環境への負荷低減に対する社会的意識の高まりとともに、企業にもサステナビリティ向上に向けた継続的活動がより強く求められるようになった。特にアパレル業界では、自社で衣料品の循環システム構築を進める動きが見られるようになっている。そのなかにおいて、組織内にいる社員を巻き込みながら自らの強みを生かす試みは、企業のサステナビリティ活動が加速する好例となるかもしれない。アパレルメーカー大手のオンワードホールディングスは、サステナブル経営を推進するプロジェクト 「グリーン・オンワード(Green Onward)」 の一環として、衣料品をアップサイクルする新たな活動「アップサイクル・アクション(Upcycle Action)」に取り組んでいる。このほどその第1弾として、デニムを使った作品約150点を発表した。不要になった衣料品に新たな価値を生み出すことをめざし、ファッション企業ならではのクリエーション力を生かしている。同社はこれまで衣料品循環システム構築を進めるオンワード・グリーン・キャンペーンの一環として、2009年から自社衣料品を回収しており、2023年上期までに累計約730万点、2023年度だけで約100万点を集めた。これまで回収した衣料品は主にリサイクルやリユースをしてきたが、点数が年々増加していたこともあり、新たな活用方法を模索していたという。オンワード樫山サステナブル経営グループサステナブル経営Div.の山本卓司氏は、「アパレルメーカーとして、『繊維から繊維』へのアップサイクルに取り組みたいという強い思いがあった」ことが、アップサイクル・アクション始動のきっかけになったと説明した。第1弾は、「デニム」使ったアップサイクル作品を社員から公募した。山本氏は、「ものづくりに関わる社員は通常、『ブランド』という制約の中で商品を作っている。クリエイターたちが、自分たちの思いを自由に表現できる場を作りたかった。デニムというテーマはあるが、それ以外は自由にデザインしてもらった」という。オンワードグループ全体の社員を公募対象とし、最終的にはクリエイター職以外の社員を含む22人が参加し、141点を制作した。*全149点のうちの8点は、ゲストクリエイターとして参加したnisaiの松田直己氏、Maison Shun Ishizawaの石澤駿氏とHARU氏の作品

アップサイクル・アクション第1弾のアイテム。右上が柳原祐さんの作品

第1弾のアップサイクル・アクションに参加した柳原祐さんは、1970年代のチェコ軍のスリーピングシャツから着想を得たシャツや、サイズやデザインの異なるデニムを再構築したデニムジャケットなどを作った。現在管理部門に籍を置く柳原さんは、クリエイター職ではないが、長年販売業務に携わるなかで、「服づくりにずっと興味があった」という。パターンを作成した経験もなく、製作の際には「母から借りたミシンの針を何本かダメにしてしまった」と笑うが、服づくりに携わる貴重な機会を得られたとも話した。社員を対象とすることで、ものづくりをする企業としての強みを発揮すると同時に、社員のモチベーション向上もめざした。楽天ファッションウィーク東京2024秋冬の関連イベントとして、3月14〜16日には東京・渋谷ヒカリエで作品を展示。また、作品が売れた際には、その収益の9割を社員に還元(1割は日本赤十字社に寄附)するインセンティブ制度も取り入れている。山本氏は、「『事業』としてではなく、衣料品循環の取り組みのひとつという位置づけでスタートした。サステナブル活動の一環であるため、継続性が重要だ。早ければ下半期以降には第2弾に向けた取り組みを進めたい」と話した。Written by 戸田美子