中学受験に挑む子どもの数は過去最多水準と言われています。その一方で、根強く残る受験にまつわる「よくある誤解」。今回は「受験失敗」についてと、私立中学における「ダイバーシティ」について。教育・学習ライターの小川晶子さんが、大手中学受験塾のSAPIX(サピックス)小学部に取材、最新の「中学受験のリアル」をレポート。『SAPIX流 中学受験で伸びる子の自宅学習法』(サンマーク出版刊)から一部抜粋、再構成してお届けします。

子どもの心を守るために「全落ち」は回避する

一生懸命勉強してがんばったのに、中学受験に失敗したら大きな傷を負うのではないか。心配する気持ちは当然です。

小学生の子にとって、初めての入試で不合格が続くというのはショックが大きいものです。自信を失ってしまうかもしれません。中学受験を通じて幅広い知識や考える力を身につけ、大きく成長しているはずですが、過度に精神的なダメージを負ってしまってはよい体験とはいえなくなります。

ですからSAPIXをはじめ中学受験塾では、すべての入試に不合格=「全落ち」は回避するように受験パターンを組むことをすすめることが多いです。

落ち着いて実力を発揮するためにも、早めにひとつは合格を手にできるようにします。

 

学んだこと自体の価値は必ず残る

「中学受験という経験に失敗はない」

こう考えさせてくれたのは、JAXA宇宙科学研究所教授で、はやぶさ2のプロジェクトマネージャーをしている津田雄一さんの体験です。

津田さんは中学受験では志望校に入学できませんでしたが、中学受験に向けて努力したことが今に活きていると言います。

学んだこと自体の価値は消えることがありません。だから、たとえ全落ちしても「そのおかげで今があります」という人も多いのです。とはいえ、少なからず精神的なダメージを受ける子もいますので、受験校選びは慎重に行ないましょう。

多くの私立中学ではダイバーシティを大事にしています

さまざまな家庭環境の子が集まる公立の学校は多様性が豊かであるのに対し、私立の学校は均質化しているといわれることがあります。

たしかに私立は、その理念や特色で生徒が集まりますし、家庭環境も似ていることが多くなります。

でも、地元の公立中だから多様性に触れられるというのも単純すぎる話で、似た者同士のコミュニティにばかりいればあまり関係ありません。

SNSでのコミュニケーションが増えている今では、物理的に近い距離にいれば関係性がもてるかというとそうでもなくなっています。子どもたちは公立・私立に関係なく、仲間数人の小さなコミュニティに所属し、それぞれのコミュニティがお互いあまり干渉しないというような関係性が増えているといわれます。

せっかくさまざまな価値観をもつクラスメイトたちがいても、関わろうとしなければ理解するのは難しいでしょう。公立だから、私立だからと一概にいうことはできないのです。

重要なのは、身近に自分とは違う属性や価値観の人がいたとき、どのような姿勢・態度で関わるのかということです。

 

入試問題でもダイバーシティが問われる

今、私立中学では各学校がダイバーシティに配慮した教育を取り入れており、入試問題でも多様な価値観に触れさせるものが出題されています。

たとえば2023年の駒場東邦中学校の国語の入試問題では、日本で育ったクルド人女子高生が主人公の物語をめぐって、難民問題について考えさせています。
この例のように、数々の入試問題で日常では接したことのない属性の人の立場を想像し、その立場に立ってものを考えることを要求しています。子どもたちはこれらの問題を通じて、ダイバーシティへの考え方を身につけていくことができると考えられます。

もちろん、学校によって積極的に帰国子女や留学生を受け入れているなど、文化的背景の異なる人たちとともに学ぶ環境であることもあります。