「アンチヒーロー」主演の長谷川博己

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 民放のプライム帯(午後7〜同11時)の春ドラマ16本が出揃った。序盤の視聴率はどうなっているかというと、放送前から話題になりながら早くも失速気味の作品がある一方、さっぱり話題になっていなかったものの、上々の人気を得ている作品もある。個人全体視聴率とコア視聴率(13〜49歳に絞った個人視聴率)を見てみたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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要素が詰め込まれ過ぎている「9ボーダー」

 早くも失速気味の作品は、川口春奈(29)が主演するTBS「9ボーダー」(金曜午後10時)。4月19日放送の第1回の視聴率は個人3.6(全体の6位)、コア2.2%(同4位)と上々だったが、同26日放送の第2回は個人2.7%(同13位)、コア1.3%(同14位)に急落した。

「アンチヒーロー」主演の長谷川博己

 ご覧になっている方には、理由は説明不要のはず。木南晴夏(38)と川口、畑芽育(22)が演じる、10歳ずつ年齢が違う3姉妹の物語を描くだけでも時間が足りないぐらいなのに、松下洸平(37)演じる記憶喪失の青年のエピソードが加わっている。

 しかも、青年は何か事件に巻き込まれているらしい。この作品は一体、何を描こうとしているのか? 現時点ではさまざまな要素が詰め込まれ過ぎているため、3姉妹の心象風景の描写が足りていない。川口が演じる会社員は管理職になじめず、第2回で退職を申し出たが、まるで発作的に辞めたように見えてしまった。

支持層の期待を裏切っていない「Believe」

 以下、4月第4週(4月22日〜28日、ビデオリサーチ調べ、関東地区)の視聴率である。個人全体勝率の高い順から並べ、コア視聴率と順位も記したい。

 なお、現在は高齢者世帯が全体の約半分を占めるため、世帯視聴率は高齢者がおのずと高くなる。このため、2020年4月からテレビ界もスポンサーも世帯を使っていない。その分、個人には全世代の支持度が反映されている。

1:テレビ朝日「Believe-君にかける橋-」(木曜午後9時、同25日放送の第1回)個人6.8%。コアは2.8%で3位

2:TBS「日曜劇場 アンチヒーロー」(日曜午後9時、同28日放送の第3回)個人6.5%、コアは3.6%で1位

3:テレビ朝日「特捜9 season7」(水曜午後9時、同24日放送の第4回)個人5.1%、コアは1.4%で13位

 木村拓哉(51)は50代以上の女性から圧倒的な支持を受けている。しかも、今回の役柄は戦う正義の人で、天海祐希(56)が演じる妻を深く愛しているという設定だから、支持層の期待を裏切っていない。高視聴率はうなずける。

 ベテランのヒットメーカー・井上由美子氏の脚本は、視聴者の楽しませ方を心得ている。囚人となった木村の奮闘などを見せることによって、コア層も惹き付けた。

 あえて難点を挙げると、木村の役は昭和期なら故・根津甚八さんや故・萩原健一さんら渋みのある俳優が演じたはず。木村も役作りによって、一定の渋みを出したほうが良かったのではないか。

「アンチヒーロー」は、長谷川博己(47)が演じる主人公で検事出身の弁護士が、有罪の人間を次々と無罪にしてしまう。だが、やがては全部引っ繰り返し、検察の無能と横暴を立証するのではないか。そして無実の囚人であろう緒形直人(57)が検察によって有罪にされたことを証明する。中盤の展開が注目される。

「特捜9」のような定番の刑事ドラマは中高年には好まれるが、コア層には敬遠されがちだ。

日本では新しい設定の「ブルーモーメント」

4:フジテレビ「ブルーモーメント」(水曜午後10時、同24日放送の第1回)個人4.8%。コアは2.9%で2位

5:日本テレビ「花咲舞が黙ってない」(土曜午後9時、同27日放送の第3回)個人4.1%、コアは1.7%で10位

6:テレビ朝日「Destiny」(火曜午後9時、同23日放送の第3回)個人3.8%、コアは1.9%で7位

7:フジテレビ「366日」(月曜午後9時、同22日放送の第3回)個人3.5%、コアは2.3%で4位

8:テレビ東京「ダブルチート 偽りの警官」(金曜午後9時、同26日放送の第1回)、個人3.3%、コアは0.9%で15位

「ブルーモーメント」は人気者・山下智久(39)の5年ぶりの民放主演作。気象災害に立ち向かうSDM(特別災害対策本部)という設定も日本では新しく、期待作だが、不自然と思えるセリフがたびたび登場するのが気になる。演技派・夏帆(32)の果たす役割に注目。

花咲舞が黙ってない」は爽快な勧善懲悪ものに仕上がっているが、やや難解な金融用語が登場し、大人社会の醜さを描いているからか、若い世代の支持が高くない。コアの獲得が最優先課題の日テレには物足りないのではないか。

 石原さとみ(37)主演の「Destiny」はストーリーも俳優たちの演技も安定の一語。ただし、30代以上の出演者ばかりだから、若い世代の視聴率は上がらないのはうなずける。

 広瀬アリス(29)主演の「366日」は、最近の月9にしては珍しく猛批判を浴びていない。青春末期の若者たちの純情が、ラブストーリー否定派の胸も打つのか。設定も新鮮。

「ダブルチート」の放送枠はこれまで大苦戦していたものの、この作品の視聴率はいい。ドラマづくりで定評のあるWOWOWとの共同制作が生きた。向井理(42)が演じる中村主水のような二面性のある警官も愉快。ただし、若い世代には人気薄。

「くるり」第2回以降はストーリーが平板に

9:フジテレビ「イップス」(金曜午後9時、同26日放送の第3回)個人3.1%、コアは2.1%で5位

9:フジ系(制作.関西テレビ)「アンメット−ある脳外科医の日記−」(月曜午後10時、同22日放送の第2回)個人3.1%、コアは1.8%で8位

11:日本テレビ「街並み照らすヤツら」(土曜午後10時、同27日放送の第1回)個人3.0%、コアは1.8%で8位

12:TBS「くるり〜誰が私と恋をした?」(火曜午後10時、同23日放送の第3回)個人2.9%、コアは1.7%で10位

13:「9ボーダー」(金曜午後10時、同26日放送の第2回)個人2.7%、コアは1.3%で14位

「イップス」は篠原涼子(50)が演じる作家とバカリズム(48)扮する刑事が殺人事件のトリックを暴く。惜しいのは犯人の動機の弱さ。「そんなことで人を殺す?」である。

「アンメット」は主演・杉咲花(26)の演技が相変わらず出色。ストーリーもよく練られている。森本慎太郎(26)主演の「街並み照らすヤツら」はシャッター商店街の悲哀に事件が絡む異色のストーリー。今後の展開次第では人気が出るかも知れない。

「くるり」は生見愛瑠(22)が演じる主人公が記憶喪失に。第1回では職場内のくだらない不文律も忘れたため、派遣社員を差別することに怒りの声を上げた。痛快だった。しかし、第2回以降はストーリーが平板になってしまった嫌いがあり、テンポも遅く感じる。

ドロドロ昼ドラマ臭を漂わせる「Re:リベンジ」

14:フジテレビ「Re:リベンジ−欲望の果てに−」(木曜午後10時、同25日放送の第3回)個人2.4%、コアは1.5%で12位

15:テレ朝系(制作.ABC)「ミス・ターゲット」(日曜午後10時、同28日放送の第2回)個人2.0%、コアは0.8%で第16位

16:日本テレビ「ACMA:GAME アクマゲーム」(日曜午後10時30分、同28日放送の第4回)個人1.9%、コアは2.0%で6位

「Re:リベンジ」は赤楚衛二(30)が主演し、錦戸亮(39)が助演する大病院を舞台とした権力闘争劇、復讐劇。定石通りにつくられており、このジャンルが好きな人には堪えられないだろうが、ダークな作品が苦手な人は敬遠するはず。かつてのドロドロ昼ドラマ臭を漂わせている。

「ミス・ターゲット」は松本まりか(39)が演じる元結婚詐欺師が婚活に励む物語。こちらは古き良き2時間ドラマシリーズの空気を感じさせる。大苦戦が続いている放送枠である。

「ACMA:GAME アクマゲーム」は最初からコア層に狙いを絞り切った作品。日テレとしては個人の数字は全く気にしないだろうが、コアの数字はもっと上げたいはずだ。

 視聴者は鋭い。言うまでもない。見応えのある作品の視聴率は自然と上がるが、そうでなはい作品の数字は決して上がらない。動画配信サービスで国内外の作品を観る人が増える一方だから、ますます眼力が上がっている。簡単に高視聴率が得られる時代ではない。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部