中声部の充実も大変魅力的です。演出は、ヤニス・コッコス、2021年の『夜鳴きうぐいす/イオランタ』ではフランスからリモート演出を行い、作品の叙情を見事に描き出しました。

演出家ヤニス・コッコスからのメッセージ

演出 ヤニス・コッコス       phot:Tommaso Lepera

ロッシーニの『ウィリアム・テル』が今回日本で初めてフランス語版で上演されるということは、大変重要です。この作品は一般的にはあまり上演されてきませんでした。大変な大作で、非常に力のある歌手を必要とします。音楽的にも大変複雑で興味深い作品です。『ウィリアム・テル』は19世紀における、近代性への扉を開く作品なのです。全く新しい音楽的要素の数々をもたらした作品のひとつで、ヴェルディその他多くのオペラ作曲家がこの作品から様々な要素を汲み取り、『ウィリアム・テル』の独創性は長く息づくことになりました。ベルリオーズのような作曲家にも大変重視され、ベルリオーズは『ウィリアム・テル』に関し、注目に値する論考を残しました。この二人の作曲家にはある意味似通うところがあります。『ウィリアム・テル』の広大さの中に、ベルリオーズの『トロイアの人々』の広大さと共通する何かがあるように思われます。『ウィリアム・テル』はロッシーニが40才にも満たない頃に書かれ、最後のオペラとなりました。追究を推し進め、音楽創作においてこれ以上進めないと感じたロッシーニは、この作品を最後に突然作曲をやめたのでした。
また、音楽的に卓抜した作品であると同時に、現代に通じるテーマが見えるという点でもこの作品は重要です。他国の支配下におかれた国が描かれる点です。ここでは、中世時代のオーストリアが、暴力的な支配をスイスに課しています。そして民衆、特に農民の反乱が起き、人々は暴君を亡き者にします。こうした事柄は、残念なことに永遠に存在するものです。今回の上演では、時代を特定せず、権力問題や、暴力的で不公正な権力に対する反乱という、恒常的に存在する問題のある世界に取り込んで描き出したいと思います。私が作品創りで常に心がけている点でもあるのですが、歴史的・文化的な記憶が、現代の私たちの感性とないまぜになるようにしたい。そして、物語を尊重しつつも、時には裏切ることで、作品に忠実でありながら、こういうことが見えるようにできる、芸術的手段をみつけていければと思います。
指揮の大野和士さんとは既に何度もご一緒したこともあり、私にとって大変大切な音楽家です。またご一緒できるのを心から楽しみにしています。胸躍るようなところもありながら、時に夢想的なこの作品の二面性を、本当に感じさせてくれる音楽家だと思います。
そして前回『夜鳴きうぐいす/イオランタ』で、大変特別な形で協働して以来、私のとても大切なパートナーとなった新国立劇場のスタッフの皆さんと再会するのも楽しみです。作品創りを、現場ではなく、ビデオなどの手段を用いて遠隔で行ったのです。あの演出を通して、ある意味、私たちのつながりはより強固なものになったと思います。直接一緒に仕事をすることの渇望を実感し、それを超えて、最善の形で実現できました。
皆様とまたお会いできることを楽しみにしています。