JIMOTO Made+新作は、萩焼。職人が土と釉薬で表現する優しい手仕事の風合いを伝えたい
【写真】左が真新しいカップ、右は茶慣れで滋味深い色合いに変化したもの
東京・中目黒にあるスターバックス リザーブ(R) ロースタリー 東京(以下、ロースタリー 東京)とスターバックス オンラインストアが展開する「JIMOTO Made+」に、2024年5月10日、新作「JIMOTO Made+ 萩マグ薄藍355ミリリットル」「JIMOTO Made+ 萩マグ薄桜355ミリリットル」(各6050円)が登場した。
■御用窯として始まり、400年の歴史を紡ぐ萩焼
山口県北部、日本海に面した萩市は、城下町として発展し、幕末には多くの志士たちを排出した土地だ。往時の区画や武家屋敷が今も残る風情ある町並みで、冬には、あちこちの白壁から夏ミカンが顔を出す。
萩市一帯で作られている萩焼の歴史は、江戸時代初期・慶長年間に毛利氏が李朝から招いた職人が開窯し、藩の御用窯として高麗茶碗の茶陶を制作したことに始まる。釉薬と土の収縮率の差によって生まれる「貫入(かんにゅう)」というひび割れがあり、使い込むうちに茶渋などが浸透して趣が変わり「茶慣れ」「萩の七化け」といって珍重されてきた。以来、400年以上育まれ、今では国が指定する伝統的工芸品のひとつだ。
萩焼は絵付けなどの装飾はほとんど行われず、土と釉薬の組み合わせや、焼成方法の違いによって発色する素朴な表情が魅力。萩焼に使う粘土は、耐火度が高く、焼き締まらない特徴がある。そのため高温・短時間で焼かれ、ほかの陶器に比べ軽くて吸水性が高く、土の風合いの残る柔らかな感触が手に伝わってくる。
今回訪ねた萩陶苑の創業は約50年前。伝統技術に機械工程を組み合わせた自社一貫生産ラインを構築している。
「創業時は萩焼にとって、とてもいい時代だった」とは、営業企画課の池田めぐみさん。当時は萩市が観光地として注目を集め土産として需要が高く、100ほどの窯元があったという。しかし、現在はその半分ほどに減少。萩焼を未来へつなぎたいという想いは強く、萩陶苑では新しい感性を織り交ぜた美しく使いやすい萩焼の器を作っている。
「窯元の多くは個人作家で、機械工程を組み合わせているのは私どもを含め2社のみになっています。私たち地元の人にとっては当たり前の萩焼も、ほかの地域での知名度は高くありません。萩焼では白萩と呼ばれる釉薬の白や、姫萩と呼ばれる土の色を生かした淡いピンク色が有名ですが、萩焼を知ってもらうために、新しい色への模索を続けています」
■萩焼との出合いを生む2色のマグ
そうした萩陶苑の挑戦のひとつとして生まれたのが、今回の「JIMOTO Made+ 萩マグ薄藍355ミリリットル」と「JIMOTO Made+ 萩マグ薄桜355ミリリットル」だ。コーヒーのアロマを感じられるよう丸みのあるコロンとした形状は、まるでコーヒー豆のようで愛らしい。裏側のマグを支える高台には、萩焼の特徴である「切高台(きりこうだい)」が施されている。高台の一部を切り取ったもので、一説には、萩焼の始まりが御用窯だったためお殿様が使用するものと区別するために刀傷を入れたといわれているそう。
「JIMOTO Made+ 萩マグ薄藍355ml」は、ロースタリー東京の夜のテラスや店の前を流れる目黒川をイメージ。釉薬で表現されたブルーからパープルのグラデーションが美しい。「JIMOTO Made+ 萩マグ薄桜355ml」は目黒川の桜並木をイメージ。化粧掛けという技法で生まれたこの淡いピンクは、萩焼らしさの象徴でもある。
この美しい色合いがどう生まれるのか、詳しく紹介しよう。
■土と釉薬、温度で表情を変える萩焼
萩焼の色合いを生む大きな要素のひとつは、土だ。同じ釉薬を施しても使う粘土により焼成後の発色が異なるので、絵付けのない萩焼にとって土は色合いに大きく作用する。
主に使われるのは、基本となる灰白色の大道土、鉄分を多く含み色彩を豊かにする茶褐色の見島土、大道土の粘度を抑える黄色い金峰土の3種類。JIMOTO Made+の商品に主に使われているのは大道土と見島土で、ブレンドの割合を変えて色のベースを調整。萩マグ薄桜は大道土を多めにすることで白味の強い土に。萩マグ薄藍は見島土を多めにして砂を入れることで青味のある土にしている。
そしてもうひとつは釉薬。萩陶苑はこれまでの萩焼にはないブルーやグリーンなどの萩焼を生み出している。工房の一画には、色のレシピが貼られた釉薬の樽がズラリと並び、“萩焼の未来のために新しい色を”という想いがあふれている。萩マグ薄藍は、これらの中のひとつのレシピで作られた釉薬を内側と口元に施し、全体にガラス質の透明の釉薬をかけ、焼成時に溶け合うことでグラデーションを生み出している。
萩マグ薄桜に用いられるのは、化粧掛けという技法。釉薬ではなく、化粧土と呼ばれる液状の土を薄くかけて、色を表現する。マグの底を持って2/3ほど化粧土に浸し、ノズルの先から空気が出る「エアー」と呼ばれる機械を周囲にぐるりと当ててそれを飛ばす。飛ばすことで濃淡ができ、それがグラデーションになる。
化粧土を飛ばしたらマグをそのまま垂直に1〜2回振り、マグの下から上に水の王冠のような模様が生まれる。素地の1/3にはあえて何も施さず、萩焼本来の土が持つ優しい風合いを楽しむことができる。
ここに至るまでに作られたサンプルの一部を見せてもらうと、試行錯誤があったことがうかがえる。番号が振られたマグと、その番号を振ったリストには土の配合、化粧掛けの有り無し、釉薬のレシピやかけ方、焼成温度、その結果などが細かくメモされている。
粘土は焼くと収縮するが、使用する土やその配合によって収縮率が変わる。
「同じ型で成形しても、土が異なれば焼き上がりのサイズが変わってしまいます。萩焼薄桜の萩焼らしい色を出しつつ、萩焼薄藍と同じ焼き上がりのサイズになる土の配合を探っていきました」
■一つひとつ個性のある萩焼が誰かのたったひとつになる
マグが完成するまでの大まかな工程は、土をブレンドして粘土を作り、成形・乾燥して素焼き。施釉をしたら本焼きをし、検品、水止めを経て完成となる。
石膏を使った型抜きの成形や素地の乾燥には一部機械を用いるが、施釉やマグの柄付けなど多くの工程は、すべて職人の手作業だ。工房では大きく成形と施釉の2つの部門に分かれ、分業で作業に当たる職人たちが、一つひとつの工程で商品と真摯に向き合う。
「職人たちは1日に何百個もの商品を手にしますが、お客様が手にするのはそのうちのひとつだけ。だから一つひとつの商品を、心を込めて作らなければいけないという想いで向き合っています」と、池田さんがその想いを代弁する。
焼成後の色の出方は、温度も影響する。窯の中の置き位置によって当たる温度が変わるので、焼き上げるまでどのように色が出るかは分からない。
「朝、窯を開ける時は、いつもワクワクしています」とは、施釉を担当する坂本さん。
「施釉をした器は、見た目はすべて真っ白。例えば釉薬を間違えていたとしても、施釉をした2日後にしか間違ったことに気付けません。思い通りの色になっているかは窯を開くまでわからないので、今回は勝負に勝ったかな、負けたかなって(笑)。勤務のない日でも、気になって窯を見に来てしまうんです」と、一つひとつに責任と愛情をもっていることが伝わってくる。
「古きよきものも大切にしつつ、萩焼の新しい色にもこたえていきたいです」と坂本さん。池田さんも「今回の商品で新しい色のブルー、萩焼らしい色のピンク、この2色を表現できて、本当に良かった」と語る。
「この商品をきっかけにもっと伝統的な萩焼らしい商品や、個人作家さんの商品など、いろいろな萩焼を知っていただき、地元が盛り上がっていったらうれしいです」と、JIMOTO Made+から広がる萩焼の未来を願っていた。
工房見学で萩焼の魅力を体感したパートナーの2人。ロースタリー東京の物販部門・リテイル&スクープバーに所属し、店舗でほかのパートナーやお客とこの感動を共有するのが楽しみなのだと言う。
「商品を入れる木箱の文字“HAGI”が夏ミカン色だということにも感動しました。夏ミカンは明治期に生活に困窮した士族を救うために栽培が奨励されたそうです。萩焼の魅力と共に、そうしたストーリーもお客様に伝えたいですね」と熱く語っていた。
萩焼のこれまでの歴史を感じる萩マグ薄桜と、これから先の未来を期待させる萩マグ薄藍。コーヒーを飲みながら、時々この色に、この色を生む土地に思いを馳せる。そんな時間を楽しんでみよう。