2030年プレ・シンギュラリティで「社会に重大変化」進化を続けるAIサービス…コンピューターは人間を超えるのか

写真拡大 (全2枚)

 近い将来、AIの普及によって社会のあり方にさまざまな影響が出ることが予想されている。国内市場でも、2023年時点で7,000億円もの規模になっており、今後も追加投資や企業買収、市場への製品の連続的な投入により、一層活性化することは間違いない。今後、どこまでAIは進化していくのか。AIを巡る現状と未来の展望を解説する――。

進化を続けるAI市場。ChatGPTは世界に何をもたらしたか

 2023年から本格的に加速度を増したAIブームは、瞬く間に市場を席巻した。

 とりわけ、「ChatGPT」の成功は生成AIの可能性を広く社会に認知させ、その普及を促進したといえる。ChatGPTは自然言語処理(NLP)の進歩を示す一方で、新たなビジネスモデルやサービスの創出を可能にした。それにより、カスタマーサポート、コンテンツ生成、教育、エンターテイメントなど、様々な分野で企業や個人が生成AIを活用する機会が増え、市場全体の成長を後押ししている。

 世界のAI市場の需要は、2023年度で106億ドル以上、2030年までには2,110億ドルと約20倍に急速に成長するとの予測がある。日本国内でも、2023年には生成AIの商用化が本格的に進み、国内市場規模は前年比34.5%増の6,858億円超(IDC Japan調べ)と右肩上がりの成長を続ける。

 一方では、セキュリティやデータ利用の課題も増えてきており、これらの問題に対する対策も重要となりつつある。いずれにせよ、今や国内外の全ての投資領域において、AIの成長は無視できない要素となっているのは間違いない。

ChatGPTを猛追するGemini。生成AIの進歩と課題とは

 生成AIの代表格として知られるChatGPTは、2022年11月の公開以降、急速にユーザー数を増やし、それに付随して新たなサービスも誕生。最新版の「GPT-4」はアメリカの司法試験に合格できるレベルに達しているとの報告もある。倫理面においてもチューニングが施され、犯罪への利用が疑われる質問や、反モラル的な質問には答えないという「進歩」も見られる。さらに、OpenAI社がChatGPTのAPIを公開したことで、様々な企業が「マイChatGPT」を構築し始めている。

 AI市場を牽引するのはOpenAI社だけではない。Googleが2023年12月に発表したマルチモーダル生成AIモデルである「Gemini」は、GPT-4のライバルと言われ、現に数学、物理学、法律、医学など主要な性能指標の多くでGPT-4を上回っている。マルチモーダルとは、テキスト、画像、音声、動画、プログラミングコードなど、様々な種類の情報をAIがシームレスに理解し、人と同じようにそれらを操れる性質を指す。WebサービスにおけるGoogleのドミナンスを鑑みれば、ChatGPTに代わってGeminiが市場の覇権を握る日は近いかもしれない。

 このように、「一年一昔」と言える進化を続ける生成AIだが、ハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成する問題)のリスクは未だ完全に解決されたとはいえない。GPT-4、Geminiのいずれにおいても、WW2の年号を間違えたり、物理学の功績を達成した人物の名前を間違えたりするなど、単純な事実誤認は依然として起こっている。特に医療などの分野では致命的な問題を引き起こしうるため、AI利用の推進にあたっては、ハルシネーションへの対策が喫緊の課題といえるだろう。

すでに生活やビジネスを変えつつあるAIサービス

 AIは驚異的な速度で我々の日常生活にも浸透してきている。自動運転車やお掃除ロボット、音声アシスタントといったお馴染みの例に加えて、最近では冷蔵庫や洗濯機といった日常家電にもAIが導入され、冷蔵庫内の食材の種類や量を自動で認識し、補充が必要な食材をスマートフォンのアプリで通知したり、洗濯物の汚れ具合や衣類の素材を自動で感知して、最適な洗浄プログラムを選択するといった技術革新がなされている。今後数年で、人々の生活は全て「AI漬け」になると言っても過言ではないだろう。

 ビジネスの現場においても、以下のような新しいAIサービスが注目を集めている。

【AI検索エンジン】

・Genspark:高度なデータ分析機能を持ち、ビジネスインテリジェンスの分野で力を発揮。

・Perplexity Pro:予測分析に強みを持ち、マーケティングや在庫管理などの分野で効果を発揮。

【AIチャットボット】

・Coze:カスタマーサービスに特化したAIチャットボット作成ツールとして、多くの企業で導入。

・Poe:複数のAIチャットボットを同時に利用できる多機能プラットフォームとして、様々なビジネスシーンで活用できる柔軟性を持ち、特に中小企業にとってはコスト効果の高いソリューションとなっている。

 また、時代に即したAIツールとして、インフルエンサーマーケティングに特化した「HYPE CAST AI」というサービスも登場している。これは、独自のゼロパーティデータに基づき、商品・サービスに合ったタレント・インフルエンサーのキャスト選定を行い、精度の高いマッチングを実現するものだ。人の目と手でインフルエンサーの情報を集め、自社に合ったキャストを選出しアサインするといった工程と比べて、時間とコストを大幅に削減することが可能となっており、AIの強みを最大限に活かしたサービスといえる。

 このHYPE CAST AIのマッチング性能は、同サービスを提供する1SEC社が2019年から運営しているファンプラットフォーム「PEEEPS」の収集データあってのものでもある。以前から自社が持ち得ていた長所を活かし、最新のAI技術と掛け合わせることで新時代のソリューションを創出するのは、理想的なAIビジネスの形といえるだろう。

2045年に「人工知能が人類に代わって文明の主役になる」

 シンギュラリティ、つまり「AIが人間の知能を超える転換点」については様々な予測があるが、最も有名なのは「2045年問題」と呼ばれるものだろう。これはレイ・カーツワイル博士が提唱した未来予測であり、ムーアの法則(半導体のトランジスタ集積率は18ヶ月で2倍になる)と収穫加速の法則(新技術が次の進歩までの期間を短縮させるため、技術革新は指数関数的に進行する)に基づいて、「2029年にAIが人間並みの知能を備え、2045年にシンギュラリティが訪れる」とのことだ。

 シンギュラリティが訪れた場合、人々の仕事や職業選択に大きな影響が出ると予想されている。工場のライン作業や、事務、経理などの比較的単純な作業は、AIとそれに操作されるロボットに取って代わられる可能性が高いと言われる。一方で、クリエイティブな仕事や、人間らしいコミュニケーションが求められる分野では、人間が引き続き活躍するという見方もある。

いち早く訪れる「プレ・シンギュラリティ」で社会は変わる?

 AIによる小説、イラスト、音楽などの生成技術も日々進歩を遂げているが、結局のところ、それを作品として仕上げるには人間のクリエイターの関与が不可欠だろうという意見だ。現にこの文章で何気なく書いた「一年一昔」や「AI漬け」といった表現は、現行の文章生成AIからはなかなか出てこない言い回しだろう。

 本当にシンギュラリティが訪れるかどうか、またその時期については、世界の研究者の間でもまだ確定的な結論は出ていない。スタンフォード大学のジェリー・カプラン教授をはじめ、AIは人間とは異なるためシンギュラリティは訪れないと主張する研究者も少なくない。一方で、スーパーコンピュータの開発者として知られる齊藤元章氏は、2045年のシンギュラリティに先立ち、「プレ・シンギュラリティ」と呼ぶべき社会変動が2030年頃に起こるだろうとの見解を示している。それによれば、スーパーコンピュータの性能向上により、エネルギーや衣食住の問題の解決、貨幣や労働の不要化など、社会の仕組みに重大な変化がもたらされるという。そうなった時、人類の経済活動はどこへ向かうのか、注視したいテーマだ。

AIと人間が真に共存しうる社会とは

 AI技術の発展により、良かれ悪しかれ、人間の存在意義について新たな視点で考える必要が生じてきた。AIが単純作業やデータ分析などを担当することで、人間はより創造的で高度な思考を必要とするタスクに集中できるようになるかもしれない。また、創造性や共感性、倫理的判断など、AIがまだ模倣できない能力により一層の焦点が当てられることも想像できる。

 AIは人間の思考を模倣した存在ではあるが、AIと人間には多くの違いがある。AIが大量のデータからパターンを学習し、その結果を基に予測を行うのに対して、我々人間は過去の経験だけでなく、直感や感情、倫理的な判断も含めて決定を下す。

 また、AIは与えられたデータやルールに基づいて結果を生成することには長けているが、新しいアイデアを生み出す創造性や、存在しない事象を想像する能力は限定的である。これに対して、人間は新しいアイデアを生み出し、未知の事象を想像する能力を持っている。こうした、それぞれに異なる強みを活かし、人間とAIが共存する社会を築くことが重要となっていくだろう。