「こだわり」「ひとり遊び」といった発達障害の特性は程度の差こそあれ、明らかに健康な人にも見られるもので、一つの特性の度合いだけで診断することはできないと飯島院長。※写真はイメージ

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 近年、「発達障害」という言葉が広く知られるようになり、当事者への理解と支援が進んでいます。一方で「こだわりが強い」「癇癪」「1人遊びする」といった一部の特性がひとり歩きし、我が子の発達に不安を抱くパパママも少なくありません。改めて知りたい「発達障害」の特性と、子どもの言動が気になる時に親がすべきことを出雲いいじまクリニック・飯島慶郎院長にうかがいました。

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Q:そもそも「発達障害」とはどのような障害でどのような特性があるのでしょうか。

【飯島院長】 発達障害という言葉は有名ですが、概念や診断基準自体が時代によって変遷しています。また法律上の定義などが混在しており一般の方はもちろん、医師にとってもわかりにくい状態が続いています。総論的には以下のICD-10(国際疾病分類第10版)の定義が用いられることが多いです。

(1)発症は常に乳幼児期あるいは小児期であること

(2)中枢神経系の生物学的成熟に深く関係した機能発達の障害あるいは遅滞であること

(3)精神障害の多くを特徴づけている、寛解や再発のみられない固定した経過であること

 ICD-10においてはこれらの障害は概ね「(通常は)小児期および青年期に発症する行動および情緒の障害」という項目にまとめられています。こちらの方が一言でまとめてありイメージしやすいですね。つまり「発達障害」は、行動面の障害(不適切な行為、行動をする)、情緒面の障害(感情が不安定でコントロールできない)を特徴とします。

 発達障害の分類についてはDSM-5(「精神障害の診断と統計マニュアル」第 5 版)の診断基準の分類を用いるのがわかりやすいでしょう。DSM-5を用いた場合はいわゆる知的障害(精神発達遅滞)も発達障害に分類されますが、それ以外のものに簡単な説明を加えます。

【発達障害の分類】

▼自閉症スペクトラム障害(ASD)

対人コミュニケーションの障害と特定の物や事柄への強いこだわりを特徴とします。

▼注意欠如多動性障害(ADHD)

不注意、多動性、衝動性を特徴とします。

▼限局性学習障害(LD)

読み、書き、計算など特定の分野に極端な苦手領域があるものです。

▼コミュニケーション障害群

・社会的コミュニケーション障害(SCD)

対人コミュニケーションの障害を特徴とします。ASDと似ていますが特定の物や事柄へのこだわりは存在しません。

・流暢障害(吃音=いわゆる「どもり」)、言語障害、語員障害

「言葉」をつかったコミュニケーションがうまくいかない状態です。

▼運動症群

・チック症、発達性協調運動障害、常同運動障害

体の動きにおいて本人が望まない動きがでたり、同じ動きを繰り返したりする「運動性」の発達障害です。

 この中の3つの障害「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠如多動性障害(ADHD)」「社会的コミュニケーション障害(SCD)」というのが一般の方が思う「発達障害」のイメージでしょう。

Q:「こだわりの強さ」「激しい癇癪」「いつもひとりで遊んでいる」といった特性は、何歳までにどのくらいの症状だと「発達障害」の可能性がありますか?

【飯島院長】 それぞれの特性は下記のように理解することができます。これらは幼児期後期〜小学校低中学年ごろまでには見えてくるようになります。

こだわりの強さ… ASD特性

激しい疳積… ASDもしくはADHD特性

いつも一人で遊んでいる… ASDもしくはSCD特性

 発達障害のとらえどころのなさの大きな要因として「スペクトラム性」というのがあります。通常の病気ですと、「発症」や「治癒」というのが明確にわかるのが普通です。例えば風邪をひいているかいないかは、医師でなくても容易に答えることができるでしょう。咳がでていれば「異常」なことだとわかりますし、喉が痛いのも「異常」とすぐわかるからです。

 一方で、発達障害の診断に重要な「特性」は程度の差こそあれ、明らかに健康な人にも見られるものです。「こだわり」は多かれ少なかれ誰しも持っていますし、「強い怒り」の感じやすさ、「一人でいること」を好む程度は人それぞれでしょう。風邪の例では症状が「有る/無い」の2つに1つ(定性的情報といいます)ですが、特性の場合は「どの程度あるか」(定量的情報といいます)ということが問題になります。

 これらの特性の程度に関しては「ほとんどない人」〜「明らかに病的に強い人」まで途切れなく連続的に、さまざまな人が存在しているのが想像できるでしょう(こういうのをスペクトラム性といいます)。つまり、風邪のように明確に症状のあるなしで区切れるものではないため、人間が人工的に「これ以上特性が強ければ、病的とみなしましょう」と何処かで線引をして区切る(=カットオフする)必要があります。この人工的な区切りの線の位置(カットオフポイント)を示したものがDSM-5やICD-10といった診断基準というわけです。

 こうした事情から風邪やその他の病気と違い、診断基準を満たさないものの、何らかの困難を抱えている人たち「いわゆるグレーゾーン」という病像を持つ人がたくさん存在することになります。さらにいえばグレーの濃さも白に近いグレーな人から黒に近いグレーな人までさまざまな人がいるということです(スペクトラム性)。

 このスペクトラム性ゆえに、受診する時期(ストレスがかかる時期には症状がアクティブになります)やそれぞれの医療機関の姿勢や担当医師の解釈により、同じ個人が発達障害であると言われたり、そこまでではないと言われたり診断が揺らぐのも特徴です。

 また、「こだわりの強さ」「激しい癇癪」「いつもひとりで遊んでいる」といった一つの特性の度合いだけで診断するのではなく、それらが全体として「ASD、ADHD、SCDのそれぞれの典型例(=診断基準)」にどのくらい当てはまるかという視点でも判断していく必要があります。

 完全に満たせば確定診断となりますし、少しでも満たさなければ大抵は「グレー」とされることになります。また、一度確定診断を受けたとしても、その後の本人を取り巻く環境の変化や知性の発達により、行動に良い変化が生じて診断基準を満たさなくなり「グレー、もしくは正常範囲」と診断されなおすことも実臨床上はあると思います。

Q:「もしかして…」と気になる子どもの症状があった場合、保護者はどう対処すればよいでしょうか?

【飯島院長】 前項で述べたことと大いに関係しますが、発達障害のスペクトラム性により、診断基準を熟知している医師の間でさえ(特にグレー寄りの場合は)意見が違うことはよくあります。一般の方が判断することはさらに難しいでしょう。

 ですから、やはり医療機関を受診して意見を聞くのがもっとも望ましいと思います。医療機関以外の支援機関もありますが(例えば行政が行う子育て相談、地域の教育センター、発達障害者支援センター、スクールカウンセラー、開業している心理士など)、それらは発達障害の診断をしてくれるわけではありません。

 実は「診断」というのは法律上医療行為に分類され、医師以外のものがそれに近いことをすると医師法違反となってしまうのです。このためそれらの機関では一番知りたいはずの結論の部分を、ぼかして伝えざるを得ないという事情があります。そのためと思いますが、相談した保護者のほうは煙に巻かれた気分になったという話をよく耳にします(これらの相談機関は医療機関で診断がついた後にはそれに沿ってたくさんのアドバイスをくれるでしょう)。

 医療機関受診の目安としては「誰かが困っているかどうか」を基準にするといいでしょう。たとえば「親が困っている、保育園・小学校が困っている、友達や本人が困っている」ということです。なぜなら発達障害診断の大前提には、「症状が本人の社会適応を邪魔している」ということが必要だからです。いくら変わった症状があっても本人と社会が十分受け入れ可能なものならば、それらは単なる「特性や性格」にとどまり、普通は障害とは捉えないからです。

 そうしたことを踏まえて児童精神科(精神科系)や小児神経科(小児科系)といったところを受診することになりますが、これらの専門科は絶対数が非常に少なく、地域によっては予約すら取りづらいのが現状です。アクセスが悪い場合は、やはり身近な小児科に相談して大まかな意見を聞くことが、もっとも現実的な対処になると思います。

飯島慶郎(いいじま・よしろう)

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック 院長。心療内科医、臨床心理士、総合診療医、内科医、漢方医、産業医など、マルチドクターとして活動。得意とする分野は「心身症・不定愁訴」に対する漢方薬・向精神薬・心理療法・ケースワークを統合した総合的対人援助。心身の軽微な不調を入口にクライアントの「人生そのもの」を癒やすことを実践。近年は特に不登校診療に特化し、多くのこどもたちを改善に導いている。