「世の中は俺ら5人が仲が悪いと思ってる」国民的アイドルグループの"伝説の5人旅"を生んだリーダーのひとこと【2024上半期BEST5】
■5人が醸すのは「わちゃ」ではなく緊張感
時代は変わる。永遠はないことを歴史が証明している。
彼ら5人は依然、国民的アイドルであり国民的スターであることには違いなかったが、彼らの後輩の5人組のグループも着実に人気をつけて、日本に嵐を巻き起こしていた。
日本は東日本大震災から2年が過ぎ、時代は「和」を求めていた。
求められていたのは「安心」だった。
嵐を呼ぶ5人は、まさに時代に合っていた。その5人には常に「わちゃ」があった。
そして彼ら5人。
リーダー、タクヤ、ゴロウチャン、ツヨシ、シンゴはさらにソロの仕事も増えていた。国民的スターであることに間違いなかった。
メンバー自身がたまに自分たち5人をウルトラマンに例えることがあった。日頃は1人で戦っているけど時折集結するウルトラ兄弟のようだと。
彼ら5人が揃った時にあるのは「緊張感」だった。それはメンバーのほとんどが40代に入ることもあった。
■国民に愛される後輩アイドルグループ
彼ら5人が揃っている姿を毎週見ることが出来るのは、月曜22時の番組だけだった。
かたや嵐を呼ぶ5人は、彼ら5人とは逆だった。常に友達のように仲良く、そこに緊張感はない。レギュラー番組も5人で一緒にやるものを増やした。その5人の「わちゃ」感は国民に愛されていった。
彼ら5人も国民的スターであることに間違いなかったが、若い世代を中心に人気が出ていった嵐を呼ぶ5人も、世代を広げて国民的人気アイドルと呼ばれていた。
それぞれがソロでも圧倒的な存在感を示す緊張感のある国民的人気グループと、その「わちゃ」が愛される新たな国民的人気グループ。
彼ら5人がその後輩をどう思っていたかは分からないが、当然、かなり意識していただろう。
僕やスタッフは猛烈に意識していた。だからこそ常に彼ら5人がおもしろく新しく見えるための番組作りをしていた。
だが、僕たちはその後輩たち以上にもう一つ強烈に意識しなければならないものがあった。
裏番組だ。
■キラキラした裏番組と熾烈な競争を繰り広げる
月曜22時の同時間帯。汐留の局のその番組は7人の腕利きの芸人たちがしゃべりまくるもの。2008年にスタートしてから、徐々に話題を呼び、人気になり始めて、かなりのヒット番組に成長していた。
その7人の番組の視聴率はどんどん上がっていき、僕たちが作る5人の番組と熾烈(しれつ)な争いを繰り広げていた。
7人の番組の方が勢いがあるように見えた。若者世代はそっちを見ている空気感があった。
以前こっちの番組にゲストで出演していた俳優がその番組に出ると、悔しい思いがした。
キラキラして見えたからだ。
視聴率を下げないため、古く見えないため、僕たちは必死だった。マイケル・ジャクソン以降、ハリウッドの俳優・女優や海外アーティストのキャスティングにさらに力を入れた。
強いゲストを入れて視聴率を落とさないようにする。ゲストに頼り、ゲストに依存する作りになっていった。
彼ら5人のファンは、ゲストではなく、5人のトークや5人がおもしろく見えることを望んでいる。そのことは分かっていたが、僕は「ファンに愛されることはもちろんだけど、彼らに興味のない人ももっと振り向かせないと、視聴率が上がっていかない」と思いこんでいた。
■「5人だけで旅をする企画がしたいんだよな」
リーダーは、よくチーフプロデューサーの黒林さんに言っていた。「ゲストはもちろんありがたいんだけど、この番組は俺たち5人が毎週ゲストなんだよ」と。
言っていることは分かってるつもりだったが、それでも「ゲストに頼らないと勝てないんだよ」と思っていた。現実は甘くないんだと。
2013年。彼らがグループを結成してから25年が経った年だった。
ある時、楽屋でリーダーが黒林さんに言った。
「5人だけで旅をする企画がしたいんだよな」
本当に5人だけで旅をするような企画をスペシャルでやりたいと。
それを今の番組でやったらとてもおもしろいと思うと。
「世の中は俺ら5人が仲が悪いと思ってるんだよな。だからやりたいんだよ」
■世の中のイメージを利用した5人旅
嵐を呼ぶ5人と違って、カメラの前でわちゃわちゃするわけでもない。だから5人は仲が悪いと思われている。
だからこそ、リーダーはそれを「利用したい」と思ったのだろう。
だからこそ今、5人だけの「旅」を見せるべきだと思ったのだろう。
マネージャーはもちろん、スタッフすらいないように見える、5人だけの旅。
会議で黒林さんがリーダーの意見をみんなに伝えた。だけど僕を含めてスタッフは、黒林さんが言ったリーダーの提案に「すぐにやりましょう」とはならなかった。
強いゲストを入れなければ勝てないと思いこんでいた。今、5人だけで旅をやったとしても、それは求められてないんじゃないか。
嵐を呼ぶ5人の人気はさらに上がっていき、裏番組の勢いが増していく中で、5人だけの旅をやったとしても、「視聴率は取れないんじゃないか」。そう僕は思っていた。
■ゲストではなくメンバーを「信じる」
その日のあと、5人旅が議題に上がることはなくなった。
会議では「どんなおもしろいことをしようか?」ではなく「どのゲストを呼ぼうか?」ばかりに頭が行っていた。
リーダーが、タクヤがゴロウチャンが、ツヨシがシンゴがどうやったらおもしろく見えるか、輝いて見えるかではなく、どのゲストを呼んだら視聴率が取れるかばかり考えて焦る。
どんなに豪華な人がうちの番組に出ていたとしても、裏番組に出る人のほうが輝いているように見える。
完全に、ゲストに麻痺していた。
春の2時間スペシャルの中身を考えている時だった。またいつものようにスペシャルにふさわしいゲスト企画を考えていると、演出の野口が言った。
「前にリーダーが言っていた、5人の旅やりませんか?」
野口なりに信念を持って言った言葉なのが分かった。
「ゲストじゃなくて、5人を信じて作りませんか?」
野口がそこまで自分の思いを伝えることは珍しかった。演出として、自分で考えてそこに至ったのだろう。
■「ゲストの呪い」から解放された気がした
野口は思いを話し始めた。
人気の毒舌女性占い師が料理コーナーに来た時に、自身のキャラクターもあると思うが、メンバーの料理を食べて「おいしくない」と言ったことがあった。その時、リーダーはカメラが回っている前でそのことに怒った。普段だったら絶対に怒らない。自分のことではなく他のメンバーが作った料理を食べて「おいしくない」と否定された時にわざと怒った。
リーダーはやっぱり誰よりもメンバーのことを考えている人。そのリーダーがわざわざこの企画を「やりたい」と言ったのは、今、色々な状況で焦っている中で「5人で勝ちたい」と思ったからなのだろう、と。リーダーの、5人と番組を愛しているからこその、今やらなきゃいけない勝負なんだろう、と。
「それに応えなきゃいけないんじゃないかと思うんです。信じなきゃ」
野口の口から出た「信じる」という言葉が刺さった。僕は「信じる」ところにさえたどり着けてなかった。
彼ら5人が主役の番組であるのに、信じる作りをしていなかった。
野口の言葉は、ゲストに麻痺していた僕の脳を解放して、呪いを解いてくれた気がした。
「やってみよう」
ゲストではなく、彼ら5人がゲストに見える旅企画をやることになった。
彼らを信じて。
■料理コーナーで5人にサプライズ告知
リーダーの提案からしばらく経っていたので、野口は、5人には言わずに、この企画をいきなり始動させたいと考えた。ただ、収録日に突然「今から5人で旅に行きましょう」と言うのは無理がある。
事前の準備を考えると、5人旅の企画をやることだけは前もって伝えたい。だから野口は考えた。
ある日の料理コーナーの終わりで、いきなりナレーターから5人に告げた。
「グループ結成25周年おめでとうございます。それを記念して、5人にプレゼントがあります」
普段は絶対そんなことをしない番組。
シンゴは驚き。
「ちょっと止めてー」
と言い出すが、観覧席にいるファンは期待する。
そこでいよいよ告げられる。
「5人だけで旅をしてもらいます」
■客観的にグループを見てきた最年少
ファンは「まさにそれを待ってたんです」とばかりに絶叫する。
スタジオで発表すれば料理コーナーを見ている観覧客のファンが喜ぶし、NOは言えないはずだ。
野口のこの目論見は見事に当たった。
そしてリーダーは忘れた頃に告げられた企画に、きっと思ったはずだ。「きたか」と。
「日帰りですか? 泊まりですか?」
と確認すると、泊まりであることが告げられてまた5人は驚く。
「マジか⁉」
タクヤは吠えてる。ゴロウチャン、ツヨシもまだ理解が出来ていない。
そんな中でシンゴも驚いていたが、ニヤリとしていた。
シンゴはメンバーの中で一番年下でいながら、ずっと客観的にグループを見てきた人だ。
こんな大胆なことをスタッフの意見だけで言うはずがない。あるとしたら、絶対に「リーダーが言い出したはずだ」と思ったのだろう。なにより、番組の状況も理解している。だからこそ、5人で旅することに「えー⁉」とリアクションしながらも、成立する方に話を進めていく。
裏ですべてを理解し、進めていってくれるのがシンゴだった。
■リーダーと演出家の「阿吽の呼吸」
そのスタジオで、マネージャーもスタッフもいない旅なんだということを説明する。
結成して25年。番組が始まってから17年。
ファンの期待値もマックスに上がる。僕たちスタッフの、そしてなにより「そんなことすんの?」と文句を言ってる風だった5人のメンバーの期待値も上がっている気がした。
メンバーにいきなり5人旅の告知をしたこの日の収録終わり、演出の野口やプロデューサーの黒林さんやもう一人のプロデューサーの春田に「なんでこんなことするの?」と言ってきたメンバーが一人もいないことが「OK」の証拠だった。
リーダーが野口に「いよいよやるんだな」と言うこともなかった。確かに最初に言い出したのはリーダーではあったが、それを聞いてすぐに実行したわけではなく、あくまでも野口の思いで決行することだ。
阿吽の呼吸。
リーダーはそれを理解していたのだろう。
「あとは任せた」と。
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鈴木 おさむ(すずき・おさむ)
実業家、元放送作家
1972年、千葉県千倉町(現南房総市)生まれ。高校時代に放送作家を志し、19歳でデビュー。バラエティーを中心に数々の人気番組を構成。2002年には、森三中の大島美幸さんと結婚。「いい夫婦の日」パートナー・オブ・ザ・イヤー2009受賞。主な著書に、結婚生活を綴った『ブスの瞳に恋してる』(マガジンハウス)、『ハンサム★スーツ』(集英社)、『テレビのなみだ』(朝日新聞出版)、『最後のテレビ論』(文藝春秋)など。
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(実業家、元放送作家 鈴木 おさむ)