前期は4期連続の営業赤字となった楽天グループ。3月28日の定時株主総会は、初めて東京・二子玉川にある本社で開かれた(記者撮影)

東京郊外の多摩川沿いに位置し、「都会と自然が調和する街」として知られる世田谷の二子玉川。曇天となった3月28日の朝、都内を代表するセレブタウンは、駅前にプラカードを手にした大勢の楽天グループ関係者が立ち並び、いつもと異なる雰囲気が漂っていた。

改札から出た人々の多くがプラカードに目をやりながら、近くにそびえ立つ高層ビルへと列をなすように吸い込まれていく。

楽天は同日午前10時から、この地に構える本社「楽天クリムゾンハウス」で27回目の定時株主総会を開いた。会場は昨年までの「グランドプリンスホテル新高輪」(東京都港区)から一変し、初の本社開催となった。

株価は年初から約4割上昇

「500円くらいのときに底値だと思って買ったら上がってきたので、結果的にラッキーだった。結局モバイルが赤字なだけで、他は好調だ」。総会開始前、約1年前に楽天株を購入したという50代の株主の男性は取材にそう話した。

楽天が2月に発表した2023年12月期決算は、売上高が前期比7.8%増の2兆0713億円、営業損益が2128億円の赤字(前期は3716億円の赤字)だった。営業赤字は4期連続となったが、懸案のモバイル事業がコスト削減や基地局整備の一巡などで改善し、前年より赤字幅は大幅に縮小した(詳細はこちら)。

23年ぶりの無配を決めた一方、モバイルの契約数が順調に増えたことや、注目されていた財務面で「2024年のリファイナンス(負債の借り換え)リスクは解消した」と説明したこともあり、その後の株価は急騰。足元では800円台後半と、年初から約4割上昇している。

コロナ後では最多となる465人の株主が来場したという、今回の株主総会三木谷浩史会長兼社長は何を語ったのか。ここからは、出席株主への取材などを基に、総会の様子を紹介していこう。

この日、議長を務めた三木谷氏は、楽天モバイルの代名詞である「ショッキングピンク」を連想させる明るい色のネクタイに、スーツ姿で登場した。総会では、前期の事業実績をビデオで報告後、株主からの関心がとくに高い「財務戦略」「モバイル」「AI(人工知能)」の3つのテーマが個別に説明されたという。


総会当日、本社周辺の様子。コロナ後では最多となる465人の株主が来場したという(記者撮影)

3つのテーマのうち、最も長い時間が割かれたのがモバイル事業だった。三木谷氏は、モバイルが巨額の投資一巡後は利益率が大きく上昇する「固定費型ビジネス」であることや、ECや金融といった他事業とのシナジー効果が期待できることなどを説明した。

そのうえで、「損益分岐点を超えるのが今年の目標だ。それを達成した暁には、最終的にナンバーワンモバイルキャリアへの道、そこから派生するソフトウェア技術による世界への進出を行っていきたい」と、強気の姿勢を崩さなかった。

楽天モバイルは2月以降、家族や学生向けの新料金プログラムを相次いで投入している。三木谷氏は「3月の申し込みが大変順調だ」と述べ、足元の契約数を「650万」と明らかにしたという。過去最多を更新した昨年末(596万、MVNO・BCPを除く)から、約50万件増えた計算となる。今後も楽天経済圏の利用者や取引先の法人を中心に契約拡大を目指す考えを示した。

財務戦略については“強気”の説明

その後の質疑応答では約30分かけ、株主からの質問に答えた。過去数年、恒例にもなっていたモバイル関連の問いはなく、株主の注目は今後の財務戦略に移ったようだった。


楽天は2024年の社債償還のメドがたったとする一方で、2025年にも約4800億円の償還を控えている。総会に約20年出席しているという株主からは、「金利負担が確実に増えていく中で、社債償還や借入金返済に向けたロードマップの詳細を説明してほしい」という質問があった。

この質問には財務担当役員ではなく、三木谷氏自ら、「金利はコントロールできないが、市場の楽天モバイルに関する信頼レベルが上がり、株価も回復基調だ。これに応じて、債券市場も信頼を戻している」と説明した。

三木谷氏は、楽天モバイルへの大型投資が一服したことに加え、キャッシュフローの改善や運転資金の効率化を理由に、「現在の社債や銀行借り入れの返済はまったく問題なく行える」と断言。「返済計画や将来的な無借金経営への布石は、しっかりした中期的プランを作ってある」とまで言い切ったという。

一方、楽天が今回無配を決めたことに不満の声も上がった。今期以降の配当の見通しを問われた三木谷氏は、「財務強化を行い、株価を上げていくことが、株主の皆様にとって1番だ」と述べるにとどめ、具体的なコメントは避けた。

10人の株主からの質疑応答を終えた後、総会は大きな波乱もなく、1時間24分で幕を閉じた。

総会では、提案された3つの議案がすべて承認された。今後の資金調達に向け、議決権や普通株式への転換権のない「社債型種類株式」を新たに発行するために定款を変更し、取締役と監査役の選任も決まった。

他方で総会後に開示された臨時報告書によると、三木谷氏の取締役再任への賛成率は82.16%と、昨年(89.50%)より7ポイント余り低下した。楽天は昨年5月に公募増資と第三者割当増資で3000億円規模の資金調達を実施している。翌月に開示された変更報告書では、直前まで34.21%だった三木谷氏による楽天の実質的な株式保有率が28.01%まで低下しており、今回の結果にも影響したとみられる。

株主が吐露した会社説明に対する不安

会社側の説明に対し、株主たちはどんな印象を持ったのか。総会終了後、50代の株主は、「モバイルは質問もなく、厳しい声はなくなりつつある。業績が改善したことで安心感が出てきている」と語った。

ただ、先行きへの不安が払拭されたわけではないという。「キャッシュフローについて質疑や説明があったが、中長期的に本当に大丈夫なのか、確信を持てない内容だった。社債償還も2025年については、説明がフワっとしていて、見えてこなかった」(同株主)。

同じく財務戦略に最も関心があったという60代の株主は、「2025年の社債償還も全然問題ないとまで言い切って、全体的に自信がみなぎっていて非常にびっくりした」と振り返る一方、「そうした姿勢とは裏腹に配当は苦しそうだし、総会の会場を本社に移したのも、経費削減ということだと思う。そういうところに、何となく財務の不安定さを感じる」とも漏らした。

山梨県から訪れたという70代の株主は「配当がゼロなら来年までに株価を1000円くらいまで上げてほしい。三木谷氏のビジョンはわかったので成果を見せてほしい」とまくしたてた。

株主らの前で、三木谷氏が言及した財務戦略の「中期的なプラン」。その一端は、総会の直後に明らかになった。

楽天は4月1日、金融事業の大規模な再編に向けた協議を始めたと公表した。今年10月を目標に、銀行、証券、クレジットカードなどの金融子会社を1つのグループへと集約することを想定しており、経営の効率化や連携の強化を進める。

業績堅調な金融事業を一体運営することで収益力をより一層高め、財務基盤の改善につなげる狙いもあるとみられる。

挑戦する姿勢に応援の声も

「国内で頑張る会社だから応援しているし、無配でももう少し我慢する。アマゾンなど海外企業にやられると税金が日本に落ちなくなる」。総会に参加した株主からは、国内のIT企業として新事業に挑戦する姿勢に対し、純粋に期待する声も聞かれた。

「将来的な大きな成長について、大変大きな自信とそれを実現する覚悟がある」と胸を張ったという三木谷氏に対し、期待と不満が入り混じる様子を見せた株主たち。長かった暗闇の先に一筋の光が見え始めた楽天は、本当にトンネルから抜け出すことができるのか。その確信度合いをめぐる両者の隔たりに、煮え切らなさも感じさせられる総会だった。

(茶山 瞭 : 東洋経済 記者)