記事のポイント

コモン・インタレストは、文化的関連性を重視し、CMOにビジネスケースを提供。独自のメディアやコンテンツ創造のためのネットワークを構築している。同社はエンターテインメント分野への投資を強化し、オリジナルコンテンツを開発予定。ブランドの信頼性向上を目指している。さらに文化的関連性と感情に訴える創作型ビジネスを重視。ブランドの強みを生かし、従来の定量化を超えた戦略を採用している。
カルチャーの真正性が優先されるマーケティングの世界。このギャップを埋めることを目指しているのが、エージェンシーグループのコモン・インタレスト(Common Interest)だ。忘れてならないのは、映画『バービー』のマーケティングをはじめとするヒット群は、まれな例外だということだ。事実、中途半端にカルチャーに手を出すマーケティング戦略は多く、そこで何かが果たされることはまずない。厳しすぎる見方かもしれないが、どのバービーも、文化のツァイトガイスト(時代精神)を完全に見落としている失敗作ばかりだった。バド・ライト(Bud Light)、ペプシコ(PepsiCo)、バレンシアガ(Balenciaga)、バーガーキング(Burger King)、ペロトン(Peloton)など、優秀なマーケターを擁するこれら輝かしいブランドでさえ、近年はカルチャーを反映しようとする感覚の鈍い取り組みの一端を担っている。

CMOがビジネスケースを提供する

であるのなら、コモン・インタレストのピッチは、俄然、完璧な説得力を帯びてくる。もちろん、どのエージェンシーもそれを目指しているのは間違いない。コモン・インタレストの首脳陣がほかとの違いを打ち出そうとしているのは、それを実行しているという点にある。CMOたちは文化的に妥当なブランドの管理を望んでいるが、それを役員会で受け入れさせることに苦戦している。そのことを、コモン・インタレストの創業者でハバス(Havas)の元支社長であるアンソニー・フリードマン氏は熟知している。その結果、多くの場合、マーケティングは効率を重視した競争へと引きずり込まれてしまっている。しかし、必ずしもそうである必要はない。「我々がコモン・インタレストでやろうとしている重要なことのひとつは、CMOが文化的関連性の構築に基づく戦略を開発し、支援し、測定するために必要なビジネスケースを提供することだ」と、フリードマン氏は語る。これを実現するために、コモン・インタレストが力を注いでいるのが、カルチャーを理解するためのインサイトやペイドリーチのみに依存するのではなく、独自メディアを生むコンテンツをつくるためのツールを提供するビジネスネットワークの構築だ。これまでのところ、同社がそれを構成するのは以下の3つのビジネスだ。昨年買収したブランドコンサルタント兼マネジメントエキスパート集団のトゥエンティファーストセンチュリーブランド(TwentyFirstCenturyBrand)ことし4月に買収したクリエイティブスタジオのアザーウェイ(Otherway)今春に始動した文化的インテリジェンスプラットフォームのカルチャーラボ(CultureLab)

ブランデッドエンターテインメントに注目する

ここに、さらにいくつかのビジネスが年内に加わる可能性もあるという。そのなかのひとつはすでに視野に入ってきており、コモン・インタレストはもうひとつのクリエイティブカンパニーの年内ローンチを計画している。来年以降には、さらに3つのディールが行われる可能性もある。フリードマン氏はこう語る。「そのころには、7から8のビジネスが我々のグループに加わって、数百人のスタッフが英国と米国で働いているかもしれない。いま目を向けているディールもいくつかある」。その詳細については、当然のことながら、同氏の口から語られることはなかったが、それは単に警戒心がそうさせたからではない。同氏がコモン・インタレストに求めるビジネスのタイプを特定するのが難しいからでもある。それらはマーケティングサービスグループの典型的な標的ではない。そこにあるのは、お馴染みの顔ぶれではなく、ブランドやエンターテインメント、テクノロジー、最新メディアといった分野のビジネスだ。こうした企業数社との話し合いもすでに行われているという。フリードマン氏は、「マーケティングサービスのホールディングカンパニーを創ろうとしているわけではない」と語る。「そうではなく、ブランドとエンターテインメント、テクノロジー、最新メディアが融合するようなものをつくることが目的だ。そのためにも、これらの分野で我々が活動できるようにしてくれる企業が必要だ」。同氏が注目しているのは、今日のメディアにおいて興味深さと利益を生む可能性を増しているトレンドひとつ、つまり、ブランデッドエンターテインメントに関わる企業だ。ゆっくりとではあるが確実に、大手の広告主はエンターテインメント投資家になりつつあり、それがテレビ番組の合間であれ、ソーシャルメディア投稿の合間であれ、通常のコマーシャルの枠をこえて、消費者の前に自社ブランドを露出させている。「いずれはコモン・インタレストもエンターテインメント部門を持つことになると思っている。知的財産や独自のエンターテインメントのフォーマットを開発することが、我々の戦略のひとつだからだ」と、フリードマン氏は語る。こうすることで、コモン・インタレストは信頼性を高め、彼らには独自のエンターテインメントを生み出す能力があるとCMOに確信を抱かせている。

エンターテインメントを利用する

これに役立ってくれると同グループが考えているビジネスが2つある。ひとつは、彼らが投資を検討しているあるスタートアップ。もうひとつは、買収を検討しているあるビジネスだ。フリードマン氏は名前を挙げるのを避けたが、どちらも広告とエンターテインメントの両分野にまたがる企業だという。「これらの企業の中心にあるのは、楽しませるために存在するオリジナルコンテンツをつくりたいという野心や、さまざまなアイデアを持っている人々だ」とフリードマン氏は言う。「我々には、その野心を実現し、そのアイデアに適したオーディエンスを見つけるのに役立つ強力なネットワークがある。また、我々がエンターテインメント業界の一端を担っていれば、ブランドが大衆文化のなかで活動するのを助けることもできる。その信頼性も大いに高まっている」。広い意味で、コモン・インタレストの信頼性は申し分ないようだ。事実、一部のクライアントとは、単体ではなくグループ全体のビジネスとの提携についての話し合いも、すでに行われている。これは、昨年9月の設立以来、コモン・インタレストがここまで来たことの証拠にほかならない。

機能実行型ビジネスというよりも創作型ビジネス

かつてディアジオ(Diageo)でカルチャーおよびエンターテインメント部門の責任者を務め、現在は自身のエージェンシー、プラットフォーム13(Platform13)を運営するレイラ・ファター氏は、「注意すべきは、文化的関連性はエンターテインメントや広告に登場する著名人を超えたところにあるという点だ」と話す。「我々はいま、大転換の世界にいる。消費者の注目を集める争いは熾烈を極めている。メディア(デジタルとバーチャル)を取り巻く状況は細分化し、Web3による直感的行動が新たな商業モデルを動かし、AIがメインストリームに躍り出ている。そんななかにあっては、もはや従来のファネルは目的にかなっていない」。明らかなのは、コモン・インタレストは定量化に対するマーケティングの執着に逆行するポジションを取りつつあるということだ。とはいえ、コモン・インタレストの首脳陣がこうした考えを完全にはねつけているわけではない。たとえば、特定のアイデアを増幅させてリーチを高めるには、有料パフォーマンスが重要であると彼らは認識している。しかし、彼らがこうした指標に動かされることはない。その大部分がテクノロジープラットフォーム自身によって管理され、ますます商品化されるようになっているここ最近はとくにそうだ。これだけのことがあっても存在し得る強いアイデアを思いつけるかどうかは、マーケター次第とも言える。「コモン・インタレストは、機能実行型ビジネスというよりも創作型ビジネスだ」と、フリードマン氏は語る。

ブランドが作リ出す強みとは

これがすべてのマーケターに当てはまるわけではないことは、フリードマン氏にも分かっている。むしろ多くの点で、これはニッチな駆け引きなのだ。同氏は、「こうした考え方をしないCMOを説き伏せて、コモン・インタレストに予算を使わそうとするようなマネはしない。それが我々の戦略だ」と語る。「競争において、文化的関連性は強みになる。この結論にすでに達しているCMOに対し、これまでにない新しい選択肢を生み出すために我々はここにいる」。それはつまり、そのキャリアのなかでこの地点に到達し、強いブランドを築くことの重要性を認識しているマーケターのことだ。多くにとって、コロナ禍はモヤが晴れた瞬間だった。ブランド広告は、過去2年のインフレ期を企業がかいくぐるのを可能にする鍵でもあった。各社のCEOが収支報告で繰り返し触れたのは、「ブランドの強みがあったからこそ、インフレコストを消費者に転嫁できた」ということ。有料広告でもなく、プログラマティックでもなく、ブランドの強みのおかげだと言うのだ。このトピックに関する著書『カルチャー・レッド・ブランズ(Culture Led Brands)』を執筆したファター氏は、「難しい仕事だ」と語る。「それが感情に訴えるものであれば、リーチと妥当性をどちらも高め、宣伝と奥深さを促進し、ブランドを押し付けるのではなく、ブランドに引き寄せることで消費者は何かを感じ取ってくれる」。[原文:Agency group Common Interest is on an acquisition drive]Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)