今季も活躍が期待される大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手(写真:共同)

アナウンサーが「野球の打率を読めなかった」と話題になり、SNS上では野球ファンを中心に非難の声が出ている。

筆者はネットメディア編集者として多くの炎上事案をウォッチし、「情報の届けかた」と「受け取りかた」について、ずっと考えてきた。その中で感じるのは、「誰が言うか」は想像以上に大きいということだ。

「打率サン、ゼロ…」

話題となっているのは、2024年4月7日放送の「サンデージャポン」(TBS系)。アシスタントである同局の良原安美アナウンサーが、大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の成績を伝える際に、そのハプニングは起きた。

画面には大谷選手の紹介スライドが表示され、「4打数 2安打 打率.304 3試合連続マルチヒット」と書かれていた。それを「打率サン、ゼロ……レイテンサンゼロヨン……」と、たどたどしく読み上げる姿に、野球好きで知られる「爆笑問題」田中裕二さんが助け舟を出すも、良原アナは「3割4分」と続け、田中さんは「3割4厘ね」、相方の太田光さんは「何を言ってんのよ!」。あまりの状況に「ごめんなさい、ボロボロです……」と反省の弁を述べた。

このやりとりを受けて、スタジオでは笑いが起きていたが、SNS上では「事前に読み合わせないのか」「責任感がない」「勉強が足りない」といった批判が相次いだ。

良原アナは2018年入社で、現在7年目。現在は「Nスタ」などに出演しているが、過去にはストレートニュースを担当したこともある。そろそろ後輩も増えてきた年代とあって、「一般常識の範疇だろう」「プロ意識がたりないのではないか」との論調は多く見られた。

今回のハプニングを考えるうえで、「どの場面でミスったのか」も判断材料になる。この言い間違えが起きたのが、もしスポーツ中継だったら、擁護はできないだろう。時事ネタを扱いながらも、エンタメ仕立てに昇華している「サンジャポ」だからこそ、幸いにも、大きな炎上にはならなかった。

一方で、絶対にしてはならないシチュエーションもある。今回の打率騒動を受けて、2020年にCS放送でのプロ野球中継で行われた発言を思い出したという声も、多々見られている。

この試合では、実況担当のフジテレビアナウンサーが「ダブルアウト」と発して、解説者から「ダブルプレー」と言い直されるやりとりがあった。他にも、防御率「4.91」に対して、アナウンサーが「防御率4割9分1厘です」と発言するという、打率と混同したと思われる発言も生じた。

この様子はネット掲示板などで話題になり、SNSで拡散して、いまや「ダブルアウト」は、ある種のネットスラングになっている。野球に詳しくない筆者からしてみると、「えっ、ダブルでアウトしてるんだから、間違ってないんじゃないの?」と感じてしまうのだが、それは私がスポーツ論評を仕事にしていないから、成り立つことであろう。実況を務めるアナウンサーが不勉強だと、視聴者の気持ちも興ざめしてしまうものだ。

実況で不勉強が露呈するのと、バラエティ番組の進行で不勉強が露呈するのは、重みはまったく異なるものだろう。サンデージャポンは「ジャーナリズム・バラエティ」を銘打っており、時事ネタを扱っていながらも、あくまで軸足はエンタメに置かれている。

報道番組であれば「情報を正確に伝えること」が最重要となり、少しでも「ノイズ」になりかねない要素が加われば、批判の的になる。しかし、長年の視聴者からしてみると、サンジャポにおけるアナウンサーの役割は、「脱線しがちな爆笑問題をコントロールする」ことに重きが置かれているように感じる。事実として、爆笑問題の2人は「MC」、良原アナは「進行」としてクレジットされている。

また、サンジャポの数時間後に生放送された「爆笑問題の日曜サンデー」(TBSラジオ)では、田中さんがスタッフと「野球を知っている人間は『読めないかもしれない』と想像すらできない」と話したといい、2年先輩の山本恵里伽アナも「スポーツと関わりがあまりない場合も多い。私も同じようなミスを何度もしたことがある」と明かしていた。

「情報を伝える職業」で大事なことは?

ただ、「スポーツと関わりがあまりない場合も多い」というアナウンサー目線の意見は、視聴者に通じにくい現実もある。とくにネットでは、「何を言うか」以上に、「誰が言うか」が評価軸にされやすい。

加えて、「マスゴミ」というスラングに象徴されるように、ネットユーザーによるマスメディアへの不信感は根強く、その社員、とくに「看板」と言えるアナウンサーへの風当たりは、思いのほか強い現状がある。

アナウンサーは、世間一般に「知性がある」と認識されている。とくにキー局のアナウンサーは、一流大学の出身者が多く、狭き門である入社試験を突破して、採用される場合がほとんど。だからこそ、社会常識が求められる。実際、「読めなかったこと」以上に、ネット上では「事前に準備をしていたのか?」を問う声が多く確認できる。

昨今、テレビでは大谷選手の話題でもちきりだ。結婚や、愛犬のデコピン、元通訳・水原一平さんの騒動など、話題に事欠かない。まさに「一挙手一投足」まで報じられているわけだが、とはいえ一番取り上げられるのは、試合での活躍だろう。

アナウンサーは、情報を伝える職業だ。とくに「大谷選手の打率」は、もはやスポーツニュースを超えた話題となっている。そういう意味では、いくらバラエティ番組を担当することが多かったとしても、「時事」としての知識を持っていてほしいと視聴者が思うのは、致し方ないことではある。

興味の細分化に応えるために

大谷選手の活躍が目立つ反面、野球そのものが報じられる場面は少なくなってきた。地上波テレビからプロ野球中継が姿を消しつつあるなか、ファン以外の「野球との接点」は、著しい勢いで減っている。

それに加えて、人々の趣味趣向や興味関心は、多様化と細分化を繰り返している。30年ほど前であれば、人気野球選手に向けられていた憧れの目は、YouTuberといったネットの有名人へと移り変わった。すでに、お茶の間で1台のテレビを囲みながら食事する時代ではない。

興味の細分化は、すなわち情報を伝える側が、より守備範囲を広くしなければならないことを意味する。となれば、アナウンサーが「事前に学んでおくべき情報」もまた、野球全盛期とは大きく変わっているはずだ。

そのような前提に立つと、野球に詳しくない筆者としては、「そんなにアナウンサーを責めなくてもいいのでは」と感じてしまう。「割・分・厘」といった歩合は基本的な知識であることは確かだが、「猫ミームとは」といった最新情報を追いかけているうちに、記憶の片隅へと追いやられてしまっていてもおかしくない。

もちろん、ミスそのものを擁護するわけではないが、その責任をひとりに担わせるのは、筆者としてはあまりに酷だと感じるのだ。テレビ番組は、だれか1人で作られるものではない。アナウンサーやコメンテーター、ディレクターに放送作家……。ありとあらゆる人材が適材適所について、それぞれの得意分野をカバーして、ひとつのコンテンツが完成される。

今回の「打率読めない」が問題だとすれば、見つめ直すべきは、アナウンサーの職能ではなく、番組制作のチームワークではないか。そこにポカンと空いた「知識の穴」を、いかに埋めるか。テレビ番組は、まさに全員野球で成り立っているのだ。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)